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楽しい数学の時間 [ブータン]

数学は、創造的で、物語やイマジネーションに満ちている時が最高に面白い
'Maths at its best when it is creative, full of stories and imagination
The Bhutanese、2017年3月25日、Tenzing Lamsang記者
http://www.kuenselonline.com/youth-entrepreneurs-plan-to-produce-avocado-tea-and-flour/
*記事のURLは、同紙の記事更新がなされた時に追記します。

2017-3-18 MarcusDuSautoy.jpg
《王立個別指導プロジェクトのHPから》

今となってはちょっと古い出来事になってしまったが、3月13日の週から約10日ほど、英国オックスフォード大学の著名な数学者マーカス・デュ・ソートイ教授がブータンを訪問されていた。王立個別指導プロジェクト(Royal Tutorial Project)の一環で、その講義をビデオ収録してBBSで流そうということで来られている。ビデオ収録の合間に、プンツォリンのRIGSSやCSTをはじめとして幾つかの教育機関で特別講義も行われたが、折角の機会だからというので、王立プロジェクトの粋な計らいで、18日(土)夜、市民向けの公開講義が開催された。

冒頭ご紹介した記事は、その模様を報じたもの。この報道、クエンセルは3月20日付の同紙で1ページ扱ったのみだが、The Bhutanese紙は週刊タブロイド紙である利点を生かし、教授のインタビューまで2ページぶち抜きで掲載している。そのインタビュー内容までここでご紹介するつもりはないが、18日の公開講義は僕も出ていたので、その内容をちょっとご紹介してみたい。

多くの生徒さんや先生方が詰めかけた国際会議場での特別講義。マーカス教授の冒頭の話はどうやって数学に入って行ったかというものだった。教授は小さい頃、007の映画を見てスパイになることに憧れ、外国語を学ぶことから始めた。フランス語を手始めに、ドイツ語、ラテン語、ロシア語と手を広げていったものの、スペルや単語の多さや非論理的な語順に辟易するようになってしまった。そんな教授が、12歳か13歳だった頃、当時の数学の先生が教授を呼び、数学は単に四則演算や法則を学ぶことじゃない、もっと多くの領域があると言い、ある本を読むよう勧めてくれたという。それが数学との出会いだった。

The Language of Mathematics

The Language of Mathematics

  • 作者: Frank William Land
  • 出版社/メーカー: John Murray
  • 発売日: 1975/05
  • メディア: ペーパーバック

マーカス教授はこの本を読んで数学にハマっていったという。言語と違って、数学では全てがロジックに関わる。「数学は世界の共通言語(The Language of the Universe)」だと強調する。

幾つか例を挙げる。

北アイルランドにあるジャイアント・コーズウェイでは、玄武岩質の岸壁で、六角形の石柱が連なっている光景が見られる。これは風化により自然に形成されたものだ。同様に、ハチの巣も六角形が連なったハニカム構造になっている。雪の結晶だって自然に六角形が形成される。

自然界に存在する構造としては球体が挙げられる。自然は球体が好きなようで、雨粒などは形成するのに最もエネルギーが必要ない効率的な形態である。この原理を利用して、昔の人は高いところから熱した液状の鉄を落下させて地上の水桶に落とし、それによって完璧な鉄球や鉄製のベアリングを作った。深海探査機や潜水士のヘルメットが球体なのも、水圧に強い構造だからだという。それに、最も材料費がかからない構造でもあるという。

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《最近インドで見た球体ハウス。材料費節約できて強度も確保できるという》

自然界には、対称性を持つものも多い。花が好例だが、人間が描く曼陀羅もそうで、人の心理の中にある自我の総体性を描くと上下左右対称の世界が描かれる。対称性はモノの大小にかかわらない。ぺルぺスのウィルスだって対称性を持った形状をしている。

フラクタル構造もそうだ。木の葉が典型例だが、人間の肺もフラクタル構造を有するし、稲妻だってフラクタル構造だという。

さらにはフィボナッチ数列。これは単に理論的概念的なものではなく、花びらの数やパイナップル、リンゴ、オレンジ等の形状にもフィボナッチ数列が見られる。人が作る音楽やビル、それにカタツムリの成長過程にもそれは存在する。

自然界で見られる素数の適用で興味深いのは、北米で見られるセミの大量発生。7年、11年、13年等の周期で起きるが、これはセミが成虫として地上に這い出るタイミングで害虫害獣と遭遇しないよう、自然に形成されたサイクルだと言う。

では数学が全ての予測や説明ができるかというとそうでもない。振り子を2個つなげて動かしてみると、1個の振り子の規則的な振動とは異なる、非常に不規則で予測のつかない動き方をする。

世界の数学者の中で最も影響を受けたのは誰かとのフロアからの質問に対しては、19世紀フランスの数学者ガロアを挙げた。彼は行列理論で有名だが、なんと20歳で夭折している。その理由は、なんと決闘で敗れたからだとか。

また、別の質問に対しては、最近発達してきた数学教授法は、それに文脈やストーリーをつなげることだと回答。我々は数学に愛を注がねばならないし、それでインスパイアされたら、ハードワークも必要だと強調した。

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以上、教授が講演で述べた内容は、実は日本語の文献でもそれらしいことを知ることができる。教授の著書で邦訳されているのは次の3冊だが、作品解説を読む限りでは、今回の講義で使われた内容がところどころに散りばめられているようだ。

数字の国のミステリー (新潮文庫)

数字の国のミステリー (新潮文庫)

  • 作者: マーカス デュ・ソートイ
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2015/12/23
  • メディア: 文庫
内容紹介
素数ゼミが17年に一度しか孵化しない理由、世界一丸いサッカーボールを作る方法、雷とブロッコリーと株式市場に共通するもの、ベッカムのフリーキックが曲がる理由、パーティで仲の悪い二人が二人きりにならないようにする方法……。今なおトップクラスの現役数学者である著者が、数学の現場の豊富なエピソードを交えながら、この不思議で美しいワンダーランドをご案内します!

素数の音楽 (新潮文庫)

素数の音楽 (新潮文庫)

  • 作者: マーカス デュ・ソートイ
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2013/09/28
  • メディア: 文庫
内容紹介
2,3,5,7,11……素数は謎に満ちた存在であり続けている。19世紀半ば、「数学界のワグナー」リーマンは、雑音としか思えない素数に潜んでいる繊細なハーモニーを耳にした。数学界の「巨人」ヒルベルト、「審美家」ハーディーと「用心棒」リトルウッド、「革命家」コンヌ……。世紀を越えた難問「リーマン予想」に挑み、素数が奏でる音楽を聴こうとした天才たちの姿を描くノンフィクション。

シンメトリーの地図帳 (新潮文庫)

シンメトリーの地図帳 (新潮文庫)

  • 作者: マーカス デュ・ソートイ
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2014/08/28
  • メディア: 文庫
内容紹介
19世紀のパリ、決闘の果てに夭折した天才ガロアは新しい数学の言語を生み出していた。古代ギリシャから続く対称性探求の旅に挑む数学界の探検家たちは、その言葉を駆使して “シンメトリーの素数”を網羅した「地図帳」を完成させる。最後に発見されたのは19万6883次元の空間に潜む巨大結晶「モンスター」だった――。『素数の音楽』の著者と旅する、美しくも奇妙な数学の世界。

マーカス教授招聘は、現国王の問題意識によるものだという。元々王立個別指導プロジェクト自体が宮内庁傘下のプロジェクトだが、なぜマーカス教授だったのかというと、ブータンでは多くの生徒が数学が嫌いで、この科目のテスト成績が悪いというのを国王が憂えたからだと言われている。

僕自身、いつから数学嫌いになったかというと、高校1年の時だとはっきり言える。数学Ⅰ担当でクラスの担任でもあった某先生が嫌いだったからだが、不幸にも2年の時に教わった数学ⅡBの先生もどっこいどっこいで、この2年間、こと数学に関しては楽しい思い出が1つもない。マーカス教授の数学普及活動に近いことは、日本で言えば当時なら矢野健太郎という数学者がいて、高校の図書館にはその著作も随分と置いてあった。パラパラとページをめくってみて面白そうだなとは思ったものの、授業で習う数学の面白なさ加減が壁になり、その著書を読んでみようという気持ちに全くなることができなかった。つくづく偉大な教師との出会いがその後の人生にも大きな影響を与えるものだと改めて思う。

もう1つ。この王立プロジェクトのマーカス教授招聘は、開発協力ドナー円卓会議の裏日程で行われていたものだ。円卓会議には英国は参加してなかったけど、こういう王室プロジェクトではマイケルさんという英国名誉総領事をメンバーに据え、招聘される有識者も英国出身者が多い。支援額の多寡ではない、かなりオイシイところを英国が押さえているなぁと感心させられる。こういうので、日本人とか特別講師で招聘できたらいいんだけれど、主賓にチミ王女様が来られるような場で、大勢の観衆を前に、冷静にわかりやすい英語で講義をできる日本人っているだろうか。と思うと、英語って大事だよなぁ。


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Sanchai

サイトーさん、キリ番7000ナイス目をありがとうございます。
他の皆様も、ご支援ありがとうございます。
by Sanchai (2017-03-28 09:39) 

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