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『幸せとお金の経済学』 [持続可能な開発]

幸せとお金の経済学

幸せとお金の経済学

  • 作者: ロバート・H・フランク
  • 出版社/メーカー: フォレスト出版
  • 発売日: 2017/10/21
  • メディア: 単行本
内容(「BOOK」データベースより)
収入が増えない時代のコスパ最強の金銭感覚。他人と比べたとき、あなたは中流から下流へ落ちていく―。世界の幸福学に影響を与えた、NYタイムズ紙で話題のお金の話。

前回に引き続き、幸福論に関する本をもう1冊紹介しよう。こちらの本、原書の方は2013年発刊で、前回も触れた一連の幸福度研究の流れを受けて出てきた本の1つだと位置付けられると思うが、原題には「Happiness」という言葉はなく、むしろ「Inequalities(不平等)」が使われている。むしろ連想しやすいのは2011年9月以降の「We are the 99%」運動の方だろう。実際、本書の主張は、社会全体の幸福度を上げるには、金持ちが過度な消費を控える、或いは政策的に金持ちの消費を抑制することだと読める。

邦訳が出たのは実は最近で、何故今なのかがよくわからない。

監訳者のまえがきからそのまま引用すると、本書の枠組みは次のような2つの概念から成る。
◆地位財
他人との比較優位によってはじめて価値の生まれるもので、幸福の持続性は低い。
(例)所得、社会的地位、教育費、車や家などの物的財
◆非地位財
他人が何を持っているかどうかとは関係なく、それ自体に価値があり喜びを得ることができるもの。
幸福の持続性は高い。
(例)休暇、愛情、健康、自由、自主性、社会への帰属意識、良質な環境など
その上で、社会全体が不幸になってしまうのは、高所得者層が行う「地位財」消費が、中所得者、低所得者へとトリクルダウンしていき、皆の「地位財」追求の動きを規定してしまい、我々の心を豊かにしてくれる「非地位財」に対して投入できるお金の配分を限定的なものししてしまっているからだと論じられている。

「お金では買えない価値がある」というのはわかっていても、ついつい良いものを買ってしまうことはよくある。著者によると、これは決して恥ずべき行為ではなく、動物としてのヒトのDNAに刻み込まれた自然な欲求だという。それなら高所得者の自制、或いは政策による誘導が必要ということになるのだろう。

これをブータン人に当てはめて考えると、幸福の持続性の低い自動車やiPhone、良い教育等、僕らがティンプーで目撃していることが当てはまる。これに引っ張られるから、都市の人々は非地位財への時間とカネの配分を切り詰め、幸福感が味わえないようになってしまう一方、地方の人々もそれに引っ張られるから、幸福度が頭打ちになっていってしまうということにある。

2015年のGNH全国調査では、農村の幸福度が都市のそれよりも低いのが問題となり、農村生活の底上げを図るべきだという政策につながってきているが、むしろ、都市住民の過剰な消費行動を抑制する方向に誘導する政策の方が、国全体としての幸福度は持続可能なものになるのではないかと思える。

とはいえ、忙しい、忙しい、と口では言いつつも17時(冬場は16時)になったら仕事を切り上げてさっさと職場を後にしてしまう周囲の人々を見ていると、都市に住んでいてもこの国の人々はまだまだ健全なのではないかと思う。お陰で、仕事を押し付けられて持ち帰り残業を度々こなしている僕らはたまらないが…(苦笑)。

それともう1つ、先進国が社会全体として「地位財」を追求していることで、ブータンもそれに引っ張られ、「非地位財」への時間とカネの投入を続けることが難しくなる状況が出てきているという側面も見逃せないと思う。僕ら先進国の価値観を押し付けるのではなく、僕ら自身の価値観の見直しを図りつつ、「非地位財」を重視したオルタナティブな発展のあり方を考えていく、そんなマインドセットを僕らが持つ必要があるのかなと思った。

ちなみに、原書はコチラになります。

Falling Behind: How Rising Inequality Harms the Middle Class (The Aaron Wildavsky Forum for Public Policy)

Falling Behind: How Rising Inequality Harms the Middle Class (The Aaron Wildavsky Forum for Public Policy)

  • 作者: Robert H. Frank
  • 出版社/メーカー: Univ of California Pr
  • 発売日: 2013/09/14
  • メディア: ペーパーバック


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