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ICIMODとエコツーリズム [ブータン]

ICIMODというのはネパール・カトマンズに本部を置く国際研究機関である。パキスタンからブータンに至るまでのヒンズークシ・ヒマラヤ山脈の山岳地帯総合開発に資する研究を行う機関で、森林保全や流域管理、高地農業等、ヒマラヤ山脈の麓の住民生計活動に関しては、ICIMODの出版物は結構多くて、昔僕がカトマンズに住んでいた頃は、日本人の研究者やJICAの専門家との交流もよく耳にした。

ここブータンで、僕自身はICIMODと接点があるわけではないが、ICIMODの研究者は頻繁にブータン入りされて新聞記事になることも多く、またクエンセルに頻繁に寄稿をされている。4月に入ってから僕は月1回は西部ハ県で民泊するのをノルマにしてここまで過ごしてきているが、民泊先でICIMODがハでワークショップをやっているから来たという参加者と同宿になったり、ハの町に建設中のビジターセンターの支援にもICIMODが関わっていると耳にした。

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ブータン、ICIMOD、12次計画での連携分野を協議
Bhutan, ICIMOD discuss areas for partnership in the 12th Plan
Kuensel、2018年5月17日、Phurpa Lhamo記者
http://www.kuenselonline.com/bhutan-icimod-discuss-areas-for-partnership-in-the-12th-plan/

5月17日のクエンセルの記事は、16日にティンプーで開催された1日がかりのワークショップについて報じたものである。これには王立ブータン大学(RUB)、国土地理院(NLC)、ブータン環境保全信託基金(BTFEC)、全国女性子ども委員会(NCWC)、ブータン商工会議所(BCCI)等が参加し、ブータンの第12次五カ年計画とICIMODの第4次中期行動計画とのアラインメントについて議論されたらしい。

RUBとICIMODの間では、起業家育成やアグリビジネス促進に関する教育の質的向上が論じられたらしい。ただ、個人的にはそれがICIMODの得意分野なのかという点では疑問は感じる。NCWCとの間では災害リスク管理における女性や子どもの役割評価の促進での連携が提案された。女性や若者、生態系保全等はヒンズークシ・ヒマラヤ山岳国に共通して見られる課題で、ICIMODは各国の政策優先分野に合わせて、研究や政策提言で協力していきたいと述べている。

このワークショップでは、①有機農業開発戦略、②ブータン観光物産開発ガイドライン、③ハ県ツーリズム行動計画、④ネパールの生態系保全・環境保全対策という4つの刊行物がリリースされた。ワークショップは、5月14日からティンプーで行われていた第49回ICIMOD定期理事会に合わせて開催されたもの。

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実はこの刊行物のうち、ハ県のツーリズム行動計画『Destination Haa』は入手することができて、既に内容もざっと読ませてもらった。この策定のためにICIMODの研究者が何度かハ県に入って住民や地方行政関係者、民間事業者等と対話集会を開いたりしてきたのだろう。JICAにも言及があるが、名称間違えていて、ハ県庁職員の認識のレベルや編集能力の一端を垣間見てしまった感もあるが(苦笑)、それはともかくとして、エコツーリズムを推進するハ県の意思は伝わってくるものの、外国人観光客の誘致を目指すのか、都市に住むブータン人の誘致も目指すのか、どこを狙ってマーケティングをやっていくのかがあまり明確ではない気がした。

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《ツーリズム行動計画(Sanchai撮影)》

仮に外国人観光客だったとしても、どこの国の人がよく来るのかの分析はない。例えば、日本人は欧米人に比べてブータン訪問時の滞在日数が平均2日少なく、かつリピーターになりにくいという特徴があるため、1回ぽっきりの短期訪問で、行けるのはせいぜいティンプー、パロ、プナカで、ハがそこに割り込むには相当な努力が必要となる。そういう、旅行者の計画策定段階に割り込みをかけていくには、それなりの営業努力が必要だが、この行動計画、ハ県県内で誰が何をやるかは明確にされているが、パロやティンプーでどのような営業をやるか、国際市場に向けた発信はどうやるかといったことが書かれていないのが特徴的だった。

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民泊促進に向けた情報センター
Information centre for homestay facilitation
Kuensel、2018年4月30日、Rinchen Zangmo記者(ハ)
http://www.kuenselonline.com/information-centre-for-homestay-facilitation/

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《ビジターセンター(Sanchai撮影)》

ハの町の入り口には、最近できたばかりの郡病院があり、建設中の新しいゾン(県庁)があり、そして、ほぼ完成しているビジターセンターがある。日本では「道の駅」と宣伝されている施設だが、ハへの道路のドンつきにある施設だけに、ハを訪れる目的の人でないと訪れないので、「道の駅」とはちょっと違うと思う。まあそれはともかく、この記事では、ビジターセンターが間もなくオープンし、ここでハ県での民泊の斡旋を行うことになっているのだと報じられている。

35世帯が民泊登録をしているが、ブータン観光評議会(TCB)の基準をクリアしているのは現状16世帯だという。記事で登場する民泊サービス提供者は、年間100人ぐらいを泊めるという。ここにICIMODがどう絡むのかというと、16世帯の民泊サービス提供者をカトマンズに招聘し、研修を実施した。また、民泊斡旋のオンラインサービスの開発もICIMODが支援するのだそうだ。

ビジターセンターは県内観光情報の提供の核ともなる。開業後初年度はハ県が運営するが、いずれは利用者グループに運営移譲していく想定。建設には1000万ニュルタムかかっており、これにはICIMODの他、JICAも支援しているとの由。

自分の故郷にも道の駅は幾つかあるので見ているが、ビジターセンターはそれと比べると規模としては圧倒的に小さい。また、繰り返しになるがここはハをたまたま通過する旅行者がたまたま立ち寄る場所ではなく、ハを目的地として訪れる人のための施設である。ハには気の利いたカフェもないし、直売所もない。こういう施設をうまく活用すれば、ハを訪れる人なら必ず立ち寄る必須スポットになる可能性は確かにあると思う。

ただ、どうしても気になるのは、ハを訪れるのが最初から決まっている人にはこの施設は立ち寄るポイントになるとは思うが、ハに行って見ようと思わせるような営業に関する言及がない点である。ビジターセンターができたら自分の家にも泊まりに来てくれる人が増えるに違いないという楽観論は、僕がこれまでに泊まった民泊先でホストファミリーに聞かされた。「営業努力しないと、ハまで来てくれる人の絶対数は増やせないよ」と苦言を呈せざるを得なかった。ひょっとしたら、オンラインで民泊予約が簡単にできるようになれば、ハを訪れる客の数自体は増えるかもしれない。ICIMODの支援とやらにも要注目だろう。

この記事の中で、県知事が、このビジターセンターはブータン初の試みであり、うまく行けば全国展開もできると語っておられるが、それは時期尚早だろう。同じモデルをコピーして全国展開というのをハ県が云々するより、ハ県が他の19県と比べてどのような特徴があるのか、徹底した「差別化」を考えていくべきだ。

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ハ県というと、多くの人が豊かな自然資源や伝承の地等、観光資源の話をされる。以前も書いたが、僕はこの地は国際空港からのアクセスを考えれば陸上長距離の高地トレーニングに適していると思う。但し、近隣国に有名なマラソン大会があるかどうかという前提条件付きだが。体調を崩すかもしれないから、辛い料理を提供するのはNG。むしろ、自分たちで調達してきた食材を自分たちで調理できるような設備を設けるだけでいい。至れり尽くせりのサービスは、ランナーには必要ない。

そんなハを僕が月イチで訪問して民泊体験するようになった理由はゾンカ語の勉強だ。民泊でホストファミリーと話すときに使いそうな言葉をティンプーでの個人レッスンで教わり、それをもって民泊して実際に使ってみる。それで困った時にはまた次の個人レッスンで先生に尋ねて確認する―――そういうループを回すことでゾンカ語を学んでいる。残りの駐在期間でどこまで行けるかはわからないが、ホストファミリー相手に質問していくことで、そこでの生活の実態も少し見えてくるような体験も既にしている。

欲を言えば、客間に座卓があると集中して論文書いたりできるし、庭にベンチでもあれば、美しい農村風景を眺めながら、読書にいそしむこともできる。今は本当に寝泊りしてご飯をご馳走になるだけのための民泊になっている。翌朝朝食を食べ終わってからの手持ち無沙汰もあって、早々に出発したくなってしまう。読書や執筆活動等をやって過ごせる場所でもあれば、1泊と言わず2泊でも3泊でもするのに…。そういう勿体なさというか、改善の余地が民泊にはまだあると思う。そういうのを伝えられるようになるためには、もうちょっとゾンカ語をうまく話せるようにならないといけない。

ICIMODの話がエコツーリズムに展開し、結構まとまりのない文章になってしまった。申し訳ありません。

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