SSブログ

『GDP』 [仕事の小ネタ]

目覚ましい経済成長だが、10%達成は困難
Spectacular economic growth, but 10% unachievable – Govt.
Kuensel、2017年12月28日、Tshering Dorji記者
http://www.kuenselonline.com/spectacular-economic-growth-but-10-unachievable-govt/

2017-12-28 Kuensel.jpg

【ポイント】
世界銀行は、2013年から2016年にかけて、ブータンの経済成長率は、全世界で134位から6位に上昇した。トブゲイ首相は現政権の任期を振り返り、「我々が公約していた10%の経済成長率はかなり保守的なものだったが、専門家の予測と一致していた」と述べた。

第10次五カ年計画期間中に起草された第11次計画文書では、GDP成長率は年平均12%と予測されていた。 2013年のGDPは7.07%上昇と予想されていたが、実際には約2%に過ぎなかった。一方、2016/17年度の成長率は17.36%と見込まれ、2017/18年は24.02%と見られてきた。 この目標のベースになっていたのは、2017年のプナサンチュ第一水力発電所と2018年のマンデチュ水力発電所の操業開始だったが、いずれも完工が遅れており、これらの達成は不可能と見られている。

首相は、ブータンの成長率が2017年には約8.4%になると予測した国際通貨基金(IMF)の見通しを引用、二桁台の高度成長達成は困難だが、それでも世界第3位の経済成長率だと強調した。ちなみに2018年のGDP成長率見通しではブータンは世界第1位だという。

◇◇◇◇

ランクコンシャスなブータン人。「世界第〇位」というのにめっぽう目ざとい。しかも今度の指標は経済成長率(GDP成長率)。自然環境保全や災害対策等、一見経済成長を牽引するとは思えない取組みが強調され、「GDPよりもGNHを重視する」と言っておきながら、それでもGDP成長率が高いとウキウキしてこういう記事が飛び出す。

GDP――〈小さくて大きな数字〉の歴史

GDP――〈小さくて大きな数字〉の歴史

  • 作者: ダイアン・コイル
  • 出版社/メーカー: みすず書房
  • 発売日: 2015/08/26
  • メディア: 単行本
内容(「BOOK」データベースより)
この数字は何を測ったものなのだろうか?この数字にはどんな意味があるのだろう?その誕生から利点と限界までをわかりやすくたどるGDP全史。数式なしに読みながら理解できる、GDP入門。

ただいま充電期間中なので、普段読めない本を時間を見つけてはコツコツ読んでいるところである。本日ご紹介の1冊も、一昨年出たのは知っていたし、ダイアン・コイルの著書『ソウルフルな経済学』もまあ面白かったので、いずれ機会があれば読もうと思っていた。今回は一時帰国を利用して近所の図書館で借りて、それで読んでみた。

GDPのことをまともに考えてみたのは、学生時代にマクロ経済学の勉強をして以来だ。でも、実は肝心なことを知らなかったことに大いに気付かされた。そもそもGDPという概念って、いつ頃から形成されてきたのか? それに、GDPってどうやって計算されているのだろうか? その計算方法って万国共通なのか? また、仮に共通だったとしても時代の変遷とともに計算方法も変わってきているのではないか?―――これらの疑問に対する回答が、本書には盛り込まれている。

例えば、GDPという概念の起源は、戦争と密接にかかわっていて、戦争を遂行するための国力の把握のために形成されてきたものらしい。また、その算定方法も一定ではなく、時代の流れとともに、生産される財・サービスの構成が相当変わって来るから、中身の入れ替えも当然行われてきているのだというのも、言われてみればその通りだ。さらに、イノベーションの効果の算入に課題を残しているという点も、確かにと首肯させられるところであった。例えば、昔は通信コストは馬鹿にならないほど高かった筈だが、今や携帯電話が廉価で普及し、しかも音声通話ではなくSMSやLINE等でもっと安上がりになってきているがそれでいて生産性は向上している。でも、GDP計算では、固定電話1本引くよりも携帯電話を1台購入する方が安く、従って携帯電話の販売台数を全部足し合わせても、固定電話の加入台数の合計よりも安く上がってしまう。あまり考えたこともなかったけれど、その通りだなとも思う。

読んでいて、特定テーマに的を絞った形での歴史の浅い経済史をコンパクトに読まされている印象だった。昔、会社で「質の高い成長」という考え方の経緯についてレポート書けと上司に無茶振りされて、手元にあった経済学の本を何冊か読み直して難儀して書き上げたことがある。その時の苦労話の一端は、『ソウルフルな経済学』のブログ紹介記事の中でも触れているが、その時にこの本の存在を知っていれば、もっと楽だったなと思う。

また、以前も書いたがブータン帰りはGNHについて話せるに違いないと思っておられる諸兄に対し、何もオファーできるようなブータンならではのネタを現時点で持ち合わせていない僕にとって、GDPのオルタナティブとしての福祉(Wellbeing)を計測する手法に関するコンパクトな言及がある本書は有用なネタ本だともいえる。近々僕はフランスのサルコジ元大統領が主宰したGDPの代替案の検討に関する委員会の最終報告書も読み込むつもりでいるが、2014年に原書が出ている本書では、この報告書にもしっかり言及しており、何が書かれているのかについて若干の解説がある。お陰でちょっとばかりの予習と、これまで幸福度研究に関連する文献を読んできてちらほら出てきていた話の復習を本書で行うことができた。

僕が今から頑張ったところでGNHを極めることなど難しいので、せめて、GNHを相対化し、世の幸福度研究でどこまではわかっていて、どこからはわかっていないのか、世界のどこで誰が何を研究してきたのかなどを押さえておく方が重要だとも思っている。そして、そのことが、持続可能な開発目標(SDGs)のゴール17のターゲット19に掲げられている「2030 年までに、持続可能な開発の進捗状況を測る GDP 以外の尺度を開発する既存の取組を更に前進させ、開発途上国における統計に関する能力構築を支援する」というのとも関わってくるのだと思っている。(残念ながら、ブータン政府はSDG17.19への貢献については今のところ考えられていないように見受けられるが。)

恥ずかしながら、今さら感があって誰にも訊けなかったこととして、「ダッシュボード」って何のことかというのがある。ネタ晴らしにもなるのでこれ以上は述べないが、こういうのがわかるようになるというのも、読書のありがたさだと言える。

原書はこちらになります。多分、買って原文を読み直すと思う。

GDP: A Brief but Affectionate History

GDP: A Brief but Affectionate History

  • 作者: Diane Coyle
  • 出版社/メーカー: Princeton Univ Pr
  • 発売日: 2015/09/22
  • メディア: ペーパーバック

さて、ここまでグダグダと書いてきて、なんとなく、ブータンのGDPって誰がどのように計算しているのか、その算定方法について少し調べてみたいなと思うようになった。そんなに重点的には調べませんが、何かわかればまたご紹介してみたいと思う。

nice!(5)  コメント(0) 
共通テーマ:

nice! 5

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

Facebook コメント