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『UXの時代』 [読書日記]

UXの時代――IoTとシェアリングは産業をどう変えるのか

UXの時代――IoTとシェアリングは産業をどう変えるのか

  • 作者: 松島聡
  • 出版社/メーカー: 英治出版
  • 発売日: 2016/12/06
  • メディア: 単行本
内容紹介
IoTとシェアリングは、産業を、企業を、個人を、どう変えるのか?――すべての鍵は、UX(ユーザーエクスペリエンス)にある。
▼ 5ドルPC、人差し指第二関節大のセンサー、月額数十円のMtoM通信…
IoTテクノロジーは「値段が気にならない」くらい安価で、便利で、手軽だ。
▼ UberやAirbnbは地殻変動の前触れに過ぎない。モノ、空間、仕事、輸送…
産業のあらゆるリソースがIoTで共有される、究極のリソースシェアリング社会が到来する。
▼ 垂直統制から水平協働へ――。企業・産業の枠組みを超えて協働し、
ユーザーに新しい体験を提供する、UXビジネスを創造する企業だけが生き残る。
物流改革からロボット研究、ヘルスケアイノベーション、シェアリングビジネス、トライアスロン事業までを手掛ける日本ロジスティクス大賞受賞の起業家が、今起きている変化の本質と、〈共有型経済のビジネスモデル〉を描出する。

IoT、シェアリング、スタートアップ―――近頃流行りの言葉を組み合わせて、「UX(ユーザーエクスペリエンス)」という概念提示でまとめている本。同じような議論をチェスブロウ『OPEN INNOVATION』フォン・ピッペル『民主化するイノベーションの時代』等で見かけた気がする。著者はUXを著者独自の概念だと提示しているが、語っておられる内容は「オープン・イノベーション」や「ユーザー・イノベーション」そのものである。

その点では、議論自体に目新しいものがあったわけではない。UberやAirbnbも使い古された事例で、デジャブー感に襲われることも度々。同じような議論が何度も出てくるので、読み進めているという実感がなかなか持てない中で、とにもかくにも230頁を読み切った。

どこを切っても同じような記述が頻出するわけだが、強いて挙げれば、テクノロジーの進化で、これまで不可能だった新しいことがいろいろな分野で可能になり、これを生かした新しい製品やサービスが次々と生まれ、世の中に広まった。ネットの普及で消費者・ユーザーは膨大な情報に触れ、自分に最適で最も手ごろな商品やサービスにアクセスできるようになった。そして単なるモノやサービスではなく、それらを手段として自分たち自身の喜びや満足、すなわちUX(ユーザーエクスペリエンス)を求めるようになった。産業主導の経済は終わり、ユーザー主導の経済が始まっている――という終章の記述あたりが著者の論点かな。

でも、各論は説得力があった。UberやAirbnbのような外から持って来たような事例はともかく、著者自身がロジスティクス企業「シーオス」を立ち上げ、事業拡大していくプロセスの部分は、実感がこもっていて、役所との話の噛み合わないやり取りとか、すごく臨場感のある記述もあった(結局どうやってブレークスルーしたのかまでは書かれてないけど)。

例えば、同社の「ロジスティクス施設の非稼働時間(夜間)をフットサルコートとしてシェアするサービス」というのはすごく響いた。それで多少なりとも収入が得られるのだから、僕らもちょっと考えてみてもいいかもという気はした。例えば、土日は閉鎖されている駐車スペースを市民に開放して割安の駐車料金をいただくとか、或いは夜間、週末も含め、長期不在するオーナーの自動車を預かることで料金をいただくとか。

著者がロジスティクス企業の経営者であることから、「シェアリングエコノミー」におけるシェアの対象が、これまでに読んできた類書に比べて広いように感じた。その理由の1つが施設の非稼働時間のシェアだったわけだが、もう1つ、組織の抱えている人的リソースのシェアという点も、これまでは個人ベースの話でそれを理解していたが、組織として見た場合はこう見えるのだなという参考になる記述だった。

日本企業の垂直統制型ヒエラルキー制度では、日本独特の評価基準によって職位と俸給が上がっていく。この職位の評価はプロとしてどのような職務で成果を出したかではなく、年功序列と組織への忠誠度で決まる。マネジャーの職位は、管理する部署の規模に応じて上がっていく。従業員は労働時間で俸給が増えるため、成果や効率ではなく、組織に与えられたルールに沿って作業を行うことを優先する。その結果、生産効率は上がらず、成果につながる革新を生みだすこともできない。これは従業員が怠慢なわけでも、能力が低いわけでもなく、単に企業の構造が彼らを拘束しているために起きていることなのだ。
 水平協働型シェアリングエコノミーは、こうした囲い込みの構造から従業員の仕事・働き方を解放していくことができる。企業の枠を超えたコラボレーションでは、シェアされる仕事はすべてその成果で評価が決まり、そこに年功序列や組織への忠誠度といった基準が入り込む余地はないからだ。
 垂直統制型から水平協働型への移行段階では、従業員は勤務する起業の垂直統制型の組織による仕事と、他社のシェアリング型の仕事を並行して行うことになり、成果を評価されるプロフェッショナルとしての仕事を経験することができる。仕事がモノを運ぶ、整理するなどの単純労働でも、タスクをより多くこなすことで収入は増えるが、知的労働では意欲がある従業員はスキルを向上させ、より高度で高収入の仕事を獲得していくことができる。(p.75)
―――スタッフの給与を時間給に輪切りにして、どの仕事に何時間というふうに払うやり方を考えて行けば、稼働率の高いスタッフは高給になるし、低いスタッフは安い給料になる。誰が遊んでいるかも見える化できるので、働かないスタッフを働かせるインセンティブにもなりそうだし、稼働率の高いスタッフも次のステップは時間単価の高い仕事に時間を配分したがるだろうから、生産性の低い仕事の淘汰にもつながりそうだ。実はそういう職場で働いたことが過去にあるのだけれど、それを今さらながらに思い出した。今の職場で十分能力が活かせていないスタッフがいれば、その遊休時間を使ってできる新たな仕事を外から取ってくるというのもあり得るな、というのも本書を読んでいて閃いた。

組織の有するリソースの非稼働部分を解放し、社内・社外と共有できれば、それは今以上に宝の山になる可能性があるという点、それと、UXという言葉はともかくとして、ユーザーを最初から巻き込んだビジネスモデルの形成の必要性を改めて痛感させられたという点、この2点について、本書を今読んだ意義は大きいと感じられた。

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