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ドクラム問題、ひとまずは終息? [ブータン]

インド週刊誌、ブータンの立場を謝って報じ、貶める
Magazine misrepresents and demeans Bhutan
The Bhutanese、2017年8月26日、Tenzing Lamsang記者
http://thebhutanese.bt/magazine-misrepresents-and-demeans-bhutan/

2017-8-27 TheWeek.jpg
このところドクラム高地の領有権問題でのブータン政府の沈黙がいろいろ憶測を呼んでいて、日本でも日経新聞が8月24日付の記事でブータン政府が中国に接近しているなどと書かれている。日経新聞の記事のトーンは、中国が1兆円の経済協力をネタにブータンに秋波を送っていて、ブータン政府がそれに反応しているというものだったが、どうもその元ネタとなっていると思われるのが、インドの週刊誌THE WEEKの8月27日号が報じたルポのようである。

THE WEEKはインド駐在時代は僕も時々読んでいた週刊誌であるが、この8月27日号(日経新聞の記事より数日前に発刊されているので念のため)のカバーストーリーは、インド在住のレポーターが急遽パロ経由でブータン入りし、最初はトブゲイ首相に面談アポを求めて「忙しい」と断られたり、8月12日の週末らしいが、ティンプーのモティタン地区にある政府閣僚の居住区に入り込んで、情報通信大臣宅で待ち伏せたり、下院議長宅に押し掛けてインタビューを求めたりと、結構大胆な取材攻勢を試みたようである。

どうも在ティンプーのインド大使館が取材仲介をしたわけでもなさそうで、そんなことがそもそもできるのかどうかが驚きだが、そういうトーンで書かれている。この週刊誌には下院議長のインタビュー記事も掲載されているが、使われている写真は何か別の機会に撮られたもので、下院議長がどういう状況で取材に応じたのかは、写真を見るだけではわからない。週末の自宅で夜も民族衣装姿でくつろいでいるとは思えない。でも、下院議長の写真の表情を見ていると、友好的な態度で取材に応じたと捉えられてしまうので、インタビュー記事の信憑性も、それによって高まってしまうという効果はあるだろう。

さらに、僕でもわかる誤認が多い。ルポでは、メモリアルチョルテンの大仏も中国が数年前から始めている援助の1つだと書かれている。それを読んだ瞬間、「あれ、あの大仏ってシンガポール人の篤志家が寄付したんじゃなかったっけ?」と思った。確かに中国系のシンガポール人なので、「中国の援助」と言われれば100%間違いとはいえないけど、全世界の華僑がやってることを全部「中国の影響」とは考えないでしょう?

これを読んだインドの読者が、日経の記者と同じように誤った認識を持たないかと心配になる。だから、8月26日付週刊タブロイド紙The Bhutaneseは、THE WEEKに対する猛烈な反論記事を1面トップで掲載した。

正直言ってブータン国内でもこの問題は殆ど報じられてこなかった。ブータン外務省が正式な声明を出したのは6月29日が最初で最後。中印の交渉は秘密裏に行われてきたのだろうが、それに対してブータン政府が何か発言したわけではないし、クエンセルは完全沈黙、The Bhutaneseは編集長名で何度かのコラムは書かれているが、ドクラム問題そのものというよりも、インドとブータンの二国間関係を論じていたり、4月だか5月だかに行われた在インド中国大使夫人のブータン旅行の話だったりと、ドクラム問題に関するブータンの立場を論ずるものではなかったと思う。

ブータン政府が沈黙を守っていた間に、中国政府高官の発言がいろいろ報じられたものだから、ブータンが中国寄りに転じているのではないかと見られてしまったのではないかとも思えるが、The Bhutaneseの論説のトーンは、ブータンとインドとの二国間関係は、ブータンがインドの属国であるというよりも、是々非々でものが言い合える健全な関係に進化してきており、ドクラム問題でも両大国のどちらかに肩入れするというよりも、中立の立場から平和的解決を望むというものだったように思う。

そもそもドクラム問題、両軍が兵を引くということで取りあえず一端終息という形になったが、その間、ブータン外務省の職員は、8月17日から3週間の集中リトリート「ブータン外務プログラム(Bhutan Foreign Service Programme)」で、主力の30~40名ほどが南部プンツォリンに行っている。これは、ブータン外務省の職員の過半数以上だという。RIGSSという研修機関で泊まり込みの研修を受けている状況である。しかも、この研修は未だ続いている。そういう状況の中で、中印間の合意がなされているのである。

最後に、このThe Bhutaneseの記事、日経新聞の記事にも言及しており、中国の経済協力の動きについえ裏を取ろうとしたようだ。その上で、そのような事実はないと明確に言い切っている。

事実と違っていても、ありえないことであっても、いったん記事になってしまえばその記事に踊らされる読者は大勢いる。かく言う僕も、基本的には公表されているメディアの報道からブログの記事は構成しているので、書かれた記事が自分の認識と合っているのかどうか、常に意識はしていないといけないとは思っている。
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