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『フィールドワークからの国際協力』 [仕事の小ネタ]

フィールドワークからの国際協力

フィールドワークからの国際協力

  • 編著者:荒木徹也・井上真
  • 出版社/メーカー: 昭和堂
  • 発売日: 2009/06
  • メディア: 単行本
内容(「BOOK」データベースより)
フィールドワークに憧れて現場に飛び込んだものの、実体験と理論のギャップに立ちすくむ…。そんな状況を打ち破るために「国際協力」という可能性を提示する。より良い世界への架け橋をめざして。

6年ぐらい前だったか、一時期エスノグラフィ―を相当かじった時期があって、その時に本書の存在は知っていた。近所の市立図書館で見かけて、一度だけ閲覧したことがあるが、フィールドがインドネシア中心だったので、ちょっと心が躍らなくて本格読書には至らなかった。中古本が安く出回るようになってから、中古で購入した。そのままブータンに持ってくる結果になってしまったが、その後2年近く積読にしてあったので、もういい加減読もうと思い、先週から今週にかけて続いている当地の大型連休の時期に集中して読み込むことにした。

フィールドとしてインドネシアが多くなっているのは、編集責任者のお二人に、執筆協力者の多くが東京大学大学院農学生命科学研究科の研究者で、東大とインドネシアの大学との特別な関係があってのことらしい。要すれば若いうちにフィールドに出て農村で参与観察をやって、村落のリアリティを身をもってしっかり体に叩き込んでおくこと、そうした中から優れた研究成果を発信し、政策にも影響を与え、国際協力も良くしていくのだという論調で書かれている。

従って、前半で出てくる東大の研究者の執筆した各章は、「フィールドワーク→国際協力」というシークエンスで述べておられる。中にはそもそも国際協力にもつながらず、地域研究だけで終わっている人もいるが、ご自身のフィールドワークと同時並行的に行われていた国際協力に対し、批判を試みておられる記述も見られる。

下世話な話だが、こうしてフィールドワークを推奨されるのはいい、反対もするつもりはないが、どうせならフィールドワークに必要な現地への渡航と現地での生活に必要な経費をどう捻出したのかも、書いて欲しかった。旧帝大だから科研費も結構付いて、それで学生の面倒も多少は見られるような余力もあったのかもしれないが、僕が修士の学位を取った大学院はそういう、院生がフィールドワークに必要なお金を助成できるような仕組みはなかったし、外部の研究助成制度を紹介していただいたこともない。こんな話は執筆者の誰もが触れてないが、ある意味、東大だからできたんじゃないかと思われかねない。

そういう意味では、「フィールドワーク→国際協力」というシークエンスではなく、「国際協力→フィールドワーク」というシークエンスで書かれた章の方が、僕にはとっつきやすかった。特に、アフリカのブルキナファソでの経験について語っておられる章は、執筆者の方が最初にブルキナに入られたきっかけが青年海外協力隊だったという点で、親近感が湧いた。ご本人はその隊員活動には地域社会の論理に対する洞察が欠けていた点をすごく悔いておられる様子が窺えるが、この人が行ったような活動ができた協力隊員もそれほど多くはないのではないかと思う。

読みながら、残りの滞在期間の間に、僕はブータンで何ができるだろうかと考えた。それをこの場で開陳するにはまだまだ詰まっていないけれど、思っていることは2つあって、1つはティンプーでできるようなエスノグラフィ―調査、もう1つは別の県に何度か通いで出向いて、農家に泊めていただいてホストの方々にインタビューしてみたいなというものである。自分がこの国を離れた後でも使えるような資料を残すという意味で、3月中旬以降の行動に移していきたいと今のところは考えている。

本書で執筆協力されている方の多くが、小さい頃から自分のやりたいことを定め、計画的に物事をこなし、そういう大学に進学し、卒業後もいろいろ考えて着実なステップアップを遂げて来られている。如何に「自分は現場が好き」「自分は行き当たりばったり」「自分には放浪癖がある」等と謙遜を並べられていても、読んでいると意識の高さ、自己肯定感がすごく伝わってくる。如何に現場での様々な悩みや失敗談を赤裸々に語っておられても、いかに文章が砕けていても、「自分は正しい」という執筆者の思いはにじみ出ている。それがODA批判につながり、ODAとは距離を置くような発言にもつながっているのだが、批判するだけじゃなくて、それじゃODAを良くする作業にもコミットして欲しいなとも感じた。

ここで書かれたようなフィールド体験をきっちり文章に落とし込む作業を多くの青年海外協力隊員が意識して行い、それを派遣元のJICAがしっかり分析して政策レベルでの働きかけにつなげていくようなループができれば、協力隊事業ってもっと良くなるのではないだろうか。この本は、年とったオッサンが読むと、ややもすれば忘れがちになる重要なポイントを思い出させてくれる良書であるが、これはむしろ、これから協力隊を受けようとする人や、既に派遣が決まっている人、任国に着任したばかりの人に、現地で隊員活動を始められる前に読んでみて欲しいと思える1冊である。

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