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Better Business Summitを総括する [ブータン]

5月17、18日の両日、ティンプーでは、経済省が事務局を務める「より良い投資環境評議会(Better Business Council)」主催のサミットが開催された。「Better Business Summit」(適当な邦訳が思い付かない…)と題したサミットは、2014年3月に続く第2回の開催。

なんで間隔がこんなに開いたのか、なんでこの時期なのか、なんでサミット開催案内が2日前だったのか(ブータンあるあるだが)、いろんな疑問が湧いた。特に開会式のあった17日は、労働人材省はチャンリミタンで就職フェア(Job Fair)をやっていたし、経済省はサミットとは別途、インドとの通商協議をやっていた。労働大臣を兼務しているトブゲイ首相は開会式を終えるととっとと就職フェアに行ってしまい、同じく経済省事務次官も、評議会事務局長を兼ねている割にはすぐに通商協議の方に行ってしまった。なんでこんな慌ただしい時に開かれたのかは謎だ。

外国から招待されたパネリストも含めて50人ぐらいが登壇した。全部セッションを見たわけじゃないが、なかなか良いパネリストの人選はされていると感じた。問題はこの発表を誰がどのようにまとめるのかということだ。本来なら評議会事務局が行うべきものだが、ラップアップも行わずにだらっと終わってしまったので、サミットから何が得られたのか、誰も総括したようには思われない。全セッションに出たわけではない僕がそんなことをできる立場でもないが、新聞記事はセッションごとに報じられていたので、それをまとめて掲載してみる。

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Better Business Summit、ティンプーで始まる
Better Business Summit begins in Thimphu
Kuensel、2018年5月18日、Rinchen Zangmo 記者
http://www.kuenselonline.com/better-business-summit-begins-in-thimphu/

2018-5-18 Kuensel.jpg

この記事は、17日(木)午前の開会式と第1セッションの話を中心に報じられている。第1セッションのテーマは「ビジネスのGNH」。そう、昨年11月のGNH国際会議の冒頭、試作版としてリリースされた企業の幸福貢献度診断ツール「GNH of Business」のその後の進捗が聴ける絶好の機会だと期待して、僕はこのセッションのためにサミットに出た。当然、最初のパネリストであるダショー・カルマ・ウラのご発言に注目したのだが、残念ながら、ダショーはその前の開会式におけるプラヴィン・クリシュナ教授(ジョンズ・ホプキンス大学)の基調講演に対するコメントを中心にお話された。「GNH of Businessの概要紹介するのに持ち時間10分では足りない」と主催者にお小言をおっしゃった上で、即興でやられたお話。僕は概要は知っていたので、むしろこのツールがブータン政府の中でどれだけ認知されて、主流化が図られようとしているのかを知りたかったのだが、見事な肩透かしだった。

外国から招聘されたパネリストが3人おられた。うち2人はGNH国際会議にも来ていた有識者で、お話の内容にもデジャブ感があった。ビジネスと幸福貢献の話を始めると多分に観念的な話になってしまい、今の僕にはそんな話についていけるほどの英語リテラシーがないので悩ましい。2人とも、GNH of Businessを支持する内容だったと思う。もう1人はシンガポールから来られた富裕層向け金融アセットマネジメントを仕事にされている方で、富裕層の資産運用が利益追求だけではないという趣旨のお話をされていたと思う。

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初日は、この第1セッションの後、午後は「小規模零細産業の金融アクセス」「官民パートナーシップ(PPP)」に関するセッションが設けられた。この2つのセッションはメディアも報じていないが、僕は「金融アクセス」の方には出席していた。兼ねてから書いている通り、僕は「金融アクセスだけ改善しても小規模零細企業の企業活動が活発になるわけではない」という立場を取っている。特に起業に関しては、『一万円起業』や『ビジネス・フォー・パンクス』でも論じられている通り、アイデアと熱意と行動、利益を生むためにとことん考え抜く姿勢が求められると思う。このセッションが良かったのは、ESCAPから来られたパネリストが、まさに「金融アクセス」だけではないという趣旨で話された点にあった。企業活動を取り巻くエコシステムが総体として整備されて行かないと、企業活動は活発にならないというお話だった。

ここからは2日目の話に移る。2日目の第1セッションはGNH委員会や経済省の高官等、政府関係者が登壇して政策的な話を展開するセッションだったが、これは報じられていない。1つだけ言えることは、このセッションの登壇者の顔ぶれを見ても、「GNH of Business」の政府内での主流化については論じられた可能性は低いだろうということだった。他にも最近報じられている中では、第12次五カ年計画において政府が省庁横断的に取り組む8つの重点課題「フラッグシップ・プログラム」が、次のようなラインナップだと言われている。

 水の安全保障(Water Security)
 有機農業(Organic Bhutan)
 デジタル立国(Digital Drukyul)
 小規模零細産業と起業立国(Cottage and Small Industries & Startup Bhutan)
 高地住民の生計向上(Highland Livelihood)
 観光(Tourism)
 一村一品(One Gewog One Product)
 セントラルスクール(Central Schools)


どのみち小規模零細産業と起業立国なんてのが含まれているくらいだから、その辺のことを中心にお話がされたのだろうと想像する。

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アグリビジネスの機会
The opportunities in the Agro Business
The Bhutanese、2018年5月19日、Damchoe Pem記者
https://thebhutanese.bt/the-opportunities-in-the-agro-business/

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2日目の第2セッションのテーマは「アグリビジネス」。第12次五カ年計画の中では有機農業や一村一品等、複数のフラッグシッププログラムとも絡む、いわば一粒で二度オイシイ分野で、僕もこの国の今後の方向性は農業を中心とした六次産業化にあると思っているので、このテーマ自体は良いと思う。個々の登壇者の発言ポイントがこの記事の中心となっているが、このパネリストの人選もまあ魅力的ですね。

でも、僕自身はこのセッションには出ていない。すごくもったいないことに、この日JICAは小規模零細産業局で、甲南大学の真崎克彦先生による特別講義をセットしていた。最近、農業ブランドマーケティングのJICA研修で日本に行った政府職員の帰国報告も兼ねたセッションで、真崎教授のブータン訪問、研修員の帰国のタイミングに合わせ、1カ月以上前から準備されていたセッションだった。真崎教授は昨年のGNH国際会議でもご紹介された「ゆうきの里・東和」(福島県)の取組み事例を30分以上かけてご紹介下さった。GNH国際会議の際には持ち時間を急に15分に短縮されて、十分お話いただけなかったことを、ここでは倍以上の時間をかけてわかりやすく講義下さった。

サミットとこのイベント、テーマが共通しているだけに、タイミングがダブってしまったのが非常にもったいない。サミット開催が直前になってアナウンスされたので調整のしようがなかったのだろう。ただ、サミットのパネリストの1人という位置付けだと、また「持ち時間10分」の制約もあって、真崎教授も十分お話しできないで終わってしまう可能性もあったと思う。繰り返しになるが、このサミットのセッションはいいにせよ、ここに日本の六次産業化の取組み、コミュニティビジネスの事例等が含まれていたら、このセッションはもっと良いものになっていたと思う。

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直接投資、ブータンに4,871人分の雇用を創出
FDI created 4,871 jobs in Bhutan
The Bhutanese、2018年5月19日、Kezang Dechen記者
https://thebhutanese.bt/fdi-created-4871-jobs-in-bhutan/

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サミット2日目午後の最初のセッションは「投資環境」がテーマ。といっても、外国人投資家にとっていかに良い投資環境を作るかというのが論じられたセッションだと思う。(但し、僕は傍聴してません。)記事の内容は、登壇した経済省職員によるファクトの紹介と、政府の取組み内容の紹介が中心となっている。最近、経済省は「直接投資年次報告書2017年版(Annual FDI Report 2017)」というのを出したらしい。それによると、外国企業による直接投資(FDI)はこの5年間で倍増し、4,871人の雇用を創出したという。雇用の93%はブータン人だとのこと。

さらに、この経済省職員は、FDI誘致に向けた政府の取組みを紹介している。1つは2014年に行われた外国人最低出資比率の緩和で、20%から10%に引き下げられ、それだけ敷居が低くなったと強調されている。次に紹介されたのは、外貨建て投資の配当金の外貨建てでの受取りを可能にする制度変更で、民間企業から寄せられる懸念に政府が応えた好事例だと報じられている。ブータン会社法では、FDIはすべからく法人登記の対象となるそうであるが、これをオンラインで1日で手続が済むように整備を進めているとのこと。また、外国投資家向けに「ブータン投資ガイド」を作り、これを100ヵ国語で読めるようにしたと紹介されている。さらには、南部パサカの工業団地の6倍規模の新しい工業団地の開設も計画されているとのこと。

とは言っても、ブータンはFDIの件数からみて周辺国に遅れをとっていることは間違いない。ここからは記事ではなく僕の個人的見解だが、いくら経済省が「ブータンは平和で安全だから投資環境はすごく良い」と言っても、投資の判断というのはもっと冷徹なものだと思う。想定されるマーケットがインドにあるのなら、インドに会社設立する方が合理的な考え方だろう。また、ブータン人労働者の労働倫理とかもあるし、なにせ組織が縦割りなので、外国人駐在員が連続3年以上駐在できない入国管理制度の制約とか、銀行口座開設手続きの煩雑さとか、経済省がOKと言っていても他省庁がNGと言うケースは往々にして起き得る。そこまでの横の調整を経済省がちゃんと図るのならともかく、往々にして申請者が自分で悪戦苦闘しなければならないようなことが起こり得る気がする。

このFDIに関する情報は、その後、5月23日付けのクエンセルでも紹介されている。記事の内容までは詳述しないが、挿入されている図表を見るだけでも意味があるかも。
http://www.kuenselonline.com/bhutan-approves-64-fdis-in-15-years-2/

2018-5-23 Kuensel01.jpg2018-5-23 Kuensel03.jpg

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企業家、事業展開上の課題を共有
Entrepreneurs share challenges in doing business
Kuensel、2018年5月21日、Rinchen Zangmo記者
*残念ながらリンクがありません。

最後に、2日目最終セッション「起業文化の醸成」についても報じられた。このセッションは結構日本とのつながりがあるパネリストが並んでいて、iHUBとDrukRideの創業者は、2017年度のJENESYS海外招聘事業で今年1月に約1週間、日本を訪ねている。Chuniding Foodsの創業者は、JICAの村落起業家育成プロジェクトで、2016年(?)に大分県の一村一品運動を見学に行っている。いずれも今すごい勢いを感じる起業家たちで、こういう人々がロールモデルになって、その経験をどんどん共有していくことで、ブータンの起業文化は育っていくのだろうと期待したい。多分、サミットの全日程を見渡しても、このセッションがいちばん面白かったに違いない。

僕はセッションは傍聴していない。ただ、これに出ていた知人から聞いた話では、なんと僕の名前がパネリストから出てきたという。記事にも書かれていなかったし、最初に配布されたプログラムにも載ってなかったので知らなかったのだが、ファブラボ・ブータンの創設者が急遽パネリスト登壇し、ファブラボ創設にあたって僕が果たした役割について言及するとともに、感謝の意を表明したとのこと。途中では相当厳しいことも言ったんですけどね(苦笑)。なんか、自分がいないところでそういう謝意が述べられていたと聞くのは嬉しいですね。

2日間の全日程を通しても、ファブラボには度々言及されていたと後で聞いた。そういう認知を彼らが受けつつあるというのは嬉しいことである。望むらくはファブラボの精神である「オープン」の部分がもっと多くの人に理解され、より多くの人がここに足を運んで、他の利用者から操作法を学び、自分の課題を自分自身で解決するようなプロダクトをどんどん作っていけるコミュニティができていって欲しいと思う。

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