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『下町ロケット ヤタガラス』 [池井戸潤]

下町ロケット ヤタガラス

下町ロケット ヤタガラス

  • 作者: 池井戸 潤
  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 2018/09/28
  • メディア: 単行本
内容紹介
2018年10月放映、ドラマ「下町ロケット」(TBS日曜劇場)新シリーズの原作小説『下町ロケット ゴースト』に連なる、「宇宙から大地」編、クライマックスへ――! 
社長・佃航平の閃きにより、トランスミッションの開発に乗り出した佃製作所。果たしてその挑戦はうまくいくのか――。
ベンチャー企業「ギアゴースト」や、ライバル企業「ダイダロス」との“戦い"の行方は――。
帝国重工の財前道生が立ち上げた新たなプロジェクトとは一体――。そして、実家の危機に直面した番頭・殿村直弘のその後は――。
大きな挫折を経験した者たちの熱き思いとプライドが大激突!
準天頂衛星「ヤタガラス」が導く、壮大な物語の結末や如何に!?
待望の国民的人気シリーズ第4弾!!

テレビドラマが始まる前に、原作は読み切ってしまおう―――ということで、出たばかりの続編、さっそく読み切った。テレビドラマを見ることはないが、ドラマのキャストを確認した上で、彼ら彼女らの姿をイメージしつつ、読み進めることができた。島津役はイモトアヤコか。まあ確かにそうかもな~。

ストーリーとしては面白い。佃製作所としては新規事業を軌道に乗せられるところまで持って行けたという点ではしっかりした成功譚になっている。池井戸作品の良さは勧善懲悪にあるので、帝国重工内の「悪」の部分や、佃製作所を辞めて実家の父のコメ作りを継いだ殿村に忍び寄る「悪」が、最後はお返しを喰らうところは溜飲を下げる。

池井戸潤が初めて描いた農業というのもいい。実はこの人工衛星と農業をつなげる発想には数年前に少しだけ関わったことがあり、多少予備知識があったので、『ゴースト』を読んでた頃から、『ヤタガラス』の展開が想像できていたところもあった。期待通りだったと思う。面白かった。

考えてみればなるほどなと思ったのは、トラクターの自動運転化が進めば、夜であっても農作業ができるというのには気付かなかったし、また農作業中に土壌データの収集も行って、農家が感覚に頼ってやっていた部分を数値で可視化して、誤差の是正が可能になるとか、まさにそうだなと関心させられた。

一方で、これまでの池井戸長編作品の多くでは出てくる、追い詰められた人々の心の内の描写のようなものは少ない。「悪」が逆転を喰らって追い詰められていく部分の描写は意外と少なく、佃航平に至っては話の展開を割と客観的に見ている。佃製作所自体の業績が大ピンチに陥るわけではないので、余裕が感じられる。『ゴースト』の時はギアゴースト社の社長、『ヤタガラス』では帝国重工の次期社長候補が主人公かと思わせられるところもあった。今回の佃製作所には一貫して余裕が感じられた。

また、『ゴースト』で退場させられた弁護士が『ヤタガラス』では復活してきたり、北海道農業大学の教授から技術コードを盗用した疑いのある企業が何の制裁も受けなかったりと、「小悪」に対する扱いの手ぬるさもちょっと感じるところはあった。要すれば、「倍返し」がないのである。

そういう、枝葉末節の部分の描き方には多少の違和感は覚えなくもなかったけど、でも、終盤のクライマックスシーンでの佃航平の演説が迫力あったし、思わず目頭が熱くなった。そういうカタルシスがある池井戸作品は、やっぱりいいなと思う。

奇しくもこの作品を読んだ週末は、関東地方にも台風が襲い、東京の我が家の周辺にも被害があったと聞いた。収穫直前だった米作農家の皆さま、大丈夫でしたでしょうか。


タグ:農業 ICT
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