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禁止薬物、学校にもはびこる [ブータン]

アルコールと薬物乱用、生徒の間でもはびこる
Alcohol and substance abuse rampant among students
Kuensel、2017年6月28日、Dechen Tshomo記者
http://www.kuenselonline.com/alcohol-and-substance-abuse-rampant-among-students/

【ポイント】
ブータン薬物規制機関(BNCA)は、UNODC(国連薬物犯罪事務所)の技術支援とエイズ結核マラリアグローバル基金の資金支援を得て、昨年10月から12月にかけて実施した、全国薬物使用実態調査(National Drug Use Survey)の結果を公表した。この調査は、学校ベース調査と地域ベース調査の2つから構成され、前者についてはクラス7(日本の中1相当)から大学生までを対象に、全校から9,368件のサンプルを集めた。うち4,564名は女子。

この結果、規制物質やアルコールを摂取したことのある生徒・学生数は多いものの、これらへの依存度の高い生徒・学生が少ないことがわかった(註、ママ)。調査によると、今までに一度でもアルコールを摂取したことのある生徒・学生は2人に1人、喫煙経験者は3人に1人という結果が出ている。学年が上に行くほど飲酒経験者の割合が高まり、大学レベルでは学生の7割が飲酒経験があると答えている。同様に、大麻使用経験者は生徒・学生の5人に1人、シンナー吸引経験者は6人に1人いる。

約67%の生徒・学生は、薬物購入費は自分のポケットマネーから捻出していた。

但し、依存症というに至るまで過度の使用状況にある生徒・学生数は、喫煙経験者の7%、大麻吸引経験者の2%、飲酒経験者の0.9%、シンナー吸引経験者の0.5%に過ぎない。

初めて飲酒や喫煙を経験した年齢は14~15歳、大麻やその他不法薬物の場合は平均16歳という。

一方、地域ベース調査では、アルコールにせよ大麻にせよ、初めて摂取した年齢が若いと、成長するにつれ依存症的症状に陥る傾向が強いことも明らかになった。

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記事では明言されていないけれど、この報告書自体は、6月26日にティンプーで開催された、世界禁煙デー祝賀式典(但し、世界禁煙デー自体は毎年5月31日だが、ブータンではこの日に国勢調査でお休みだったので、日を改めて開催されたのだろう)の場で公表されたようである。BNCAのスタッフが全員、時計塔広場に集まって保健大臣、教育大臣と一緒に写った集合写真を見たことがある。

言うまでもなく、この結果で驚かされるのは、大麻やシンナーの使用経験者の割合が、中高生や大学生の間で意外と多いということである。飲酒経験や喫煙経験については、僕らの学生時代を振り返ってみればブータンが特別だとは思わないが、大麻やシンナーの利用が若者の間で見られるといった場合、大学は出てもプラプラしている失業中の若者の間の話だろうと僕は思っていたが、大学や中等学校に在籍している時から広まっているというのはかなりショックだ。しかも、中等学校の場合は、貧しい世帯よりも世帯収入にゆとりのある、比較的裕福な家庭の生徒の使用が目立つと聞いた。そもそもポケットマネーから薬物購入できる生徒や学生というのは、比較的裕福な家庭の出身だということを暗に示している。

春期国会会期中の5月26日、教育大臣が下院質疑の中で、「2016年、4,668人の生徒が薬物使用していたとの記録があるが、うち約4,000人はティンプーの生徒だ」と答弁している。ティンプーの生徒の割合がその程度だというのは納得感があるが、問題は使用経験者の総数の方だ。北ティンプー選挙区で昨年行われた下院補欠選挙の有権者数が6,000人ほどだったことを考えると、生徒だけで4,000人というのはとんでもない数字だと思える。勿論、この「薬物」の定義の中には、大麻、喫煙、噛みタバコが含まれていて、大麻だけなら何人なのかはわからない。また、この際の質疑応答では、「薬物使用者=貧困世帯出身」という前提で話が展開したようだが、1カ月後にリリースされた実態調査結果では、どうもお金に余裕がある世帯の若者がやっているようだ。「うちの子に限って…」というのが起こっているようだ。

これらは、ブータン本当に大丈夫かという思いにさせるには十分なデータである。

クエンセルも時々ヘッドラインと記事のトーンが全然合ってない記事を平気で載せる傾向があるが、本日ご紹介した記事については、ヘッドラインと第1パラの記述が全然合ってなくて、「心配だ」というトーンなのか、「心配するに及ばない」というトーンなのか、どちらかがわからない。このクエンセルの記事が出た3日後、週刊タブロイド紙The Bhutaneseの7月1日号が、「生徒の5人に1人が大麻使用:実態調査(Survey shows one in five students used cannabis)」という記事を掲載したが、こちらの方がまだまともに思える。喫煙や飲酒を一緒に並べられるとインパクトが薄まってしまうが、本当の問題は「禁止薬物の使用」にある。

この日のThe Bhutanese紙には、もう1つの気になる記事が載っている。

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6月の薬物関連逮捕者は84名に
84 drug arrests in June
The Bhutanese、2017年7月1日、Damchoe Pem記者
*URLは後日追記します。

【ポイント】
ティンプー警察は6月、薬物密売や禁止薬物使用で84人を逮捕、うち57人はBNCAのカウンセリングに送られ、28人は不法売買で勾留中である(註:合計が合ってないようですが、ママ)。カウンセリングに送られた57人は、年齢は14歳から37歳まで、失業中の若者か、生徒・学生であった。この摘発により、警察はSP、N10、乾燥マリファナ、ハシッシ、シンナー、デンドライト等を押収。

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冒頭ご紹介した記事の中で、禁止薬物対策は、①需要減退、②供給抑制、③影響力削減の3つのアプローチがあると書かれていた。学校・大学へのアプローチは需要を抑制するためには必要不可欠だが、一方で上記の記事を読むと、供給ルートを断つための方策の必要性も感じる。

それともう1つは、今回は取り上げていないが、薬物中毒者の更生施設の収容人数に対して要入所者が増えすぎて順番待ちの状況が生じているという話も最近聞いた。今あるブータン青年開発基金(YDF)の更生施設のキャパは20人未満。入所して更生プログラムに参加するのは3カ月間なので、年間でも70~80人しか受け入れられない。6月に逮捕され、薬物依存のためカウンセリングに送られたのが57人いるということは、年間でも70~80人のキャパでは受け入れられないということになる。勿論、この更生施設で行われているプログラムが本当に有効なのかという別の議論もあり得るが。

この国で薬物対策の必要性を指摘すると、「でもね、大麻はそこら中に自生してるんだよね」と一笑に付されてしまうことが多い。問題だと気付いてからではもう遅いと思うのだけれど。

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