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再読『山に生きる人びと』 [宮本常一]

山に生きる人びと (河出文庫)

山に生きる人びと (河出文庫)

  • 作者: 宮本 常一
  • 出版社/メーカー: 河出書房新社
  • 発売日: 2011/11/05
  • メディア: 文庫
内容(「BOOK」データベースより)
山には「塩の道」もあれば「カッタイ道」もあり、サンカ、木地屋、マタギ、杣人、焼畑農業者、鉱山師、炭焼き、修験者、落人の末裔…さまざまな漂泊民が生活していた。ていねいなフィールドワークと真摯な研究で、失われゆくもうひとつの(非)常民の姿を記録する。宮本民俗学の代表作の初めての文庫化。

本書は、2012年2月以来の再読。その6年後の今年2月、わけあって『海に生きる人びと』を読んだが、それ以来の宮本常一である。今さら読みたくなったのは、ちょっと前にタシヤンツェの木地工について取り上げる記事を書いたのがきっかけ。そういえば、今これだけの山岳国にいるのに、山の人々の暮らしを見るためのものさしがない。日本の「山の民」ってどんな暮らしをしていたのか、どこから来てそこに住み着いたのか、あるいは住み着かずに移動する民なのか、どんなものが山の民の道を辿って交易されたのか等、日本のことを改めて学び直しておこうと考えた次第。

それでいい復習になったかというと、ちょっとはなった。例えば、なんでブータンの農村の民家は点在しているのかという素朴な疑問。日本の平野部育ちの僕には、民家が集まって集落が形成され、その周辺に田畑が展開しているというのが一般的な姿だった。勿論ブータンの農村部にも集落もあることはあるが、一方で急斜面に張り付いて農地が開けているようなところでは、意外と民家は相互に離れて形成されている。山間地での集落形成のプロセスを考えてみる上で、日本の山間地はどうだったのかを知っておくのは重要なことだが、逆に日本がどうだったのかを先に知っておくと、山間地の住民生活をもう少し立体的に捉えられるようになれるかもしれない。今さらだけれど、ブータンを見る眼をリフレッシュするにはこういう本もたまに読むのはいい。

それとともに興味が湧いたのはブータン高地民の生活。中国と国境を接するラヤやルナナ、リンシーなどには高地民が住むが、遠隔地過ぎて行政サービスも行き届かず、冬の寒さも厳しいので、冬場はプナカやパロ、ティンプーに出てきている人も多い。そうやって高地に住まなくなってくると、国境線維持するのも大変になってくる。政府はなので高地民支援を重要視していて、毎年10月にはハイランド・フェスティバルを開いて高地民をハイライトしようとしているし、政府の開発計画でも高地民支援は必ずといっていいほど言及されている。

要は高地民には高地に住んでいて欲しい。でも、高地民からすると、中山間地の生活の方がまだ楽だから、機会があれば出て来たいという気持ちは強いだろう。

本書の中で、宮本はこんなことを書いている。

 ダムで沈む村の人たちが絶対反対して移住をこばんできたのが、新しい移住さきへおちついてみると、もうもとの山への愛着はほとんどなくなったという話はよく聞く。昭和36年7月の集中豪雨で大きな災害に見まわれた長野県天竜川東海岸山中の村々でも、そこにはとうてい住める見込みもなくて、天竜川西岸の駒ヶ根市や伊那市へ移住した者もすくなくなかったが、それらの人を移住さきにたずねてみて、いずれも移住してよかったという感慨をもらしているのは印象にのこった。わずかばかりの畑を耕し、山林労務にしたがっているよりも、土地を持たず、その日働きの生活に不安はあるとしても、ここにおれば子供を一人前に学校へ通わすことができるだけでもありがたいといっていた。

子どもを学校に通わせたい、中山間地の子どもたちと比べて、我が子が不利を被らないようにしたい、そんな親の気持ちは、日本人であってもブータン人であっても変わらないと思う。政府が言うような高地民支援の中でも、最も重視すべきは高地の子どもたちの教育ではないかと改めて思った。冬が長く厳しい高地では、中山間地の学校よりも冬休みが長い。その分ちょっとだけ夏休みが短くなっていると聞くが、高地の学校は11月20日頃から冬休みに突入し、3月上旬まで続くというから、日数的には中山間地の学校よりも圧倒的に不利であることは言うまでもない。

ではこのクソ長い冬休みの間、高地の子どもたちはどうしているのかと思い、ちょっと調べてみた。どうやら高地の人々はラヤやルナナだったらプナカ、リンシーはティンプー、パロあたりにもう1つの生活拠点を持っており、冬場は「下界」に下りてきているのだという。だったら、そういう世帯の子どもたちに冬場の補習を行うような特別教育プログラムが作れないだろうか?そんなことを考え始めている。

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