『戦国北条記』 [伊東潤]
内容紹介
国府台(こうのだい)、河越(かわごえ)、三増(みませ)峠の各合戦や、小田原籠城戦――。
北条五代を「合戦」と「外交」を軸に読み解くことで、関東における戦国百年の実相が見えてくる! 伊勢盛時(のちの北条早雲)による伊豆平定から、小田原で豊臣秀吉に屈するまでの興亡の歴史を、最新の研究成果を盛り込みドラマチックに描く。従来の北条氏のイメージを一新させる戦国ファン必読のノンフィクション。
伊東潤作品は、これまで甲斐武田氏や徳川家康を主人公にした作品など読んできた。河村瑞賢を主人公にした『江戸を造った男』などは秀逸で、この作品英訳してくれないかなと思ったぐらいだ。でも、彼のライフワークというか、歴史小説の世界に入っていったきっかけは北条氏を中心とした関東地方の戦国時代を描くことだったと聞く。
僕にとってはこの時代の関東地方というのは一種のブラックボックスで、織田や徳川といった、美濃・尾張・三河あたりまでが舞台の作品ならともかく、関東甲信越の話になるとなかなか触手が伸びなかったというのが正直なところである。いずれ「北条LOVE」の作品群には挑戦せねばとは思ってはいるが、舞台をよくも知らないのは大きなハードルになっている。
そんなところに、まさにドンピシャの解説書が登場した。海堂尊が『ジェネラル・ルージュの伝説』で「桜宮サーガ」の作品群に登場する人物の相関図と年表などをまとめ、それが後々の海堂作品を読むのに非常に役に立ったように、今回の伊東作品は、まさに「関東北条サーガ」とでも呼べる解説書である。地図や家系図が頻繁に挿入されていることも、読み進めるための理解をかなり助けている。
何しろ戦国の世は昨日の友が今日の敵というような、情勢が時々刻々と変化していく、混沌としていて理解が非常に難しい時代である。味方が寡兵なのに大軍を打ち破ってしまう合戦も各地で起こっているが、それをその合戦の舞台での駆け引きだけで捉えていては不十分で、経済や外交といった、大所高所からの捉え方も必要となることを教えてくれる。
僕はこの時代の面白さを、小学校時代に豊臣秀吉の伝記を読んだことで知った。出発点が豊臣秀吉だと、当然見方が尾張・美濃、そして京都を中心としたものになるので、関東の北条氏は最後まで秀吉にはむかった、空気の読めない時代遅れの大名としか見ていなかった。その後、秀吉って案外汚いこともやっていて決していい男とはいえないという軌道修正はしてきたつもりだが、北条氏に対する見方が修正できたとは思っていない。
また、小田原城籠城戦の頃の北条氏当主は四代北条氏政だとずっと思っていたが、氏照とか氏直とか氏規とか、「氏」が付く名前が多く登場して、誰が誰だかわからなくなる。ましてや、僕の限られた理解の中では、北条氏といえば初代の北条早雲の後、二代目氏綱、三代目氏康のことはほとんど知らない形で、小田原城籠城戦の北条氏政にまで理解が飛んでしまっている。まるで一気にワープしてしまった感じだ。
そこに出てきたのがこの解説書だ。五代にわたる北条家当主のキャラの分析までされている本書、北条愛に溢れている。伊東作品の中には、太田道灌とか長尾氏とかが主人公の作品もあるが、この解説書があれば、それらの作品の味わいがもっと深まることは間違いない。
コメント 0