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ミジレイ『社会開発-理論と実践』 [持続可能な開発]

Social Development: Theory and Practice

Social Development: Theory and Practice

  • 出版社/メーカー: SAGE Publications Ltd
  • 発売日: 2013/11/13
  • メディア: Kindle版
内容(「BOOK」データベースより)
今、ソーシャルワークに求められる新しい視点。国際社会福祉の場で注目される社会開発。社会福祉学、社会政策、開発学などの専門家、研究者、学生、ソーシャルワーカー必読の一冊。

3月に読んだ鳥飼玖美子先生の著書に刺激を受け、毎日の日課としての音読の素材として読み込んだ洋書の第2弾。今月2冊目の読了となる。ミジレイ先生には2003年に一度、日本福祉大学大学院のシンポジウムでお目にかかったことがある。当時は先生と生徒の立場だったし、僕自身がよくわかってなかったので、すごく濃密な会話をしたということもなく、先生から何かを学んだということもなかった。その後、1995年に出ていた先生の著書『Social Development』を図書館で見つけ、読もうと挑戦したが挫折。1995年の著書は訳本も出ている(『社会開発の福祉学』)が、それは最近まで知らなかった。

今回は、2013年に出た改訂増補版をキンドルでダウンロードして読んだものであるが、2000年代に入ってからの文献が豊富に盛り込まれているので、枠組み自体は同じであったとしても、中身は相当変わったと考えてよい。最も大きかったのは、1995年のコペンハーゲンでの社会開発サミット、2000年の国連ミレニアム開発目標が反映されていること。とはいえ、2013年という発刊時期もちょっと微妙で、2012年のリオ+20持続可能な開発サミットはチラッと触れている箇所はあるが、当然ながら、2015年のSDGsへの言及はあり得ない。

そういう意味での古さはあるかもしれないが、社会開発の思想史といった歴史的側面をしっかりカバーされているので、これから社会開発を学ぼうとする人にとっては格好のテキストだと思う。ミジレイ先生が関係しておられた日本福祉大学大学院国際社会開発研究科(修士)の門を叩く人は、僕も含めて現場での経験は既にお持ちの方が多く、自分の経験をまとめておきたいというのが1つの動機となって修士課程に在籍されるのだが、総じて先行研究のレビューが弱いので、論文の仮説設定で苦労されるケースが多い。僕自身もそうだった。かといって、50も100も文献レビューができるわけでもないし、英語の論文のレビューはさらに難しい。そういうのを効率的にやろうと思ったら、こういう本を読むのがいいんだろうな。

296頁中、4分の1は参考文献リストが占めるくらい、膨大な文献に裏打ちされた、社会開発潮流理解のためのテキストである。「社会開発」といっても定義が定かでなかったから、それぞれの人がそれぞれの問題意識でそれを捉えれば、なんでもありに見えてしまう。それをどう捉えるか、1つの枠組みを提示してくれているように思える。「人間中心の開発」を中心に据えつつもそれを取り巻く様々な取組み領域をカバーしている。途上国であれ、日本であれ社会開発に関わっている人は多いが、そういう人に「これ読んだら」と薦める際の話のネタ本として極めて有用だ。

本書の構成はこんな感じである。

 -社会開発の定義とその歴史的変遷
 -社会福祉、人権、社会正義を巡る主要な論点と社会開発のプロセス
 -社会開発の諸相における様々な実践
  (1)人的資本への投資
  (2)ソーシャルキャピタル、コミュニティと社会開発
  (3)ディーセントワークと雇用の促進
  (4)マイクロ企業、マイクロファイナンスと社会開発
  (5)資産形成と社会開発
  (6)社会開発戦略としてのソーシャルプロテクション
  (7)ソーシャルプラニング、人権
 -将来に向けた課題

なんでもありに見えるというのは、上記の実践の7つの領域に、僕たちが実践で関わっているものが何らか位置付けられてしまうからである。教育だ保健医療だと言っている人も、ソーシャルキャピタルだと言っている人も、ディーセントワークが重要だと思っている人も、マイクロファイナンスをもっと学びたいと思っている人も、いや小口貯蓄だマイクロ保険だと思っている人も、本書の各々の章を読めば、今までに何が定説となっていて、何が課題として残っているのかはだいたいわかる。時間が許せば著者が引用している各々の論文を当たってみるのもありだと思う。

僕自身も、今回はどこに何が書かれているのかを大雑把に把握しておきたくて通読したが、今後はその時々で自分が直面するテーマに対して手っ取り早く頭づくりをするために、該当章を熟読するのに読み直す機会が何度かはあると思っている。

最後にやや批判的なコメントも付けておくと、僕自身の関心領域には入っているのに本書では言及がないテーマが少なくとも2つあった。

第1に、社会開発の評価。もっと言えば、主観的福祉(subjective well-being)とか幸福度という形で論じられているものに対する言及が全くない。これは、幸福度研究が世界的に盛り上がってきた時期が本書の発刊時期と重なってしまっているので、ある意味仕方ないことであるとも言える。

第2に、「人間の安全保障」への言及が全くない。「人間開発」は出てくるし、ディーセントワークや保険、社会保障など、人々が潜在的に持つダウンサイドリスクへの対処にも言及はある。要すればピースは割と揃っているのに、それらをはめ込んでいって「社会開発」という言葉でまとめているけれども、同様に「人間の安全保障」という言葉でまとめるところまでは行ってないということである。

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