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『ブータンの歴史』 [ブータン]

ブータンの歴史 (世界の教科書シリーズ)

ブータンの歴史 (世界の教科書シリーズ)

  • 作者: ブータン王国教育省教育部
  • 出版社/メーカー: 明石書店
  • 発売日: 2008/04/28
  • メディア: 単行本

充電期間中に読む本としてはこれが最後、13冊目の本を紹介する。この本の存在はかなり以前から知っていたのだけれど、3800円という価格に尻込みして、購入できずに「読みたい本」リストに長く掲載してあった。近所の市立図書館でダメ元で蔵書検索してみたところ、待ち時間ゼロですぐに借りることはできたものの、他に優先度が高い本が何冊かあり、最後まで取っておいた。再渡航の日がいよいよ迫ってきており、気合いを入れるつもりで読んでみた。

ブータンの初等中等学校のクラス6からクラス8までの歴史の教科書がまとめて1冊に収録されている。日本で言えば小6から中2あたりに相当する。大雑把に言うと、クラス6では建国神話、グル・リンポチェの到来をはじめとしたチベットからの聖人の来訪の歴史と、それにまつわる伝承の数々が描かれ、クラス7になると、主にはシャブドゥン・ガワン・ナムゲルの到来と全国統治への経緯、それに大英帝国のブインド進出とベンガル・アッサムの国境地帯への介入までが描かれている。そのうえで、クラス8では、現王室の祖となるジグミ・ナムゲルによる国家統一とその子ウゲン・ワンチュク国王を開祖とする現王室の成立と各王による治世の系譜が詳述されている。

3冊合わせれば、確かにブータンの歴史をある程度俯瞰できる解説書になる。これに、やや難しいブータンの固有名詞の発音のヒントも書かれているのでお得だと思うし、ティンプーで暮らしていて、普段何気なく通っているルンテンザンパ橋やチャンリミタン競技場のあたりで、昔何があったのかを知ることができたりして、読んでいて幾つかの発見もあった。

いちばん助かったのは、四代国王を中心とした王室の家系図が載っていたことである。僕らは王室の家族写真はよく見ているのだが、四代国王には王妃様が4人いらっしゃって、誰が誰の子なのか、名前も含めて容易に判別できないでいた。一緒に働いているブータン人のスタッフに尋ねても、首を傾げられることが多くて困る。僕らの強い味方『地球の歩き方』にも家系図は載っているが、さすがに王子様や王女様まで詳述されていないので、この点では全く役に立たない。本書は、この家系図に顔写真も付けてくれたらもっと良かったのだけれども、誰が誰の子なのかがわかるというだけでも価値がある。少なくとも、2008年以前にご誕生されていた方々は皆掲載されているので。

面白いのは、ディグラム・ナムジャとか仮面舞踊の重要性等にも相当な紙面が割かれており、単に歴史というよりも、そもそものブータンの伝統や文化というものを理解するのにもある程度役立つと考えられることだ。クラス8の教科書の最終章は「ブータンの文化と歴史における絵画の重要性」というので1章充てられているが、ここに興味深い一節がある。

 西洋をはじめとする多くの国で、芸術や絵画は自己表現の手段である。絵画や彫刻に託されるのは個人の思いである。芸術家は作品を通じて自身の世界観を表現するのである。しかし、ブータンではそうではない。描くこと、彫ること、それ自体が宗教行為なのである。絵画という行動こそが、信仰心を表現するのである。(p.307)

 絵画や彫刻作品は信仰の対象であるため、その製作は、厳格に、詳細に定められた方法に則って行われる。作者が従うべきこの方法は、「図像研究学」と呼ばれている。実際の手引書はゾリ・パタ(Zorie Pata)とよばれている。ここに記載された形式は非常に詳細であるため、ブータンの芸術家の最大の任務はそれらに厳格に従うことである。作品に芸術家が個性を表現するのはあまり重要ではなく、その背景においてのみ表現できる。(p.307)

このあたりを読んでいると、イノベーティブなアイデアがなかなか生まれてこない理由が潜んでいるような気もした。

こういう本が1冊手元にあるとすごく便利だ。が、まあ座右に置いておくならブータンで実際の教科書を購入する方がいいかもと思い、結局本書を購入するところまでには至らず、取りあえずは再渡航することにしたい。また、既にこの本がベースにしてる歴史教科書は現地で改訂が行われているに違いない。既に五代国王の治世に世の中は移り変わってきているのだから。

◇◇◇◇

末筆ながら、この本の監訳者である平山修一さんにお願いして、現在、平山さんの著書『現代ブータンを知るための60章』の改訂作業をやってもらっていることをご紹介しておきます。昨年2月のブログ記事で、そろそろ改訂如何でしょうかと呼びかけていたのですが、平山さんが版元と掛け合って下さり、今年年末刊行をターゲットに改訂作業を進めていただいています。刊行のあかつきには、ブータンファンの読者の皆様、是非1冊ご購入いただければと思います。

タグ:平山修一
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