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『大収斂』 [仕事の小ネタ]

大収斂 - 膨張する中産階級が世界を変える

大収斂 - 膨張する中産階級が世界を変える

  • 作者: キショール・マブバニ
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2015/10/09
  • メディア: 単行本
内容(「BOOK」データベースより)
先進国の経済格差が広がる一方で新興国の中産階級が爆発的に増大する!世界はどうなるのか?日本は何をすべきか?アジアに視点をおいた新たなグローバル論。

8年前、『「アジア半球」が世界を動かす』を著したシンガポールのリー・クアン・ユー公共政策大学院のキショール・マブバニ院長の続刊。「収斂(コンバージェンス)」という言葉は、僕の教えている大学院の担当講座でのキーワードの1つでもあり、参考文献の1つとして、取りあえず本書は目を通しておきたいとずっと思っていたが、この充電生活期間中、ようやく読むことができた。(但し、マブバニ氏は、昨年末をもってリー・クアン・ユー公共政策大学院長を退任されている。)

前回、『アジア半球~』でもご紹介した通り、従来から論じられてきた「グローバル化」は欧米人目線のものが多かった中で、国連大使も務めたマブバニ氏はアジア人目線で「グローバル化」を論じる論客として注目されてきた。「コンバージェンス」という言葉も、アジア人目線で見れば、ウェルカムなものとして称賛されるべきということになる。そして、「コンバージェンス」に合わせて、国連システム、グローバルなガバナンスのあり方も見直していく必要があると主張している。現行の国連システムに対する米国の冷たい対応や、世界銀行の歴代総裁が米国人限定であること、IMFの歴代専務理事が欧州出身者限定であること等が、時代と合わなくなってきている現状を徹底して指摘している。

「徹底して」と書いたのは、この著者、他所からの引用が結構多くて、しかも引用箇所が結構長いという特徴がある。この手の本を読むのが久しぶりだというのもあるが、こんなに執拗かつ長めの引用が多い本というのも珍しい。国際政治学や国際関係論はどこで誰が何を言ったかというのをつなぎ合わせて論文が形成されるものが多いのかもしれない。ネタ元としてはEconomistやFinancial Times、それに幾つかのアカデミックジャーナルがあるようだし、この時期にインパクトのあった書籍はけっこうカバーされている。

前著でも感じたが、マブバニ氏の論考の基本的な枠組みは「欧米対その他」となっているが、彼が本書で機能不全を嘆いている国連も世銀・IMFもOECDも、日本は関わっているわけで、日本が「欧米」グループに入れて論じられているのか、「その他」の新興国や途上国に入れて論じられているのかがわかりにくい。どちらかというと前者寄りなのではないかと思うが、別に「白人の重荷(White Man's Burden)」に拘束されているわけではないので、なんだかどっちつかずの論調。従って、書籍紹介で言及されている「日本はどうすべきか」という点は、あまり詳述されていないというのが僕の率直な感想である。

そんな中で、ちょっとテイクノートしておきたい記述が幾つかあった。

第1に、「われわれの現代世界について、ほとんど知られていないことの1つは、いくつかの貧しい途上国――ここには、非常に過酷な内戦を経験してきた国々が含まれる――の公共サービス部門で、先進国をもしのぐほどの成果が見られるようになった」(p.43)という例としてカンボジアを挙げ、具体的にプノンペン水道公社のエク・ソンチャン総裁を挙げている。本書は2014年刊行なので、時系列的にはカバーされていないが、このお話は日本語でも文献が出ている。2015年の『プノンペンの奇跡』である。こちらを読むと、この背後には日本の開発協力があったというのがわかる。

第2に、国連予算に対する米国の冷遇の具体例として、WHO(世界保健機関)の通常予算の不足を挙げているが、その影響がグローバルな感染症監視システムの綻びという形で具体的に出てきており、その1つとして、中米シャーガス病に言及している(p.150)。以前、『中米の知られざる風土病「シャーガス病」克服への道』でもご紹介したが、日本は中米のシャーガス病対策に相当な貢献をしてきている。2012年7月、シャーガス病と似た症状が米国内の赤ちゃんから初めて報告されたそうだが、そうした感染症の感染経路の特定に対する予算配分が十分なされていないという点を著者は嘆いている。

第3に、中印関係は対立だけではなく共有している課題も幾つかあるが、その1つとして地球温暖化を挙げ、温暖化の帰結として、最も大きな影響を受けるのは中国とインドだと述べている。ここで具体的に言及されているのは、英国政府の委託で実施された気候変動の経済的な影響に関する「スターン・レビュー」である。曰く、「氷河の溶解は、まず、洪水のリスクを高め、それから、水資源の供給を大きく減少させ、最終的には世界の人口の六分の一を脅かすことになる。特に、インド亜大陸と中国の一部において、である」と引用している(p.266)。この「水資源の供給」への影響、ブータンで政府関係者の人に聞くと、「減るという人も増えるという人もいて、定説がない」という言い方で済まされてしまうことが多いのだが、それではその両論について先行研究があるなら後学のために紹介して欲しいと頼んでも、誰も具体的に紹介してくれたためしがない。僕は元々「水資源減少」というステレオタイプのイメージを持っているが、それならせめてスターン・レビューはちゃんと読んでおかないとねと思った。

第4に、本書は基本的には機能不全を起こしているOECD加盟国の開発協力には否定的なことが書かれているが、「いくつかの西洋の援助は、疑問の余地なく、善をなしてきた。すべてが無駄になっているわけではない」と述べた上で、その具体例として、ブータンで建設された橋梁を挙げている。「ブータンで、わたしは、深い渓谷にかかる日本の美しい橋を見た。この橋が、コミュニティーの結びつきを促進し、移動時間を短縮していることは明らかである」(pp.295-296)と書かれている。「深い渓谷」というのを見て、多分ワンデュポダンとチランの県境にある「ワクレタル橋」をご覧になったのではないかと想像する。

第5に、援助の細分化とそれに伴う効率の減少を指摘している箇所で、「2007年から2009年までの間、環境開発政策に資金を提供するための二国間もしくは多国間の国際組織が、14以上新たに創設された」との記述がある。そして、これが、「一貫性と補完性のある国際協力を一層困難なものとしたのである。次から次へと登場する新しい組織や新しい方式に適応することは、途上国にとっては、非常に困難なことなのだ」(pp.315-316)と論じている。欲を言えば、これを環境開発政策に限定せずに、林立する国連専門機関全般の議論にも当てはめて欲しかったとは思う。著者はあまり国連自体のことを悪しざまには言っておらず、むしろ国連を被害者的に位置付けているが、対途上国向け開発協力ドナー会議の場などで20以上の国連専門機関の代表が出席して、それぞれ自身の業務に照らし合わせて言いたいことを言っているのを見ると、国連ってバラバラだなという印象を抱かざるを得なくなる。それに、そういうのを聞かされてそれに真面目に対応しなきゃならないブータンのような小国は大変だなと思いをいたすのである。

そして、最後は備忘録的に今後読んでおきたい論文を1つリストアップしておく。
William Easterly and Claudia R. Williamson, "Rhetoric Versus Reality: The Best and Worst of Aid Agency Practices," World Development 39, no.11 (2011): 1930-1949

最後に、恒例により原書もご紹介しておく。

The Great Convergence: Asia, the West, and the Logic of One World

The Great Convergence: Asia, the West, and the Logic of One World

  • 作者: Kishore Mahbubani
  • 出版社/メーカー: PublicAffairs
  • 発売日: 2014/03/04
  • メディア: ペーパーバック

本書の訳本が出てから2年も経つと、ちゃんと次の著書が刊行されていたりする。マブバニ氏の続刊は既に昨年出ており、アセアンにフォーカスしているようなので、これも備忘録として付記しておきたい。

The ASEAN Miracle: A Catalyst for Peace (English Edition)

The ASEAN Miracle: A Catalyst for Peace (English Edition)

  • 出版社/メーカー: NUS Press
  • 発売日: 2017/03/08
  • メディア: Kindle版


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