SSブログ

『SET FREE』 [ブータン]

Set Free: A Life-Changing Journey from Banking to Buddhism in Bhutan (English Edition)

Set Free: A Life-Changing Journey from Banking to Buddhism in Bhutan (English Edition)

  • 出版社/メーカー: Summersdale Publishers Ltd
  • 発売日: 2017/04/10
  • メディア: Kindle版

今年3月のブログ記事「英国人尼僧の奔走」でご紹介した、エマ・スレイド(戒名ペマ・デキ)さんの著書『SET FREE』(自由になる)をようやく読了した。穏やかな表情ですべてを笑顔で受け止められるエマさんの前半生が描かれた自叙伝で、1990年代、金融機関の債務アナリストとして、忙しい日々を送っていた彼女が、1997年のアジア通貨危機のさなか、滞在中だったジャカルタのホテルで暴徒に襲われ、あわや命を奪われるかという恐ろしい経験をし、そこからブータンで戒名を授かり、社会貢献事業に精を出すに至るまでの姿が描かれている。

僕のブログの読者にはブータンに関心のある方もいらっしゃるから前もって言っておくと、Kindle版はページ数が明示できないのでパーセントでしか言えないが、全体の55%、折り返しを過ぎたあたりから、ようやくブータンの記述が出てくる。普段読む英語といったら新聞記事やレポート、論文が中心で、日常生活での些細な動作や情景を細かく表現する英文は、遡ってみるとロバート・B・パーカーの「私立探偵スペンサー」のシリーズのペーパーバック以降、相当長い間読んでなかった気がする。自叙伝のような一人称の文章も久しぶりだ。こんなに読みやすいんだというのが率直な印象。さらに、Kindle版は単語を長押しすると訳語がポップアップで出てくる。そんな機能にも助けられて、なんとか読み切った。

といっても、購入から3週間かかってのようやくの読了だ。読み始めたのは歯の治療のためにインドに出かけた4月14日、インド滞在中に30%まで進んでいた。しかしその後は停滞。4月28日から5月2日まで国内出張した際、ネットにあまりつながらない環境の中、空き時間を利用して集中して読んで75%にまで到達。残りの25%は、ティンプーに戻ってからの2日間で読めた。特にブータンでの体験が中心となる後半部分は、かなりのスピードで読めたと思う。

エマさんがブータンと出会うまでの歩みは壮絶である。僕はアジア通貨危機の当時の金融マンが、深刻さを増す危機の進行をどう見ていたのかを知る興味深い本だと思ったし、それが自身にも身の危険が及んでどう心境が変わるのかも同様に興味深かった。

でも、実際に身の危険を感じて以降のエマさんの歩みを見ていると、お金持っている人でないととてもできないような世界的規模での移動と長期滞在に、正直言うとちょっと嫌悪感も覚えた。男性と恋の落ちる回数も数えられないほどで、ブログでご紹介するのも憚られるS〇X依存症に陥った記述まで出てくる。極めつけは妊娠で、子供が欲しくて相手を替え、妊娠がわかったのにその男性と別れている。このあたりは読むに堪えない、今のエマさんを個人的に知っているだけにとうてい信じられないようなストーリーが展開する。

それと、「ブータン」の登場の仕方がやや唐突。前々から頭の中にはあったと言いつつ、それが急に表出してきたところの記述は、「あれ?」というぐらいに突然だった。ともあれ2011年秋、インド経由でネパール、ブータンを巡る2週間のツアーに参加したエマさんが、たまたま偶然ドチュラ峠で出会った高僧とのやり取りから仏教に傾倒していくプロセスは、それはそれで目標が定まった人の一途な生き方が見事に描かれていて、前半との対照が凄すぎ、オセロが裏返るようなコントラストだった。

パロ、ドチュラ、チュカ、プナカあたりを旅したご経験のある方には、懐かしいと思われる描写が出てくる。勿論、ティンプーもちょっと出てくる。

前半生がどうであったとしても、今のエマさんのブータンとのつながり方への好感は、本書を読んでさらに増した気がする。また、今後エマさんと交流していくにあたっても、彼女がブータンのどことどうつながっているのかを予め承知しておくことは有用だろう。

読了したその日に、2月まで身近なところで働いてくれていたブータン人学生インターンに見事に期待を裏切られ、2月上旬にやってくれと指示しておいた発送の仕事をやらずに実習期間を終えて大学に戻ってしまっていたことが発覚し、僕はブータンの若者への信頼を完璧に失ってしまった。(僕は3週間一時帰国していたので、その間にとっくに済んでいるだろうと思って確認すらしていなかったが、発送されている筈の冊子が大量に入った段ボール箱が、なんと事務所の倉庫から出てきた。)僕の知っているエマさんは、ブータン人だけではなく、周囲の全ての人に対して疑うという気持ちをほとんど持っていない、疑うことを知らない人だと感じる。そんなエマさんの境地が今の僕にはとても羨ましい。

とはいえ、登場人物を実名で描いている場合と、肩書だけでしか登場しない人とが混在しているのを見ると、一部のブータン人に対しては、何らか含むところはあるのかなという気もした。

英語としてはわりとやさしめで、訳者泣かせの難しい表現は少ないように感じた。エマさんから、日本語版への翻訳を手伝わないかと誘われている。読んでから判断すると取りあえず回答保留にして今回読んでみたが、前半の翻訳には抵抗感がありそうだが、後半の翻訳はブータンを知っている自分にはアドバンテージがある。(但し、今の僕にはやるべきことが山積みなので、すぐに取りかかれといっても無理だろうけど。)どなたか出版してもいいという奇特な版元さんはいらっしゃらないでしょうかね。

nice!(3)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

nice! 3

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

Facebook コメント

トラックバック 0