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今年も多い、教員の途中退職 [ブータン]

教員退職者数、過去5カ月で120人
120 teachers resign in five months
Kuensel、2017年7月8日、Tshering Dorji記者
http://www.kuenselonline.com/120-teachers-resign-in-five-months/

【ポイント】
今年2月の新学期スタートから現在に至るまで、ほぼ1日1人のペースで教員が自主退職しえいる。教育省が明らかにしたもので、5カ月で120人が辞めている。2016年には年間で200人が辞めている。2015年は142人、過去5年間で合計1,464人が教職を去っている。

教育省の制度改革導入以降、退職者数には歯止めがかかっている。とはいえ、学期途中に急に退職するという傾向は由々しき事態だと大臣も認めている。

現場の教員の声を聞くと、教務の負荷の大きさや、劣悪な労働環境、その割に安い待遇などが退職の理由だという。そして、多くの退職者にとって、究極の目的地はオーストラリアだという。いくら労務負荷が軽減され、労働環境が改善され、待遇が改善されたとしても、オーストラリア留学の夢は多くの教員が持っているという。

教育省では、オーストラリアに行きたい教員を引き留めるのは難しいが、現在の職務環境を改善するための取組みには多くの予算を配分してきた。昨年は教授法研修に1億ニュルタムを配分、今年は1億ニュルタム以上を教員の英語コミュニケーション能力向上に配分する予定。加えて、教育省では教員の労務負荷を見直し中であり、さらに首相の国会演説で表明された通り、全教員に修士号を取らせる方針でもある。

ノルブ・ワンチュク教育相は、次期12次五カ年計画において、遠隔地の教員宿舎の施設改善を図ることが教育セクターのインフラ整備事業として計上されると述べる。同時に、教員への金銭的インセンティブ措置も導入し、教員を国づくりの中心に据え、その士気を高め、動機付けを図って労働環境の改善に努める考えを明らかにしている。毎年開催されている「教員の日」に、レッドカーペットを教員に贈ることも考えているという。

しかし、4月に行われた記者との懇談会で、首相は現状はさほど心配していないとの見解を述べている。首相によると、人が自分が働きたいと思う場所で働くことは基本的な権利であるという。2016年の退職者は全教員数のわずか2.4%に過ぎない。この数字は、公務員全体での退職率との比較でも特段高いわけではないという。加えて、教職を離れるということは、他の教員予備軍にチャンスを与えることでもある。「教員が離職するというのは、その教員が仕事について幸福感を持っていないからではなく、私立学校や海外により魅力的な機会があるから起きるのだと思う」と首相は述べている。

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ブータンってつくづく個人主義の国だなと感じるのは、年度途中であっても、後のことを考えずに平気で職を離れてしまう時だ。日本だったら、今いる職場に対する最低限の配慮として、1カ月前通知とかいう制度を設けているが、多くの日本人がここで働いていて戸惑うのは、そんな前広な事前通知もなく、突然辞めるというケースがほとんどだからだ。そんな急に言われても欠員の補充はすぐにはできないし、当然、後任者との引継ぎなどは全くない。

なんでそんなに急なのかというと、たいていの場合は「以前から出していた留学申請が受理された」とか「奨学金給付が決まった」とかいった、留学絡みのことである。行き先はオーストラリアが最も多く、文科省国費留学制度を持っている日本の場合も、こういう傾向を多少助長しているところはある。各々の制度が他の制度への影響など全くお構いなしに独立で運営されているがために、留学できる個々人にとってはハッピーかもしれないが、残される職場の同僚や学校の生徒たちが迷惑をこうむる。職場の上司は慰留しないのかと僕も知り合いに訊いたことがあるが、「個人の権利だから止められない。それに、本人のキャリアアップにつながるのだから、長期的に見たら良いことじゃないか」と開き直られる。

だったらせめて、年度途中とか学期の最中とかに離脱させない程度のことは最低限考えられるべきだという気もする。

年度途中の退職を認めているがために現場で起きる現象をご紹介しよう。

ある日突然理科の先生が辞めると言い出す。その先生は1週間に20コマ以上教えている。そんな先生が急に授業を持たなくなると、教育カリキュラムでも理科はアカデミック科目として必須だから、授業の埋め合わせを考えなければならなくなる。そこで、時間割の組み換えが学期途中で行われ、体育や美術といった、期末試験の成績を問わない科目を教えていた先生が、校長先生から「お前、理科も教えられるよな」と言われて、理科を持たされる。そうすると、元々カウンターパートと一緒に教えるのが前提となっていた学校配属の青年海外協力隊員が、体育や美術の授業を1人で持たされるようになる。

こんなことがとめどもなく繰り返されて、教員が辞めるたびに、そしてその補充教員が学期途中で着任してくる度に、時間割が組み替えられる。最近聞いた事例では、1学期中に5回も時間割が変更されたケースがあるという。しかも、知らされるのは当然、組み替えの当日朝であり、何も知らずに朝出勤して、突然時間割変更がアナウンスされるという。悪循環もいいところだろう。

教員の労務負荷は、僕ら外国人の目で見たらさほど厳しいとは思わないが、本人たち曰く「厳しい」としても、教育省もこれ以上の労務負荷軽減を図るのだとすれば、現場のボトムアップで教育の質を高めていこうとするのが当たり前の環境の中で育ってきた日本の教員が、ブータンの学校現場を見て戸惑いを感じるのも当たり前のことだろう。そんなところに、日本のスーパーサイエンス・ハイスクール制度をまねて「サイエンス・プレミアスクール」なるものを導入したとしても、教員がその追加的な労務負荷に対して拒否反応を示す可能性は高いと思う。

繰り返すが、たとえ離職が個人の権利であったとしても、離職を学期途中に行わせない措置ぐらいは設けてもいいのではないかと思うし、各国がブータンに提供している留学制度も、ブータンのアカデミックカレンダーに合わせて、残された職場への悪影響を極力抑制するような配慮をすべきだ。
タグ:教育 留学
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