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『清沢冽』 [読書日記]

清沢洌―外交評論の運命 (中公新書)

清沢洌―外交評論の運命 (中公新書)

  • 作者: 北岡 伸一
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2004/07/01
  • メディア: 新書
内容(「BOOK」データベースより)
『暗黒日記』の著者として知られる清沢洌は、戦前期における最も優れた自由主義的言論人であり、その外交評論は今日の国際関係を考える上で、なお価値を失っていない。石橋湛山、馬場恒吾ら同時代人のなかでアメリカに対する認識が例外的に鋭くあり得たのはなぜか。一人のアメリカ移民が邦字新聞記者となり、活躍の舞台を日本に移してから、孤独な言論活動の後に死すまでの軌跡を近代日本の動きと重ねて描く唯一の評伝。

先月何度か言及した「人からいただいた本」というののシリーズである。但し、この本は、先月僕に多くの本を譲って下さった方とは違う方から手渡された本である。「ゆっくり読んで下さい」と言われていたので、本当にゆっくりしていたら、気付けば1年が経過してしまっていた。いくらなんでもその方に対して失礼なので、慌てて読み始めた。渡された本はもう1冊あるが、バック・トゥ・バックで読んで紹介したりすると、僕の素性がばれる大きなヒントになってしまうので、読んだとしてもブログで紹介するかどうかはわかりません。

いろいろな読み方があると思うけれど、僕は大人の読者向けに本気で書かれた伝記として読んだ。伝記の類は小中高生時代に結構読んだが、子供向けだからやさしく書かれていたし、ましてや著者が本気で史料を探して、読み込んで書かれていたわけではなかった気がする。この手の伝記は以前、白洲次郎大川周明星新一渋澤敬三と宮本常一孫正義等を読んできたが、ジャーナリストやノンフィクション作家ではなく、学者が書かれた伝記というのは、多分初めてじゃないだろうか。

それくらい、新鮮だった。白洲次郎や大川周明なら、他にも評伝が出ているのでその気になればさらにその人となりを知ることも出来るし、ある程度人との会話の中で話題として出てくる可能性だってあると思うが、はっきり言ってこの清沢冽という方のことは、他に類書があるわけでもなく、ほとんど唯一に近いのが本人の著書『暗黒日記』だけである。普通のノンフィクション作家ならこの『暗黒日記』だけを熟読してある程度の評伝を書いてしまうのだろうが、外交史専門の研究者だけあって、史料の調べ方が非常にきめ細かい。勿論、清沢の家族や子息、それに友人には直接聞き取りをされたふしがあるし、昔の文集のようなものまであたっている。そして、おそらくは米国の国立公文書館などにも相当入り浸って細かく調べられたようである。


下世話な話になってしまうが、この本を書き上げるために費やした時間と費用は、いかほどのものだったのだろうかと気になってしまった。ちゃんとそうした研究助成金をどこかからもらってやられたのには違いない。僕などから見れば、学術的に価値があるような評伝としては1つの理想形のように思えるので、これぐらいのことをやろうと思ったら、何をどう調べたらいいのか、資金はどうやったら確保できるのか等、知りたいことがいろいろある。

そうした方法論の話は置いておいて、この清沢冽という、大正から昭和、太平洋戦争末期までを生きた外交評論家の生涯に話を戻すと、そうそう魅力ある人物には思えないというのが正直なところであった。最初から評論の道で食っていこうという指向を持ってキャリアアップを進めて来られている一種のあざとさ、それをこの人の評伝からは感じる。一時的に挫けたところはあったけれど、ほぼ一貫して経済大国としてのアメリカとの対決には反対の姿勢を貫いてはおられた。その点は評価できるのだけれど、ちゃんと耳を傾けてもらえない何かがあったのではないかという気もしてしまうのだ。

ということで、清沢冽という人の人となりはともかくとして、伝記・評伝のあり方の1つの理想形として、本書は参考になった。とはいっても、誰の伝記を書こうとしているのかと訊かれても困るが(笑)。ということで、雑駁な記事をここいらで終了させていただく。

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