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『データの見えざる手』 [仕事の小ネタ]

データの見えざる手: ウエアラブルセンサが明かす人間・組織・社会の法則

データの見えざる手: ウエアラブルセンサが明かす人間・組織・社会の法則

  • 作者: 矢野 和男
  • 出版社/メーカー: 草思社
  • 発売日: 2014/07/17
  • メディア: 単行本
内容(「BOOK」データベースより)
人間の行動を支配する隠れた法則を、「方程式」に表す。ヒューマンビッグデータがそれを初めて可能にした! 時間の使い方・組織運営・経済現象など、人間と社会に関する認識を根底からくつがえす科学的新事実。科学としての確立と現場での応用が同時進行し、世界を変えつつある新たなサイエンスの登場を、世界の第一人者が自ら綴る!

昨年12月、サンディ・ペントランド『ソーシャル物理学』という本を紹介した。一見意味のないような微妙な身体運動の大きさやタイミング、たまたま誰の近くにいたか、たまたま何を目にしたか、などに関連する「データのパンくず」に、社会を理解するためのお宝が含まれているという趣旨の本で、しかも技術畑の人間でない僕のような読者にでもとっつきやすく書かれた良書だと述べている。

同じような趣旨のものを、技術畑の読者向けに書くと、本日ご紹介するような本の内容になっていくのかと思う。日立製作所中央研究所がやった「ビジネス顕微鏡」研究については、西垣通『集合知とは何か』など、これまで読んできた文献の中でも度々紹介されてきたが、本書はその研究の当事者が執筆したもので、よりその実験そのものの背景や実施概要、結果についての考察などが詳述されている。読みごたえは当然あるが、技術畑の人じゃないと理解しづらい記述も多くて、読みにくくもあった。

ただ、それらの実験の結果から見えてくるものについてはかなり示唆に富んでいるとも思った。

例えば、ブータン駐在なら当然話題によく上る「幸福度」についてであるが、幸せのおよそ半分は遺伝的に決まってくるというのがこれまでの研究で明らかになっているらしい。そして遺伝的に影響を受けない残りの半分の部分について、人間関係、金銭的事情、健康状態などを含む環境要因が幸福度に与える影響は10%程度だという。僕たちはこの環境要因を改善することで幸福度を高めようと努力しているが、実際はそれほど幸福感には効いて来ないということらしい。では残りの40%はというと、それは日々の行動のちょっとした習慣や行動の選択の仕方、特に、自分から積極的に行動を起こしたかどうかが重要なのだという。「行動の結果が成功したか」ではなく、「行動を積極的に起こしたか」が幸福度を決めるのだそうだ。そして、社員の幸福度が高い企業は、会社としても儲かっているという研究成果もあるらしい。

では、社員の幸福度を上げる施策の有効性を計測するにはどうするかというと、そこで本書の言うウェアラブルセンサー技術が出てくる。加速度センサーを内蔵した名刺サイズのセンサーを毎日装着して社員に仕事してもらい、データを蓄積することで、人はより幸せになると、動きが増えるという傾向を見出すことができたのだという。そして、そこで得られた示唆をもとに、コールセンターのオペレータを対象に、休憩中の会話を活発にするための休憩シフトのあり方を見直したら、受注率でみた場合のオペレータの生産性が上がるという成果も得られたという。要するに、活発な現場ほど生産性が上がるという、聞けば当たり前に思えるような結論を、ビッグデータに基づくエビデンスとして導き出しているのである。

これって、ある意味、自分が今の職場でやっていること、やっていないことによる生産性への影響度ということでの示唆は結構大きいように思う。

もう1つは、この身体運動の活発度が、人から人に伝染するらしいということである。周囲の人たちが活発だと自分も活発になりやすく、周囲の人たちの身体運動が停滞すると、自分も停滞するというのも。ビッグデータの計測と分析で確認されているという。これも、僕自身が今の職場でやっていること、やれていないことからすると影響度はまだら模様になっていると言わざるを得ないけれども、もし今の職場が停滞気味だと思ったら、自らも身体運動を停滞させるというより、自ら振り絞って元気であるよう振る舞うことが必要なのだろうなというのは思った。

さらに面白かったのは第1章で、人の1日24時間における、様々な活動の時間配分は、本人が意識していなくても、だいたい決まっているというのが、人の活動をウェアラブルセンサーで計測していてわかったことだという。要するに、いくら論文執筆に集中しよう、テスト直前になってテスト勉強の追い込みをかけようと思っても、1日の中でその活動に集中できる時間は限られているということで、それでも無理してやろうとすると、結局寝てしまったり、読み物していても頭に入らなくなってしまったりするということらしい。物事に集中できなければ、集中している時とは必然的に身体の動きが変化するのだろうという。

だから、残業しても能率は上がらないし、直前になって慌てて詰込み勉強をやっても効果は出ない、毎日コツコツ続けた者の方が成果が得られるし、残業するぐらいならいったんはオフにしてみた方がいいアイデアが浮かんでくるということなのだろう。

こうやってエビデンスを示されてしまうと、仕事を放ったらかしにして午後5時に退社してしまうブータンの職場の人々、昼休みの他に、午前と午後に1回はティーブレイクを設けているブータンの職場の人々の行動パターンにも一理あるような気がしてしまうから困る。それじゃいつ集中して仕事しているのかと思って観察してみても、それもよくわからなかったりするのだが(苦笑)。また、朝8時から夜7時近くまで働いている自分に、「事は急を要するのだからこれもやれ」と言われても、ろくな成果品は出てこないという抗弁の材料にもし得るかもしれない。

難解だが、得られた示唆には納得いくものはある気がする本であった。

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