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『理科系の作文技術』 [仕事の小ネタ]

理科系の作文技術 (中公新書 (624))

理科系の作文技術 (中公新書 (624))

  • 作者: 木下 是雄
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 1981/09/22
  • メディア: 新書
商品説明
調査報告、出張報告、技術報告、研究計画の申請書など、好むと好まざるとにかかわらず、書かなければならない書類は多い。このような書類を書く際にまず考えるべきことは、それを読むのは誰で、その文章から何を知りたいと思っているかである。それに応じて自分は何について書くか主題を決め、最終的にこういう主張をする、という目標を定めて書き始める。

著者はまず、この目標を1つの文にまとめた目標規定文を書くことを勧める。そうすることで明確な目標意識を持つことができ、主張の一貫した文章を書くことができるというわけである。そしてその目標をにらみながら材料をメモし、序論、本論、結論といった原則に従って記述の順序や文章の組み立てを考え、すっきりと筋の通った形にしていく。本書では本論の叙述の順序、論理展開の順序、パラグラフの立て方から文の構造までを解説し、日本人に特有の明言を避ける傾向と対策、事実と意見の書き分けについても触れている。

数年前、僕の業界の一部の人々の間で、この本が流行したことがある。その当時、僕自身はそういう人たちと付き合っていくのに息苦しさを感じていた。この業界にいて、文章を書いて食べていくような自信を失っていた時期だったので、当然、こういう本は皆が読んでいても自分とは別次元の話だと思っていたのである。

それを今さら読む気になったのは、そういう息苦しさのあったコミュニティから距離ができ、僕も僕なりに文章を書く気になれたからである。彼らが書くほどのクオリティのものを僕自身が書けるとは今でも思っていないが、今の僕じゃないと書けないものもあるような気がするし、実際に書いている。この本は2年前にブックオフで購入してあったが、今年初めからスタートさせている蔵書の在庫一掃プロジェクトの一環でもあり、読むとしたら今しかないと思い、手に取った。

今、ブータンで書籍を出版する計画があり、その中で1章を担当させてもらうことになったので、その執筆との同時並行での読み込みとなった。日本語の作文と英語の作文とは違うところもあるかもしれないし、理科系と文系の作文も違うところもあるかもしれないが、本書で述べられていることは、文系の英作文であっても通じるところは多いと感じた。

例えば「事実と意見」の峻別。これはややもすれば僕らも忘れがちで、わりと安易に周囲のブータン人が説明してくれることを真に受けることが多いのだけれど、「それってどこかに書かれているの?」と尋ねるようにしている。意見は意見として参考にはするが、本当にそうなのかは裏を取らねばならない。そういうのは作文についても言えているので、意見について述べられていても、ちゃんとそのベースになっている情報が提示される必要があると思う。

また、作文には作文のお作法がある。本書が出た当時はまだコンピュータがパーソナル化してなかった時代なので、下書きは原稿用紙に鉛筆で、何度も推敲した後の清書はペンでという話になっているが、校閲作業のルールは今でも同じだと思う。この部分も、今後自分がまた校閲する機会があれば是非参考にさせてもらいたい。それと、校閲やっていて常に気になるのは漢字表記の使用で、今は文章はPCで作ってしまうため、漢字への変換が容易で、どうしても書いた作文が漢字だらけになってしまうことが多い。一度自分も本を出した時にこの校閲の作業を体験したが、いちばん苦労したのはこの漢字表記をひらがな表記に直すところで、誰もが参考にできるルールがあると作業がやりやすいなと思っていたところだった。本書には著者の漢字/ひらがな表記のルールが一覧表で掲載されているが、これには自分としても腑に落ちるところが多く、今後の作文の際に参考にしやすい情報だと感じた。

さすがに古いなと思ったのは最終章で、OHP使用による学会発表のやり方の話になっている。今はだいたいパワーポイントでスライド作成するので、ここで書かれていたことが全て今でも適用可能かというとそうではないが、スライドが大型スクリーンに映し出された時のテキストや図表の見え方に対する意識というのはスライド作成段階ではあまり考えてないことが多い気がする。実際に大うつしにしてみたら、スライドが明るすぎて罫線がぼやけてしまったり、テキストが小さすぎて見えないということは起こり得る。スライド1枚当たりの文字数の制限ルールなどは、確かに意識しておいた方がいいだろう。

ただ、この発表スライドの作成において、テキストはNG的なことが書かれている点には、ちょっとだけ異論があるので述べておく。著者によると、テキストで示すと観衆はそれを読むのに気を取られて、話の内容を聞いてくれない恐れがあるのでテキストは書かない方がいいとの立場を取っている。でも、この主張は、聴覚障がい者に対する情報保証には配慮していないとも言える。ブータンの人が多用するパワポは、テキストだらけで、かつ発表者もそれをただ読上げているだけのことが多いが、このやり方にメリットがあるとすれば、それを映し出すことで情報保証になっている側面があるというのに気付いた。この国には補聴器もないし、手話も使いこなせる人は少ない。ましてや要約筆記者も磁気ループなんてのも確保が難しい。パワポでテキストを使用することが、安上がりな情報保証手段になっているような気がしたのである。

これから論文や報告書を書いたりする人には、是非着手する前に一読されることを薦める。書きたいことが整理できないうちから見切り発車で書き始めるなと著者は指摘している。僕のブログなんて、まさにその最悪の例かもしれないと反省させられる。いったん書き始めてしまったものを、あとから「ここがダメ、あそこがダメ」と言われるのもしんどいので、着手前に読まれた方がよい。

それと、今後もし改訂版を出す話が持ち上がるようなら、メールで作文についてもひと言言及していただけるとありがたい。クソ長いメールが最近多くて、こんなメールを打ってる時間があるなら、直接会って話した方がいいのにと思ってしまう。また、「最近バタバタしていて…」と仰る方も多いが、メールの作文に1日どれくらい費やしているのかによっては、バタバタしている理由が見えてくるかもしれない。

タグ:木下是雄
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