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『私たちはみなメイカーだ』 [持続可能な開発]

私たちはみなメイカーだ ―メイカーが変革する教育、仕事、社会、そして自分自身 (Make: Japan Books)

私たちはみなメイカーだ ―メイカーが変革する教育、仕事、社会、そして自分自身 (Make: Japan Books)

  • 作者: Dale Dougherty, Ariane Conrad
  • 出版社/メーカー: オライリージャパン
  • 発売日: 2017/08/12
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
内容紹介
「メイカームーブメントとは、ロボットや3Dプリンターのことではありません。その本質は自由です。自分たちが住む世界を自分の手で作る自由です」。本書は、雑誌「Make:」やイベント「Maker Faire」によってメイカームーブメントを牽引してきた著者による初めての書籍です。DIYとハッキングの「交差点」から生まれた、このムーブメントを誰よりも深く知る著者が、これまで知り合ったメイカーたちの経験と発言を通して、彼らがコミュニティ、学び方、働き方、そして自分自身をどのように作り変えていったのかを紹介し、「アマチュア」という存在が社会の中で持つ意味を考えます。消費者からメイカーへ、世界は着実に変化しています。その変化がどんな人にも恩恵をもたらすことを、本書によって実感することができるでしょう。

日本の会計年度末の喧騒をやり過ごし、新年度に向けて視界が開けてきた。「開けてきた」という表現が正しいのかどうかはわからないが、あまりダイナミックにあれやったりこれやったりとできない制約がある中で、日本から来られるお客様も少ないし、今年は国政選挙もあるので、身動きがとれない期間も結構ある。そうなるとティンプーに居残る時間が過去2年よりも長くなるのかなと漠然と思っている。だから、「視界が開けた」という言い方をしたが、何をやるか考えるのには多少時間がかかった。精神的にも少し落ち込んだ時期でもあった。

そんな中で先日ファブラボに行ってみた。2017年7月にオープンしたばかりの工房だが、訪れるたびに変化があって、時々呼ばれて行ってユーザーが取り組んでいるプロジェクトの進捗のプレゼンを見せてもらっている。ティンプーのランドスケープも毎日少しずつ変化しているが、ファブラボで行われていることの変化も速い。援助機関や国際機関、いろいろな国の研究機関、外交団等が入り乱れて来訪し、その度にあちらで式典、こちらで式典と大忙しで、じっくり腰を落ち着けて1つの仕事に取り組めない政府関係者と比べると、ファブラボ周辺のスピード感は圧倒的だ。

ただ、話を聞いていると、閣僚や政府高官の視察とプレゼン要請が多すぎて、その応対で時間を割かれて大変だという愚痴も出てくる。時間が空いたからちょっと行きたい的なショートノーティスの来訪が結構多いらしい。注目の場所だからそれも致し方ないが、じっくり物事を考え、手作業に集中したいときにそういうのが入ってくるのは残念でもある。政治的に利用しようというだけでなく、時間ができたのならラップトップを持って行って、あなたも実際にモノづくりをやってみたらどうかと思う。そういうところを突然訪問する人はたいてい、「やってみたいが忙しいから」というのを言い訳にする。ややもすると僕自身もそういう状況に陥りがちなので、視界が開けたのならこれからしばらくは腰を落ち着けてモノづくりに取り組んでいきたいと思っている。

今週ティンプーのファブラボを訪ねてみて、幾つか面白い話を聞いた。

その1。教育省は、第12次五カ年計画の期間中に、現場の教員の教務従事環境を改善しようと、教員一人ひとりにラップトップを支給する目標を立てていた。完成品のラップトップの大量発注をかける手続きを進めていたが、Raspberry Piベースのラップトップを国内で組み立てれば相当廉価で調達でき、かつキーボード等の部品が壊れても、ファブラボで部品製造が可能と聞き、発注を取り止めたそうだ。今僕も手元にラズパイ3を持っているので、これにPi Top(ラズパイベースのラップトップ)のパーツを追加調達すれば、トータル200ドル程度の費用で自前のラップトップが作れる。今僕は東芝のダイナブックを使用しているが、購入して2年も経たないうちにキーボードが壊れ、それを一時帰国中に修理に出したら、キーボード一式の取り換えで2万円以上かかった。完成品の修理は高くつく。大量のPi Topを教員が使うようになれば、多少のマージンを上乗せして、ファブラボ自体の収益も確保できそうだ。

その2。同じく教育大臣のお話。ファブラボの若手ユーザーの1人が、ドローンを製作して、大臣の前で飛ばしたらしい。大臣大喜びで、これはスゴイともてはやした由。ドローンの飛行には厳しい制限を課されているこの国で、自前のドローンに対してそういう反応が閣僚から返ってきたという話は結構新鮮で、この若手ユーザーはさらに保健省からの要請を受けて、地方のBHU(基礎保健ユニット)に医薬品をドローンで届けるというプロジェクトに取り組んでいるところである。

その3。続けて保健関係の話。ジグミ・ドルジ・ワンチュク国立レファラル病院の看護師からの要請で、点滴などのボトルのキャップを3Dプリンターで製作したという。チューブが通せる穴が2つ空いていて、ちゃんとねじ回し用の溝が付いている(すいません、用語に不慣れで日本語でもうまく説明できません)。多分、既成のキャップをハックして、CADソフトでデザインに修正を加えたのだろう。

その4。今度は労働人材省の話。トブゲイ首相が昨年末、東部の3カレッジにファブラボを作ると発言したが、この動きは大学に留まらず、職業訓練校にも及ぶようだ。今年7月から始まる第12次五カ年計画期間中に、全国7カ所の職業訓練校(TTI)にファブラボを設置する計画があるらしく、ファブラボ・ブータンの機械一式の調達にどれくらいカネがかかったのかを教えろという照会がファブラボに来た由。全国のTTIにファブラボができるというのは、僕自身もそうあるべきだと思っていたことで大変喜ばしい。但し、今の技能別縦割りのTTIをもっとマルチスキルに変えて行かないといけないという条件がつくが。それでファブラボ側がどう答えたかというと、完成品を一括調達するのではなく、部品から国内製作にしてそれを組み立てれば、完成品を購入するよりもずっと安くあがると回答したそうである。今、ファブラボ・ブータンでは、3Dプリンターとレーザーカッターの製作に取り組んでいるところである。一部の部品調達は外国から行うことになるので、どうしても時間がかかってしまうが、そういうのができる人材が育ちつつある。

その5。3Dプリンターといえばフィラメントの調達も課題である。3Dプリンターは自前で製作しているにしても、そこで使われているフィラメントはどこで調達しているのかと尋ねたところ、それも自前だという。廃プラスチックを再加工して活用しているのである。まあこれはファブラボ・ブータン発足当時にはそういうマシンの試作品が既に存在していたので、遅かれ早かれの話ではあったと思うが。廃プラスチックの再利用ということでいえば、現在ファブラボ・ブータンでは、ヒートプレスマシンの製作も行われている。

ちょっと行かないうちに、これだけの動きが起きていたのでビックリした次第である。本書で描かれているようなメイカーズ・ムーブメントが、ここブータンでも起こりつつある状況をわかってもらえるのではないかと思う。

前置きが長くなったが、ここからが本書の感想。面白くて一気に読んだ。但し、同じような記述が所々で見られるけど。本書の中身の大半は欧米で起こっていることで、所々で日本とか中国とかの言及があるが、最近とんと僕が言及しなくなった「持続可能な開発」へのメイカー・ムーブメントの貢献可能性について示唆する記述が所々で見られた。

例えば医療機器・器具の製作のような、かゆいところに手が届くお話。途上国では長らく、先進国の医療機器を完成品で供与してもらって、それが壊れた頃にはメーカーが製造中止していて部品も手に入らないという問題に苛まれてきた。しかし、簡単な医療器具なら現地で多品種少量生産できる環境ができてきている。また、手に入らないと言われてきた部品も、壊れる前に3Dデータを作っておけば、いざという時に現地で製造できる可能性が出てきている。もっと言えば、先進国の医療機器メーカーも、製造中止する際には部品の3Dデータを無料公開するような配慮もあったらいいのにと思う。

また、別の例は災害復旧。お隣りのネパールで2015年に発生した大地震の話が本書には出てくるが、被災地に多くある瓦礫や廃材をデジタル工作機械で再加工して、復興に再利用するという可能性が示唆されている。

最後にもうひと言。前々回の記事でも言及した通り、どうも自分はうつのなりかけらしい。面白かったのは、モノづくりがうつに利くのかという研究をやっている人が世の中には既にいるらしいというお話。そうか、これからしばらくの間、僕は何か自分でできるモノづくりに没頭して、小さな目標達成体験を積み重ねていったらいいんだろうなと考えた。そういう意味で、何か、明日の行動につながりそうな勇気をいただける1冊だった。

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