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橋開通の後に考えるべきこと [ブータン]

日本の無償資金協力で建設が進められてきた東西ハイウェイのチュゾムサ、ニカチュ、ザラムチュの3橋が全て完成し、28日に最後のチュゾムサ橋が、在ニューデリー日本大使館の平松大使の手により、ブータン政府に引き渡された。翌29日のクエンセルはチュゾムサ橋にまつわる記事が多かった。

◇◇◇◇

チュゾムサ橋、通行可能に
Chuzomsa bridge opens to traffic
Kuensel、2018年6月29日、Phurpa Lhamo記者(ワンデュポダン)
http://www.kuenselonline.com/chuzomsa-bridge-opens-to-traffic/

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二国間をつなぐ橋
Bridging Japan – Bhutan relations
Kuensel、2018年6月29日、Kota Wakabayashi(JICAブータン事務所)
http://www.kuenselonline.com/bridging-japan-bhutan-relations/

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ここではあえて記事の要約は紹介しない。ティンプーからワンデュポダンの町を経てさらにペレラ峠、ポブジカ方面に向かう人が、最初に渡るのがこのチュゾムサの橋である。ワンデュポダンの町から20分ほどで通過する。

この橋は非常に複雑な構造になっていて、写真にあるようにカーブがかかっているだけでなく、横から見ると勾配もある。加えてこの切通しである。工期の最初の1年ぐらいは、この山の尾根の岩を切って切通しにする作業だけで費やされたのではないかと思う。元々この尾根は後方にある山中の集落から国道にまで出てくる歩道になっていたそうだが、切通しができたことでその歩道も遮断された。でも、そこに手すり付きの階段が据え付けられたので、むしろ歩きやすくなったのではないかと思われる。

日本の橋梁工学の粋を凝らしたその設計は、早くからブータン人の間でも話題に上っていた。少し前にパロ空港の北側のパロ川に別の橋が架かったが、橋自体の出来はともかくとして、問題はアクセス道路と橋の連携で、あの90度のクランクは相当減速しないとセンターラインを跨がずに通行することができず、ブータン人自身がボロクソ言っている。最近はひどい出来だとの新聞投書まで掲載された。橋の設計をやる人は橋のことしか考えないし、道路の設計をやる人は道路のことしか考えない。両者の連携がないと、部分最適にはなっても、全体最適は実現できない。まさにパロの新橋がそれを物語っている。

それとの比較で、日本が建設を手掛けた3橋は、いずれもアクセス道路が滑らかなカーブを描いて橋に入って行けるので、さほどの減速も不要で、かつセンターラインをはみ出ることもない。橋梁建設というのは橋だけではなく、アクセス道路も含めたトータルでの設計の出来がものを言うというのを実感させられる。

今日ご紹介したもう1つの記事は、JICAの現地事務所の所員の方が寄稿されたもので、チュゾムサ橋の建設にまつわる秘話がそこに込められている。施工を請け負った大日本土木で、親子二代にわたって橋梁建設に携わったブータン人技術者の話である。構造物はいったん出来上がってしまうと、その建設にまつわる様々なストーリーが忘れ去られてしまう。大日本土木はこのチュゾムサ橋の完成により、これまでのブータンでの橋梁建設の実績が22橋にも達したが、各々の橋にそれぞれ誕生秘話があったに違いない。そういうのを掘り起こして光を当てる、初めての試みとして注目したいと思う。

こうして橋が完成してブータン政府に引き渡された後、施工業者と施工管理業者の仕事はそれでおしまいとなるし、日本政府としてもそうだと思うが、これからが始まりとなるのが橋梁の維持管理である。建設過程においてはあまり現場にも来ずに日本の施工業者から学ぶ機会も少なかった政府関係者だったようだが、維持管理となると公共事業省や所管の地方道路事務所の責任となってくる。ちゃんとやるよう期待したい反面、元々人材が少ない政府でそれができるんだろうかと気になる。

そこで僕が考えるのは、いっそのこと橋梁のモニタリングをオープンにして、通行人にも橋の様子を見てもらい、不具合あれば知らせてもらうような仕掛けである。勿論、交通がスムーズになるということは、放っておいたらほとんどの車両がスムーズに通過してしまい、わざわざ止まって見てもらうということも難しくなる可能性があるということだ。車で通行する人に、この橋で止まってもらうような仕掛けを用意することが望ましい。

トイレを設置したらどうかというのは以前も別の記事で述べたところだが、チュゾムサ橋の周辺のランドスケープを見渡すと、どうしても気になるものがある。1つは切通しの両側の壁面である。ここにでっかい壁画でも描いたら、それ自体が観光名所になるんじゃないだろうか。勿論、ワンデュ方面から向かって左側の壁は、それに見とれて運転を誤る輩が出てきそうだから危ない。注目したいのはむしろ右側の壁で、ここに壁画でも描いたら、その全体像を見るには切通しを階段で登って少し上から見下ろすようにでもしないといけないから、確実に数十分の滞在が必要になる。しかもこの階段の上はピクニックなどするにはちょっといいポイントだ。

そうすると車を止めるスペースも必要となるが、それは既にある。上に載せた写真にも写っている通り、チュゾムサ橋のすぐ横に、車を止められるスペースがある。ここの護岸を少し補強して、この上で小さな「道の駅」でもやれたら面白いのではないだろうか。「道の駅」というのは言い過ぎかもしれないが、コーヒーショップや後背地の農産品の直売所みたいなものをここに置けば、「道の駅」にかなり近いことができるようになりそうだ。そこにトイレ設置というのもできそうだし、チュゾムサ橋の建設秘話をそこで立て看板にでもしたためて、通行客に読んでもらうようにしたらよい。

日本も22橋も作っているんだったら、日本の「ダム・カード」にならって「ジャパニーズ・ブリッジ・カード」でも作り、マニアに集めさせるよう仕向ける―――なんて遊び心もある面白い仕掛けも展開してみたらいいかも。そうやって人の目に触れるようにできたら、橋に何かあったらすぐに道路局に連絡が入るようにもなり得るだろう。

壁画制作にしても、道の駅開設にしても、全部が全部政府がやらないといけない仕事でもないように思う。何年か前にこのチュゾムサの近くの学校で、日本の絵画コンクールで入賞作品を描いた生徒がいたと聞いたが、そういう、ちょっと他の学校よりも美術教育に力を入れていそうな地元の学校を巻き込んだら壁画を描けそうだし、ちょっと子供にやらせるのは危ないのではないかというのであれば、ティンプーのVASTあたりの新進気鋭の芸術家にでもやってもらうというのでもいいかも。また、このくらいの規模の道の駅なら、日本の地方で直販所展開でノウハウを持っているようなNPOでも協力してもらえそうなところではないかと思う。

いずれにしても、狙いは官民連携(PPP)になる。民間のノウハウを活用できる余地が相当あると思うし、公的資金である必要も必ずしもないと思う。なんか、ワクワクするようなファイナンスのスキームでも提案できたらいいんだけど、僕1人の知恵では限りもあるので、このアイデアはオープンにさせていただきます(笑)。

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