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『小さな企業が生き残る』 [仕事の小ネタ]

小さな企業が生き残る

小さな企業が生き残る

  • 作者: 金谷 勉
  • 出版社/メーカー: 日経BP社
  • 発売日: 2017/12/15
  • メディア: 単行本
内容紹介
5年で売り上げを12倍に増やした例も!
苦境に陥った中小企業を再生させてきたデザイン会社の社長が“生き残り”ノウハウを伝授する。
優れた技術を持ちながら、メーカーの海外移転や後継者不足などの影響で危機に瀕している中小企業は少なくない。今、オリジナル商品とそれを実現するデザインの力によって復活する中小企業が注目されている。仕掛けているのは、デザイン会社を経営する金谷勉氏。金谷氏が手がけた成功事例を通して、中小企業が生き残るための方法を解説する。

この週末、意識的に「抜く」努力をしていたので、読書に相当な時間をあてた。ブータンネタを期待されている読者の方には申し訳ありませんが、どうしても一回は「息抜き」した方がいいと思った。

何か気軽に読める本をキンドルでダウンロードしようと考えて、ふと出会ったのが本日ご紹介の1冊であった。版元が日経BPということは、少し前にご紹介した渡辺和博『地方発ヒットを生む逆算発想のものづくり』と同じ。従って、著者の論点もすごく似通っていて、「商品はつくって終わりではなく、きちんと売って、買い手に届いて初めて商品となる。いわば商品をデザインするということは単に設計して色や柄を決めるだけではない。それをどう見せて、どういう売り場でどう売ってもらうか。きちんと出口を見据え、企画から流通までを考えて動く、いわゆるコト(技術)・モノ(意匠)・ミチ(販路)の一連を「考動」(考えて動く)していくことがデザインである」というのも、渡辺和博著の論点「逆算で考えろ」というのを別の形で述べているように思える。

本書はアマゾンの読者書評でもなかなかの高評価を得ている。確かに、第1章「倒産・廃業のピンチから、生き残りの「手」を見つけた」に挙げられている4つの事例は、各々非常に示唆に富んでいて、読んでいて引き込まれた。著者の経営するデザイン会社が実際に手がけた中小企業再興のストーリーであり、このケースストーリーだけで紙面の半分を費やしているが、本書の価値もこの前半にあるように思った。そして、ブータンで小規模零細企業を見ている自分にとっても、得られるものが幾つかあった。

第1に、福井県鯖江市の眼鏡材料商社が眼鏡フレームの素材を生かして「ミミカキ」を開発した話は、鯖江市に昨年、ブータンから研修生が10人ほど訪問しているので、この会社にまで行ったかどうかはわからないけれど、鯖江の話のネタとして、キープしておきたいと思う。

第2に、静岡県熱海市の建具製作木工所のケースや、京都の竹工芸職人のケースは、同じような産業がブータンにもあるため、おそらくブータン人に聞かせるには最も適した事例だろう。前者の場合は、建具屋なので木材をまっすぐ切る技術しかないが、これにレーザー加工機を用いて製作したまな板がヒットしたという話である。ヒノキはあまりブータンでは使われていないけれど、レーザー加工機はあります。

後者は、京都伝統工芸大学校で竹の編組加工を習った女性職人の話。 竹もブータンにはあるし、ほとんどが編組加工で仕上げられる。しかも、京都伝統工芸大学校に留学するブータン人の話もよく聞く。なので、この女性職人がヒット商品を世に出すまでのストーリーは、かなりブータン人にはささる内容だと思う。「伝統工芸の職人はこれまで自分たちの持てる技術で、優れた一品を生みだすことに全てを注いできました。半面、「売る」という発想ではモノをつくってこなかった。工芸の師匠たちや工芸の専門学校も、技術は伝えてきたのですが、社会に出てどう食べていくのか、自分たちの技術をいくらで売っていくのかは教えてきませんでした。」

真水のままでは、井戸の中の環境は静かなまま。なにも変わることなく保たれていきますが、同時になんの変化も起こらないし、まして進化も起こりません。別のところから水を引いて、いい淀みができると多様なものが交じり合う。それが新たな変化を引き起こし、進化につながっていくものです。その意味では、伝統工芸の人たちは異業種の人たちともっと交わって、互いに刺激し合ってほしいと思います。

技術だけではなく、技術を活かして生計を立てていくには、どれくらいの仕事をいくらで請け、価値を上げていくにはどうすればいいのか。今の工芸の業界をとりまく様々な環境では、そういった生活するうえで必要な情報を学べる機会も少なければ、そもそも工芸の学校にも教える仕組みがありません。知らないまま世の中に放り出され、技術だけを持って独立せざるを得ない今の状況のままでは、職人たちの過酷な状況は変わっていかないだろうと感じています。

もし、買ってもらいたいと思うなら、今の暮らしの中で使ってもらえるモノをつくりたいと思うなら、やっぱり届けたい相手のことを十分に考える必要があります。相手のことをよく知らないと、つくることは難しいのではないでしょうか。

日本の中小企業って、規模的にはブータンの小規模零細企業よりも大きいイメージがあるけれど、ここで書かれている生き残りのノウハウは、ブータンの小規模零細企業にも当てはまるものが多いと思う。買ってくれる人のリサーチまで個々の事業主が行うのは確かに大変なのだが、市場と生産者との間に入る中間組織が、「伝統工芸の技術の継承」というところから脱しておらず、同じようなものを作らせればよいという域にとどまっているように思えてならない。伝統工芸と書いているから、ゾリグチュスムやAPICのことを言っているように思われるかもしれないが、商工会議所(BCCI)も農産品を加工度も上げずにそのまま市場で売ることを考えているのではないかと思えるし、手工芸協会も、ちょっと女性に研修やればそれで十分と思っている節がある。

本書から学ばなければならないのは、同じようなものばかり作っていても売れないということなのだが、外のビジネスを見てきている人がどれだけアピールしても、なかなか響かなかったという現実もある。響きそうなところにアピールするところから始めるべきなんだろう。

そこで第3なのだが、小規模零細産業局(DCSI)が間もなく開所式を開くであろう「インキュベーション・センター」に、著者に来ていただいて、入居者向けにお話しいただいたりできないものかと思う。どうやったら実現できるのか、ちょっと考えておきたい。腹案はあるのだけれど、僕がブータンにいる間には実現させられないかもね。

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