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文学祭、雪男に光を当てる [ブータン]

イエティとその存在を巡る伝説
Yeti and myth surrounding its existence
Kuensel、2018年8月27日、Rinchen Zangmo記者
http://www.kuenselonline.com/yeti-and-myth-surrounding-its-existence/

毎年この時期になると、「マウンテンエコー文学祭」のセッションのレポートが紙面を飾ることが多い。たいていは欧米人が出した英文の本の宣伝のようなトークセッションなわけだが、そんな中、今年は初日のセッションで「雪男」を取り上げた本の著者が登壇し、会場を盛り上げたらしい。

Yeti: The Ecology of a Mystery

Yeti: The Ecology of a Mystery

  • 作者: Daniel C. Taylor
  • 出版社/メーカー: Oxford Univ Pr
  • 発売日: 2017/10/30
  • メディア: ハードカバー
内容紹介(手抜きで和訳を省略します)
This book explains the mystery of the Yeti or Abominable Snowman, the creature that has left mysterious footprints in Himalayan snows. The book also explores why people are so fascinated with the possibility that a wild hominoid might still reclusively live (the idea of a wild humanity alive in people's hopes). Here also is the extraordinary story of one man's conservation impact-a quest for mysterious animal caused him to lead in creating two massive national parks around Mount Everest, one in China/Tibet and one in Nepal.
This book narrates how the author explores much of the 2,000-mile breadth of the Himalaya, from his childhood in India to his work years in Nepal, China/Tibet, and Bhutan. From 1956 until 2015 he visited almost all valley systems. The book recounts his ascents of Himalayan summits and even a first descent of a major river, Nepal's Sun Kosi.
This book not only explains scientifically the Yeti and describes a range of Himalayan animals and plants, it also brings forward a wide scope of ecological understanding. Significant among these is the author's postulate about bioresilience as a parallel dynamic to biodiversity. Additionally, the author explores what it means (and how important it is) for people to be part of 'the wild' in today's increasingly domesticated world. Taylor's breadth of Himalayan knowledge is massive, the story captivating and full of surprises-and what he has accomplished includes 'discovering' the Yeti as well as creating two huge national parks.

なんと天下のオックスフォード大学出版会が出している由緒正しい本らしい。著者はちゃんとした学者さんらしく、ヒマラヤ生態系研究の第一人者のようである。1990年には当時王国だったネパールで国王から勲章を授与されている。手抜きで和訳を省略しちゃった本書の内容をちょっとだけ補足すると、著者が踏査したのはネパールとチベットで、ブータンではない。

なので、ブータン好きの読者がわざわざ原書を買ってまで読むべき本だとは思わないが(英語で400頁近くもあれば僕でもなかなか手が出せない)、このクエンセルの記事を読むと、トークセッションで彼と一緒に壇上に上がったツェリン・タシというブータン人作家が、ブータンの雪男に関してこんなことを述べている。

・ブータンでの雪男調査は、1987年、1991年、2001年、2007年の4回行われている。
・この4回の調査では、雪男の存在について確たる証拠は得られていない。
・最も最近の調査では、雪男の足あとだと信じられていたのは、どうやら羊の足あとだったらしい。
・この調査の様子は、映像撮影されていて、今年10月19日に英国で公開されるらしい。
・雪男は「イエティ」「ヨウイー」「ビッグフット」等の名前があるが、
 ブータンでは「ミゲ(強い人)」として知られ、東部の遠隔地では、雄は「ドレポ」、
 雌は「ドレモ」と呼ばれている。
・ブータンには、雪男が棲息できるよう約750平方キロメートルの保護区が設置されている。
 雪男の存在を信じていないなら、希少な国土を雪男のために保護区にしたりはしない。

ついでながらこのツェリン・タシという「作家(Author)」についても調べてみたところ、随分前にブータンの自然資源について1冊著書があるようである。多分、第一線で活躍された時期がダニエル・テイラーとほぼ同じで、当時から接点もあったであろうが、どうりで昔の雪男調査のことまで語れるわけだ。

Bhutan and Its Natural Resources

Bhutan and Its Natural Resources

  • 作者: Tashi Tshering
  • 出版社/メーカー: Stosius Inc/Advent Books Division
  • 発売日: 1992/09/01
  • メディア: ハードカバー

ただね、異論はある。ツェリン・タシ氏によると、最後の雪男調査は2007年となっているが、それでは高野秀行氏が2010年に実施した生物資源調査って何だったんだろうかと。勿論、UMAハンターの高野氏が狙っていたのは雪男であったものの、ブータン入国の名目は生物資源調査だったわけだから、公にはしづらかったのかもしれないが。そのあたりのことは、彼の著書『未来国家ブータン』では詳述されている。ツェリン・タシ氏が述べているようなことは、高野氏の著書には出てくる。

『未来国家ブータン』過去の紹介記事はこちら。
https://sanchai-documents.blog.so-net.ne.jp/2013-02-08
https://sanchai-documents.blog.so-net.ne.jp/2018-07-21-1

重ね重ねも残念なのは、ヒマラヤの雪男ものなら、高野秀行『未来国家ブータン』、角幡唯介『雪男は向こうからやって来た』あたりが非常に詳しいのに、悲しいかな日本語でしか出ていないから、マウンテンエコーのような場所での光が当たらないということである。『未来国家ブータン』は、英訳されたら「高野は生物資源調査と称してこんなことをやっていたのか!」と顰蹙を買いそうなので難しいとは思うが、『雪男は向こうからやって来た』はルポとしては非常に面白かったし、英訳されていれば、ダニエル・テイラー登壇のいい対抗馬になれるような内容だったと記憶している。

タグ:イエティ
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