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『語る歴史、聞く歴史』 [読書日記]

語る歴史,聞く歴史――オーラル・ヒストリーの現場から (岩波新書)

語る歴史,聞く歴史――オーラル・ヒストリーの現場から (岩波新書)

  • 作者: 大門 正克
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2017/12/21
  • メディア: 新書
内容(「BOOK」データベースより)
文字史料だけでなく、聞き取りによる歴史の重要性に光が当てられて久しい。しかし、経験を語り、聞くという営みはどう紡がれてきたのか。幕末明治の回顧、戦前の民俗学、戦争体験、70年代の女性たちの声、そして現在…。それぞれの“現場”を訪ね、筆者自身の経験も含め考察、歴史学の可能性を展望する初の試み。

僕は物忘れがひどいので、ブータンに来て以来毎日日記を欠かさない。それで振り返ってみると、2月26日(月)から3月17日(土)まで、仕事から完全に切り離されたことがないのがわかった。ついでに言えば翌18日(日)も、たまっていた業務用メールのチェックを済ませて週明け以降の仕事の段取りを付けるため、フルタイムで出勤した。そしてそのまま今週になだれ込んだのだが、そこで自分のからだの変調に気付いた。仕事がらハシゴを外されるようなことは何度も経験しているが、そういう事態に対して、メラメラと燃え立つような反発心が内から湧いて来なくなった。17日で仕事の大波はひと段落したので、達成感はあったのだが、その後の気力の落ち込み方は、自分が自分自身を「危ない」と思った2007年2月以来だ。

およそ自分がブータンに住んでいるとは思えないような言い口だ。ブータンで心と体のバランスを崩すなんてシャレにもならない。幸いなことに、その時の経験もあるし、今は仕事の上では大きなヤマ場を終えて自分でも多少の時間の調整が利くようになったので、ちょっとだけ仕事をセーブするようにしている。ただ、なんでこんなことを前置きで書いたかというと、本書の記述がほとんどまともに僕の頭に入って来なかったからである。要するに、心と体のバランスを乱している状態で読むには、本書は難しすぎたということだ。

なぜそんな本を今読んだのかというと、仕事もひと山越えて、4月以降の自分のあり方を考えた時に、昨年夏以降やりたいと思っていたのにやれてなかった当地でのライフヒストリー・インタビューを、あるグループの人々にやっておきたい、僕にとってもブータンでも最後の1年になると思うので、今のうちにデータを取っておきたいと考え、その景気づけに岩波の近刊を読むことにしたのであった。本書は年末年始を日本で過ごした時に、「オーラル・ヒストリー」というサブタイトルに惹かれて、中身もあまり確認せずに衝動買いしていたものだ。

オーラル・ヒストリーの歴史を俯瞰できる良書である(と思う)。明治時代以降のオーラル・ヒストリーの系譜を、丁寧に文献から紐解いているし、ご自身も1980年代以降日本各地のフィールドワークでライフヒストリー・インタビューを試みておられる。しかも音声録音しておられて、その時々の様子を再生して、インタビューの仕方が、聞き手から質問して答えてもらうようなやり方から、冒頭テーマを伝えてあとは語り手に存分に語ってもらって聞き手は介入せずにひたすら傾聴するというやり方に移行して来ておられる。その辺の著者の実践内容の変遷とその背後にあった著者自身の葛藤は、読んでいて面白かったところである。集中して読めなかったけれど。

ただ、何かが欠けている。それは、著者の俯瞰するオーラル・ヒストリーの変遷の中に、あの「旅する巨人」宮本常一への言及が全くなかったからだ。民俗学者は著者の射程には入っていないのかというとそんなことはない。柳田国男に関してはしっかり考察されているし、瀬川清子なんてのも出てくる。瀬川清子のことは実は僕も本書を読むまで知らなかったのだが、石川県能登半島の舳倉島の海士について詳しい著作があるらしい。その舳倉島と聞いて、僕はこの島の名前を知ったのは、実は宮本常一の著作を読んだ時ではなかったかとふと思い出した。そして、その割には本書では宮本常一に関する記述がまったくないことに、違和感を感じざるを得なかった。(厳密に言うと、挿入された年表の中に、『忘れられた日本人』は載っているので、全く知らないというわけではなく、あえて言及していないのではないかという気がしてならない。)

日本中を歩き回った宮本が、行く先々で民家に泊めてもらってそこで家人の話を聴くのがライフヒストリー・インタビューでなかったわけがない。なのになんでこんなに無視しているのだろうか。

それはともかく、これからやろうかと考えているライフヒストリー・インタビューに先立ち、ちょっと気合を入れるぐらいの目的なら、読了したことで十分達成できたと思う。また、僕がやり残していた、実家の父のライフヒストリーに関するインタビューも、5年以上前に1回やった時は僕がリードして質問していく形でやったけど、テーマを決めて父に存分に語ってもらって、それを録画しておくっていう方法論でもいいんだなと思えるようにはなった。故郷を遠く離れて外国に住んでいる今の状況ではすぐには実行できないけれど、これはいずれやりたい。それまでは、こちらで多くの人のライフヒストリーを記録し、僕が年初に宣言している本の執筆に役立つ情報収集をしておきたいと思っている。

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