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ブータンの投資環境を評価する [ブータン]

経済構造の変化が投資環境を混乱させている
Structural change in the economy upsets investment climate
Kuensel、2017年9月26日、Tshering Dorji記者
http://www.kuenselonline.com/structural-change-in-the-economy-upsets-investment-climate/

2017-9-22 MOEA.png
《報告書リリースの模様。経済省HPより》

【ポイント】
経済規模とインフラの質はその国の投資環境を考える上では欠かせないが、ブータンにはそのどちらからも恩恵を受けられない―――9月22日に開催された世界銀行のブータン投資環境評価レポート公表イベントにおいて、ブータン担当のキミアオ・ファン部長はこう述べた。同部長はまた、ブータンは、政策改革を進める政治的なコミットメントという、投資環境の改善に最も必要な側面については、他国に比べてかなり進んでいるとも述べた。

「ブータンは山岳国で、インフラの質という点では大きな課題を抱えている。皆さんは規制や政策という、もっとソフト面に集中すべきだ」――同部長はこう述べた。インフラ整備には巨額の資金を要するが、政策の変更にはお金がかからないので、ブータンはすぐに恩恵を受けられるという。

同部長は経済が直面する構造的な課題にも言及。例えば、ブータンでは国営企業と政府部門が経済成長に占める割合が大きい一方、民間部門は比較的規模が小さい。水力発電は歳入確保には貢献しているが、雇用創出にはほとんど貢献していない。潜在的に民間部門は雇用創出に大きく貢献できる可能性が高いが、現状労働力の56%は農業部門で就業している。

世銀が公表したブータン投資環境レポートによると、中小零細企業から大企業に至るまで、ブータンの企業の40%が、金融へのアクセスを民間セクター開発の課題として挙げているという。しかし、報告書では、金利は確かに高いが、企業からの製品開発努力も限定的だと指摘している。金融リテラシーの欠如も金融アクセスの不足につながっているという。

熟練労働力へのアクセスも大きな課題の1つ。外国の技能を傭上することは困難で、民間部門の被用者と公務員との間で給与水準に大きな開きがあり、求職者が民間部門を目指すことを困難にしている。報告書の共同執筆者の1人であるマクシミリアーノ・サンティーニ氏は、2002年から2015年にかけて、ブータンの賃金の中央値が大幅に低下したため、労働生産性も下がったと指摘。加えて、製造業部門の低生産性が、ブータンでの商取引の費用の高さを物語っているとも述べる。利用可能な運輸交通ネットワークがなく、外国からの投資も限定的な中で、国内市場、国際市場ともにアクセスが課題だと報告書では指摘。しかし、これは政策面での改革と規制の変更によって改善可能だという。

報告書の提言として、外国市場を指向することで生産性の向上と民間部門の雇用増加を持続させることが挙げられている。交易可能なサービスの市場が拡大することや高付加価値商品に対する消費者の理解が高まることが、ブータンに新たな機会を与える。経済の多様化や、汚職腐敗の少なさと政治的安定性、安価な電力、英語を使いこなす労働力といったブータンのユニークな制度的資産を最大限活用することができるようになる。

その他の提言としては、ブータン開発銀行(BDBL)の事業範囲を拡大して農業部門への輸出信用の供与や組合活動に対するグループ貸付を可能にすること、マイクロファイナンス金融機関の成長支援や金融リテラシー向上プログラム、優遇貸付スキームの改善等が含まれる。

民間部門での雇用創出促進策としては、公的部門での職員採用で民間部門での職務経験を加点要素とすることが挙げられている。その他、観光部門では、南アジア域内からの観光客に対する手数料の導入や三ツ星ホテルとレストランの能力強化、ICT部門では、インターネット環境インフラのアップグレード、アグリビジネス部門では、ブータンのブランド化に向けた規制や役割の制定、コミュニケーション戦略策定、倉庫やロジスティクスに対する投資の促進を通じて、高付加価値産品を慫慂することなどが提言されている。

世銀投資環境評価報告書全文は、下記URLからダウンロード可能です。
http://documents.worldbank.org/curated/en/673381506689928071/Investment-Climate-Assessment-of-Bhutan-Removing-Constraints-to-Private-Sector-Development-to-Enable-the-Creation-of-More-and-Better-Jobs

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2017-9-22 WorldBank.jpg―――2週間以上前の記事を長々と紹介してしまったが、けっこう重要な提言が含まれていると思ったので、敢えて詳述した。民間部門の賃金が低すぎ(公務員のは逆に高すぎ)とか、南アジア域内(主にはインドだけど)からの観光客への手数料導入など、よくぞ言ったと思う。高付加価値産品の慫慂も、農業に限らず他部門でも行われるべきで、ブータンの取るべき途として、僕らも感覚的には思っていたところだ。それをもっともらしい論理で文章化してしまえるところが、世銀の底知れないパワーだ。

でも、インフラの質的側面、特にレジリエンス(例えば災害に対する強靭性)の側面は確保が難しい国だから、インフラ整備に資金を投入するよりも制度政策といったソフト面での改革を進めよという提言は、一見そうかなと思うのだけれど、前半部分はともかく、後半部分の提言への持って行き方については、う~んと考え込んでしまった。

確かに政治的なコミットメントはあるかもしれないが、そのコミットメントを実行に移すのは人、制度政策の改革を進めるのも人である。でも、その人の意識や行動を変革していくのが実は最も難しい。難易度が高い課題はできそうな外国人やコンサルタントの外注してしまう人たちだ。石にかじりついてでも自分で学び、なんとかしようとする人たちではない。常にマルチタスク状態で、突発的に何かの行事が入ってくるために、計画を立てて地道にやっていくことがなかなかできない。常に場当たり的な対応で、予防の概念がなかなか受け入れられにくい。転ばぬ先の杖で、何かの時に備えて力を蓄えておこうという動きになりにくい。問題は起きたらその時に考えればよいと思われている節がある。

質が高いものを作る、賞品差別化を図って他者とは違うものを売る、そういうのもなかなか理解されにくい。他の人よりもいいものを作っても、価格が同じだったらいいものを作ろうというインセンティブはなかなか働かないだろう。報告書に書かれているような「企業からの製品開発努力が限定的」というのも、それなりの理由があってそうなっているのだ。

それともう1つ、記事だけで判断しにくいのでいずれ報告書本文も読んで確認してみたいと思うが、雇用創出できる民間部門が育っておらず、農業部門での労働従事者数が労働力の半分以上を占めているというのを問題視しているが、実際のところ農業部門では従事者の高齢化が進んできており、労働力不足が起こっている点を、報告書はどう描いているのだろうか。なんとなく第一次産業と第二次産業と第三次産業をクリアに三分化して捉えられているような感じがするのだけれど。

日本の農村で起きていることを考えたら、単一収入源に依存せず、第一次産業、第二次産業、第三次産業にそれぞれ足を少しだけ入れているような兼業が、ブータンにとっても1つの方向性ではないかと僕は思っている。従って、若い世代の人々も、村を離れて遠くの首都で失業状態を甘受しているよりも、もっと近くの町でちょっと働きつつ、時々村に戻って畑仕事もこなすというようなライフスタイルを、選択できる環境を整えていくことが重要なのではないだろうか。上で述べている製品差別化、高付加価値化も、都市部の製造業でということだけではなく、特定生産者や特定生産地と直結させた差別化の途を探っていくことも必要なのではないか。

などと愚痴のような反論を並べ立てたけれど、改革の方向性としては大筋この報告書に書かれた通りだと思っているので、僕が意識変革や行動変革を促して政策や制度を変えていかねばならないという場面に直面した時、そうそう思い通りには進まないだろうけど、「ほら、世銀のレポートにはこう書いてあるぞ」と自分の発言の権威付けにこの報告書は使わせてもらいたい。

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