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ファブラボ・ブータン、遂に始動 [ブータン]

首相、ブータン初のモノづくり工房開所を祝福
PM inaugurates Bhutan’s first-ever fabrication laboratory
BBS、2017年7月21日、Sonam Phuntsho記者
http://www.bbs.bt/news/?p=76654

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【ポイント】
昨日(7月20日)、ツェリン・トブゲイ首相は、ティンプーで、ブータン初の市民向けモノづくり工房「ファブラボ」の開所を祝った。ファブラボはデジタル工作機械を備えたプラットフォームで、アイデアを形にするのを支援するもので、世界中に1000以上にも及ぶラボのネットワークを持ち、相互に研究やイノベーティブな製品開発で協力し合っている。

ファブラボはデジタル工作のためのツールへのアクセスを提供し、発明を可能にする技術の図書館としてたびたび称賛される。このラボは、人々に自分の取り組むプロジェクトの成果を共有することを可能にし、ほぼ全てのものを作って進化していくものの倉庫のようなものである。

「皆さんが今買わないと手に入らないようなものを自分で作ってしまうことができ、それによって自分で発明し、起業し、技術を学び、近代的な世界とつながり、ブータンの伝統的な実践と世界のそれとをつないでいくことになります」――マサチューセッツ工科大学ビッツ・アンド・アトムズ・センター所長のニール・ガーシェンフェルド教授はこう述べる。世界的なファブラボ・ネットワークの創設者でもある同教授によれば、ファブラボ・ブータンは新しいものを作るアイデアを持ち寄れる人々を惹きつける磁石のような役割を果たすだろうという。グローバルなネットワークを通じて、ファブラボ・ブータンは、教育の機会を提供したり、起業活動の活性化にも寄与すると見ている。

ファブラボで開発されたデザインや製作プロセスは、発明者がそれを選択すれば保護され、売買されたりすることもあるが、利用者がこれを利用し、既存製作物から学べるよう、ネットワーク内で共有されることになるという。

ニール教授は続ける。「ファブラボで広がる大きな可能性の1つは、多くの都市が「ファブ:シティ」というプロジェクトに参加していることです。このファブ・シティのアイデアは、グローバルなデータ共有ネットワークにつながることができるというものです。データは簡単に行き来できますが、モノは都市に留まります。これらの都市は自分たちが消費するものは自分たちで作ることができるようになります。ブータンもこのコラボに参加していくことになります。最初は村や都市のレベルでの参加でしょうが、いずれは国全体でこのコラボに参加していって欲しいと思います。」

ファブラボ・ブータンで現在検討されているプロジェクトには、農民向け低コスト気象ステーション、太陽発電による給水ポンプ、3Dプリンターで製作する椅子、リサイクル・プラスチックやバナナの木の繊維を使った椅子、農産品加工・梱包ラボ(最新技術を用いた果物・野菜加工機器)等が含まれる。

ファブラボ・ブータンはMITの専門家グループの技術支援と、ソリッドワークスからの機材供与を受けて立ち上げられたもの。

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20日、ファブラボ・ブータンが開所式を迎えた。自信なさげなブータン人関係者を叱咤激励して、時には批判もして、時にはFacebookも使ってプレッシャーをかけ続けてきた僕としては、ようやくここに漕ぎつけた彼らの心意気は高く評価したい。一方で、この場には来れなかったけれど、遠く日本やインドからこの動きを支援して下さった方々にも、ファブラボのスタッフに代わって、御礼申し上げたい。

MITとソリッドワークス社の機材調達がかなり早い段階からスタンバイしていたのに、肝心のラボ・スペースの確保ですったもんだして、結局はティンプー南部バベサ地区でスタートすることになった。但し、この地区もティンプー中心部からはかなり離れていてアクセスも良くないので、いずれかのタイミングで市内モティタン地区に引っ越してくることになると聞いている。

こうして仮住まいのスペースは確保したものの、工作機械のセットアップでは開所式の当日まで相当な苦戦を強いられたらしい。高電圧の工作機械もあるし、テレビ会議システムを使うためにはデータ容量も相当大きいインターネット回線を必要とする。テスト段階で機械が壊れ、スペアパーツがブータン国内にないからというので隣国や米国に急遽飛んだスタッフもいたというし、100%商業ベースで立ち上げられたので、部品の在庫を追加輸入するのには通関手続きですったもんだがあるとも聞いた。さすがに工作機械本体は首相に掛け合って無税通関にしてもらったそうだが、いろいろ大変だったと聞いた。

勿論、立ち上がったこれからがさらに課題。ある程度の収入を確保するには、労働人材省から職業訓練の受託を受けなければならないが、それを沢山やり過ぎると今度は一般ユーザーがアクセスしづらくなる。それと、工作機械の操作方法をマスターするのは多分ブータンの若者でも相当早いと思うが、そこでイノベーティブなアイデアが出てくるか、「こんなもの作れないか」というアイデアが湧いてくるか、そのあたりはかなりチャレンジングなんじゃないかと思う。

かなり早くから、「ファブラボが近くにあったらこんなのできないかな」というアイデアを幾つか温めていた僕らのようなアウトサイダーが、どんどんそのアイデアをぶつけて、スタッフと一緒に考えていくようにしないといけないのだろう。以前クエンセルに載った記事で、廃棄プラスチックを熱延処理してポータブルトイレの素材として再利用するというアイデアは元々僕が出したものだと皮肉ったが、この日開所式に出たところ、その開発に取り組むというブータン・トイレット機構のツェワン君、「いいアイデアを下さり、ありがとうございました」と僕に感謝の言葉をかけてくれた。ちょっと救われた気がしたが、できれば形にするところまで僕も関わらせて欲しいと思っている。

開所式で首相がお話になったことにはこのBBSのニュースは触れていないので、ちょっと補足しておくと、こんなことを仰っていた。
元々ブータンの農村には、必要なものは自分たちで作るという習慣があった。それを近代化が進むにつれて自分で作るのではなく外から買うようになっていき、元々あったはずのモノづくりの文化が、徐々に廃れて行ってしまった。今、ブータンでは、初等中等学校の子どもたちが発明コンテストに参加して、身の回りの問題を解決するシステムの試作品をいろいろ考えてくれるようになってきた。こうした動きには勇気づけられる。ファブラボはそうした動きをさらに促進してくれるもの。ティンプーに1つと言わず、モノづくりの文化を復興させるため、各県に1つ、ファブラボができるといい。政府主導ではなく、民間主導でファブラボ・ブータンができたことには感謝したい。次の1年で、もっと多くのファブラボが国内にできると嬉しい。

「1県1ファブラボ」はちょっと長い道のりだと思うが、ファブラボ・ブータンの開所までの歩みを見てきた者として、完全に民間主導でやるにはブータン人は根気も勇気もなく、相当な困難があるものと予想する。むしろ、全国にある単科大学や職業訓練校にファブラボを設置し、学生の実習で使う時は使わせ、維持管理予算もある程度は政府がカバーし、部品の調達なども無税でスピーディーに行える措置を施すなどのことは行った方がいいと思う。

その上で、近隣の市民に広くオープンにする。単に外から持ち込まれたニーズを形にする作業を受注するのではなく、一緒に考えてユーザーに製作させるよう仕向けることも必要だ。

地域の特性によって機材のラインナップも特色を出した方がいいと思う。全てファブラボ・ブータンと同じ工作機械を揃える必要もない。ニール教授は、複数のラボの間で相互補完関係ができたらいいと仰っていた。

この国は「ローンチング文化」――始める時は皆が注目し、素晴らしい取組みだと皆が称賛し、政治家もメディアも大々的に取り上げるが、その取組みが地道に1か月後、3か月後、半年後、1年後、5年後、10年後にまで続けられるかどうかが大きな問題だ。ファブラボ・ブータンにそういう轍を踏ませてはいけないと思う。「ローンチング文化」に批判的な立場である以上、ファブラボ・ブータンを徹底的に使い倒し、潰させないよう自分も頑張らねばと思った。

【関連記事】
「ティンプーにファブラボ」(2016年11月14日)
「モノづくりの狼煙」(2017年7月12日)

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