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『人と「機械」をつなぐデザイン』 [仕事の小ネタ]

人と「機械」をつなぐデザイン

人と「機械」をつなぐデザイン

  • 編者: 佐倉統
  • 出版社/メーカー: 東京大学出版会
  • 発売日: 2015/02/26
  • メディア: 単行本

内容紹介
私たちの身の周りにあふれるさまざまな「機械」。人類は機械を活用することで、生活環境を飛躍的に向上させてきた。しかし、原発事故の例にみられるように、そこにはかならず負の側面も存在する。そこで、デザインという視点から、人と機械の関係を問い直し、より良い未来社会の姿を展望する。

この本も、前回ご紹介した『海外でデザインを仕事にする』と同様で、自分が知っている人がインタビューで登場される章があり、僕の目下の関心事項とも共通する内容だったので、購入することにした。但し、中古品をBook Offで購入したのだが。

なにしろこの本、新品だとA5判でも定価が税抜きで3600円もする。さすがは東大出版会、相当強気の価格設定だ。この本が書店店頭に並んだ頃には既に存在を知っていたのだが、すぐ読みたいと思ったのが14章中1章しかないのに、3600円もの金額を払う気にはなれずに放置していた。それが、昨年の今頃たまたまBook Offで並んでいるのを見つけて、廉価で購入した。

但し、中には「謹呈 ヒューマンルネッサンス研究所」と書かれた短冊が入っていた。ということは、この本の編集出版に関わった人と何らかのつながりのあった人が、著者謹呈としてただで受け取った本を、中古本市場に横流ししたということなのだろう。Book Offの買取価格なんてたかが知れているが、何だか寂しいお話だ。せめて短冊は取ってからBook Offへ持ち込んで欲しかったものだ。

などと前置きを長くしてしまったが、内容的には読み手の問題意識によってはなんとでも読めそうな本だという印象を受けた。この本は元々はオムロンの傘下のシンクタンク「ヒューマンルネッサンス研究所」が東大の佐倉教授研究室に持ちかけて実現した共同研究プロジェクトで、人と機械の理想的な関係の未来像を構想するという目的で、東大つながりで様々な研究領域から研究者が参加、ヒューマンルネッサンス研究所の研究員とコラボして、3年間の研究の結果が本書にまとめられたものである。読み手の問題意識によってなんとでも読めそうだといのは、こうした分野横断的な知性が集結しての研究成果であることが一因だろう。

僕自身も、今の関心からすると第9章「デジタルファブリケーションとコミュニティの行方」第10章「イノベーションとデザイン思考の行方」、それに、義足製作を扱った第4章「身体との調和に向かう義足の行方」第5章「義足とポスト近代的ものづくりの行方」あたりは心に響いた。1年間の浪人生活を終えて来週から大学生となる長男が機械工学を専攻して実際に研究に取り組みたいと言ってるのが義手なので、自分の息子が勉強したいと言っている領域を先回りしてオヤジが理解しておくためには、こういう小難しいアカデミックな本をネタとしてキープしておくのは良いことだと思う。

義足の部分は具体的に我が愚息がその道に足を踏み入れる時に改めて息子の世界を知るための再読機会に取っておくとして、第9章、第10章で得られた気付きについては少し述べておきたい。

第9章では、ファブラボが改めて利用者相互に教え合い、学び合う場であるということを再認識させられた。ファブラボというと今のブータンでも迷走しつつも開設に向けた動きがあるが、設置される工作機械の操作を誰が習得し、それを利用者にアドバイスするのかが明確ではなかった。そこは早晩ボトルネックになると思い、一部分の機会についての操作は僕自身もできるようにしようと個人的な学習努力もしているところでもある。デジタル工作機械を使ってものを作ったことのある経験者がある程度ブータンに蓄積されていくまでには時間もかかるので、初期のうちは機材の使い方を知っている人から知らない人への一方向のアドバイスが行われるのは仕方ないかなと思う(その方がブータン人の国民性も合っていると思うし)。

それでも忘れてはいけないのは、相互学習のメリットだと思う。そういう場を設けることが、ものづくりのコミュニティを広げていくことにもつながっていくだろう。実は本書を読む直前、インドのファブラボを2カ所見学させてもらってきた。いずれのファブラボにもインストラクターはいたし、機械を初めて使うには壊さないよう横から教えてくれる人はどうしても必要だ。

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でも、一方の大都市の工科大学の構内のファブラボは、週7日、1日24時間開いていると聞いた。それじゃファブインストラクターも大変でしょうと訊くと、「いや、利用者同士で知っていることを教え合ってくれるので、ずっと寄り添っている必要はない」と言われた。ちょっと目からウロコだった。その直後にこの本を読んだので、その中で「自分みたいな専門の人間がいると、かえってみなさんのコミュニケーションを阻害するようで、基本はいろんあ人がいて、互いに知っていることを教え合ったり、互いに譲り合いながら機会を使ったりするよう仕向けるファシリテーターがむしろ必要」とあったところは、非常に腑に落ちた。以前から知っていたこととはいえ、改めて大切なことを思い出させてくれた、貴重な機会であった。

第10章は、ヒューマンルネッサンス研究所の研究員による執筆で、オムロンの製品開発におけるエスノグラフィック・リサーチの実際の適用例の話は、具体性があって非常に面白かった。

この本はその時々の問題意識によって読み方も変わってくると思うので、当分の間は自分の手元に置くつもり。中古とはいえ、バカにならない金額を払って購入した本である。今回は流し読みに近かったけれど、こうやって当面手元に置いて、必要な時に必要な箇所を読むようにしたい。そうしないと元が取れない。

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