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『ソーシャル物理学』 [読書日記]

ソーシャル物理学:「良いアイデアはいかに広がるか」の新しい科学

ソーシャル物理学:「良いアイデアはいかに広がるか」の新しい科学

  • 作者: アレックス・ペントランド
  • 出版社/メーカー: 草思社
  • 発売日: 2015/09/17
  • メディア: 単行本
内容(「BOOK」データベースより)
組織の“集合知”は「つながり」しだいで増幅し、生産性も上がる。集団を賢くする方法が、ビッグデータで明らかに!のべ数百万時間におよぶ社会実験のビッグデータから、「人間の集団」がもつ普遍的性質を解明。社会科学と人間理解に革命を起こす画期的研究を、第一人者が綴る。

ひと足早いですが、休暇に突入しました。それもあって、移動中の機内読書も含め、今まで読みたくても読めずにいた本を集中的に読み始めたところである。その第一弾が、MITメディアラボのアレックス・サンディ・ペントランド教授の2015年の著書の邦訳である。

ブロガーSanchaiの実名を知っている方ならちょっと驚かれるかもしれないが、僕は2004年夏に我が社が共催者で名を連ねたICT分野の研修で、サンディ・ペントランド教授を日本に招聘したことがある。ブロードバンド・コネクティビティのようなお話をしていただいたと記憶している。昔務めていた組織の当時の上司からの紹介で、ロジの部分だけ担当させてもらったが、当時からICTにそれほど詳しかったわけでもなく、教授がどんなに著名な人だったか、十分イメージもしてないままに受入れ手続きをやっていたというのが恥ずかしい。今、多少なりともビッグデータやIOTについて勉強の必要性を感じるようになってきたからこそ、改めて教授の研究の凄さと幅の広さを痛感する。

「物理学」と付いている点で敷居の高さがあるかもしれないが、「情報やアイデアの流れと人々の行動の間にある、確かな数理的関係性を記述する定量的な社会科学である」(p.16)というと、なんとなくはビッグデータの話っぽいなと感じられるかもしれないが、僕が一時期ハマっていた人的ネットワークの話とも関連する。実際、本書の中でも僕が「おっ?」と思ったのは、トップクラスの研究機関として知られるベル研究所の花形研究者(スター)と平均レベルの研究者との違いを長期間にわたって調べた「ベル・スター研究」に関する記述で、その中の重要な含意として、①スター研究者は自身の持つ人的ネットワークの中の人物とより強固な関係を結んでいて、彼らから迅速かつ有益な反応を得ることができるということと、②スター研究者のネットワークにはより多様な人々が含まれているという2点での平均レベルの研究者との違いを指摘している。

このあたりを読むと、前回ご紹介した國武大紀著『評価の基準』に書かれていた「積極的に外の人々と交われ」というのとは通じるところがあるのかなと思う。僕自身があまりできていないところなので、そう言われてもそうそうてきるとも思えないが、そのあたりが僕の「スター性」のなさにつながるのだろうな。

もう1つ面白かったのは、「集団の知性を予測するのに最も役立つ要素は、会話の参加者が平等に発言しているかどうかだった」(p.110)というくだりだろうか。少数の人物が会話を支配しているグループは、皆が発言しているグループよりも集団的知性が低かったと言われると、上の人の発言だけで会議の場が支配されてしまう組織や、そうした組織が多く存在する国は、集団的知性があまり高くないということになるのだろうか。そしきの長たる人間があまりしゃべり過ぎると、下々の人々が思考停止状態に陥るというのは、僕自身も今の仕事では感じるところであり、戒めないといけない。また、チームの生産性と創造的な成果に最大の影響を与える要因が、対面でのエンゲージメントのパターンと、企業内で行われる探求のパターンであることが多いという。「仕事において生産性を上げ、成功するためにはどうすれば良いのかという重要な情報は、コーヒーコーナーや休憩室で見つかる可能性が高い」(p.128)と書かれると、キャンティーンでの茶飲み話というのもある程度は目をつぶらないといけないのかなとは思った。

などと各論に入っていってしまったら本書の本質を見失う恐れがあるが、本書で一貫して論じられているのは、一見意味のないような微妙な身体運動の大きさやタイミング、たまたま誰の近くにいたか、たまだま何を目にしたか、などに関連する「データのパンくず」に、社会を理解するためのお宝が含まれているということである。そして、これを組織の設計といったレベルから、社会や都市の設計といったレベルにまで高めて、その適用性の幅の広さと実践に向けた課題について整理して論じられている。

本のタイトルから中身を想像しにくいというのが難点だけど、僕のような技術者出身でもない人間がビッグデータの活用について語るなら、せめてこのレベルの良書は必須書籍として押さえていかないといけないなとは痛感した。その先どこに向けて考察を発展させていくにしても、本書はそのベースになりそうな1冊であり、今後も折を見ては引用していきたい文献だと思う。

ちなみに、原書はコチラになります。

Social Physics: How Social Networks Can Make Us Smarter

Social Physics: How Social Networks Can Make Us Smarter

  • 作者: Alex Pentland
  • 出版社/メーカー: Penguin Books
  • 発売日: 2015/01/27
  • メディア: ペーパーバック


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