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大学と工事現場をつなげ [ブータン]

工学系卒業生の就職市場理解のために
Preparing engineering graduates for the market
Kuensel、2017年5月20日、Rajesh Rai記者(プンツォリン)
http://www.kuenselonline.com/preparing-engineering-graduates-for-the-market/

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【ポイント】
ブータンの建設業界と工学系学生とをつなぐセミナーが、2日間の予定でプンツォリンの科学技術カレッジ(CST)で開幕した。「建設業-実践を通じた理解促進」と題したこのセミナーは、建設業に絡む様々な課題を明らかにして、工学専攻の学生の進む業界とはどのようなところなのかを知ってもらうことを目的としている。ドルックホールディングス(DHI)傘下の建設会社CDCLと、CSTが共催。

コンクリートへの配合を通じたPETボトルの再利用、低コストの都市下水道技術、プンツォリン市の建造物の地震損壊リスク評価、橋梁建設技術等、建設業にまつわる様々な課題について議論がなされた。

RIGSSのチェワン・リンズィン学長は、「エンジニアリングではプロセスが重要であり、プロセスをしっかり見ていくことが重要」と述べた。

DHIのダショー・サンゲイ・カンドゥ会長は、このセミナーがこの国の抱える今日的課題に即したタイムリーなもので、インフラ開発はこの国の開発の核となるべきもの、建設セクターはブータン経済の最優先セクターの1つだと強調した。政府も業界全体をよくするよう取り組んではいるが、もっと重要なのは受注できる企業の数を増やすことである。また、会長は、経験不足や納期までの質の高い建築物を完成させることへのコミットメント、劣悪な労働倫理等がこの国に重くのしかかっているとも指摘し、今こそ一致団結して建設セクターの発展シナリオを抜本から変えていく時だと強調した。

セミナーでは、CDCLやCSTのスタッフに加え、他機関からも数名のリソースパーソンが参加。

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《実際に出ていたからわかる、セミナー2日目の風景》

記事で紹介されている2日間のセミナー、しっかり参加して、自分の発表だけではなく、他の発表者のお話も随分聞かせていただいた。

この国では、大学生の就職希望先ナンバーワンが公務員である。特に、CSTの土木工学科の就職率は100%らしく、そんな土木の学生が政府に入って公共事業省や農業省のエンジニアになるわけだが、中堅レベルの技術者が箔を付けるために続々と外国留学でポストを離れてしまう一方で、毎年採用される若手のエンジニアには、即戦力としての働きを期待される。特に上司や先輩、同僚から教わって覚えるわけではなく、最初から即戦力なわけだから、何をやっていいかもわからず、いい加減な形でお茶を濁す。施工発注側の設計の質が悪いのだから、出来上がりの構造物の質も悪い。この国のインフラ開発の問題って、そんなところから来ているように思う。

政府からすれば、どうしても即戦力として見なければならないのだから、そうなると即戦力育成は大学でということになる。いろいろな人から言われるのは、この国の大学では現場との交流がほとんどないために、実践的なことを教わらないということだ。今はひと段落したと聞くが、この国にあるカレッジは急造されたこともあって、学部生で優秀そうな者がそのまま教員として採用されているらしい。自ずと現場を知らない形で教員になっているのだから、現場との接点がない状態でここまで来た。でも、これでは実践的な授業はなかなか行うことが難しい。

大学生が学生でいる間に自分たちが将来働くであろう現場のリアリティを知る機会を作る―――このことは、道路橋梁の建設であっても、水力発電所建設であっても、耐震建築であっても、灌漑システム整備であっても同じである。政府と仕事して多くの人が感じる問題点はその能力の低さにあるが、多くの人はそれをOJTで解決しようと試みるものの、政府に人材を輩出する大学の教育内容にまで踏み込んで考える人は少ない。

だから、CDCLがCSTとコラボして、現場の人間が工学専攻の学生に対して現場の話をするとか、学生が取り組む研究に現場の人間がコメントするとかいった機会を作ったことは、画期的だと高く評価したい。だから、僕もこのセミナーには強い関心があり、自分でもペーパーを書いて、実際に発表者にも名を連ねたのである。

実際に出てみてよくわかったことを以下列挙してみたい。

第1に、やっぱり大学の教員は全体的に若い。しかも、プレゼン内容が歯の浮くようなレトリックをやたらと使うわりに中身が乏しい、というか、先行研究はそれなりに重視していて同じ方法論をブータンで取ってみるというタイプの発表で、一見、使っているデータセットとかもっともなものなのだが、机上分析が多くて現場での検証とかはあまり行われていない、行われていても比較的大学から近いエリアでしか行われていないということが多い。若い教員が現場を知らないというのは、プレゼンを聴いていれば一目瞭然だった。

第2に、そうした教員から指導を受けて行われている学内の学生グループによる研究も、日本で言えば高校の理科クラブで行われている実験に毛が生えたような内容であった。一見すれば社会実装につながりそうなテーマで、着眼点は評価できるが、では実際に社会実装しようとすると何をどうしていけばいいのかの考察はほとんどない。例えば、PETボトルを粉末状になるまで破砕してコンクリートに配合してゴミの軽量化とコンクリートの低コスト化を図るというのは面白いが、どうしたらPETボトルを大量に回収できるのかについては考えられていない。僕の息子と同じぐらいの年齢の学生が、こうした場で発表に挑んだ勇気は買うが、業界で意識されているコンクリートの評価項目を十分理解していないから、現場を知る人間に突っ込まれると、そこの考察まではしていませんでしたという、歯切れの悪い回答になってしまう。

第3に、CDCLなど現場を良く知っている人はやはり良く知っているという印象。「そこはそうじゃないんだよね~」などと上から目線で大学教員や学生のやったプレゼンにコメントしていたけれども、その一方で現場の人々は自分たちに欠けているのが「実証試験」等を実施する能力だというのも自覚されていて、大学とのコラボを真剣に考えられている姿は印象的だった。

全般的に、大学教員や学生の行うプレゼンには、方法論は一見適切だと思いつつも、現場のリアリティを踏まえた考察には欠けるところがあるように思った。業界関係者側のプレゼンは逆に非常にテクニカルで、現場でご本人たちが行っている実践内容をそのまま紹介しており、僕なんぞにはわかりにくいところもあったけど、でも自分達のやっていることを学生によく知ってもらおうという「愛情」のこもったものが多かったように思う。

言うまでもなく、僕自身にとっても、若干背伸びしすぎの感のあるペーパー執筆とプレゼンであったとは思うが、こうやって1枚噛むことによって信頼を得て、これで次の機会にまたお声をかけていただけるようにはなってくるのではないかと期待したい。聞けばこのセミナーはCDCLのCEOが4年前に構想し、時間をかけてそれなりの準備をして今日に至っている。このセミナーの盛況を糧にして、来年以降も毎年、ないしは隔年開催で、できれば国際セミナーにまで格上げして継続開催していきたいとCEOは仰っていた。そういう機会にまた特別に呼んでいただけるようになれば嬉しい。

そして2日間のセミナーが終わると、最後の夜は大宴会。業界関係者と大学関係者が混じって、いい感じで盛り上がった。
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