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Qちゃん来訪、マラソン王国への課題 [ブータン]

オリンピック・メダリスト、ブータン選手に可能性を見い出す
Former Olympic medallist sees potential in Bhutanese runners
Kuensel、2017年1月16日、Younten Tshedup記者
http://www.kuenselonline.com/former-olympic-medallist-sees-potential-in-bhutanese-runners/

2017-1-16 Kuensel.jpg

【ポイント】
JICAオフィシャルサポーターとしてブータン訪問中の高橋尚子さんが、15日、ブータンアマチュア陸上競技連盟(BAAF)の冬期トレーニングキャンプを視察。このキャンプは、全国20県から選抜された12歳から17歳の陸上選手約50名の合同合宿で、この中からさらに選抜された6名が、1月下旬日本を訪問予定。

視察中、本紙のインタビューに応じた高橋氏は、ブータンの海抜や澄んだ空気は陸上中長距離の選手育成には最適の条件だと評価する一方、選手のモチベーションの持続や練習環境の整備には課題もあることを指摘。オリンピックを目指すにはより手前にいくつか目標とする大会を設定して徐々に能力アップを図っていくといった個人レベルの取組みに加え、指導者側にも、他の選手と交流・競争し、自己記録の進歩を確認できる合同記録会や競技会のより頻繁な開催等の環境整備が必要だと指摘した。

高橋氏も、金メダルを獲得した2000年シドニー五輪の3年半前は未だマラソン自体を走ったことがない状態だったとの自身の経験を語り、今からでも遅くはないとキャンプに参加した選手を激励した。

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トブゲイ首相も、ブータン人選手がオリンピックで活躍できるとすれば最も可能性が高いのは陸上長距離であり、高地で心肺機能の高い選手に適切なコーチと栄養指導が付けられれば、2020年東京オリンピックでの良績も夢ではないと常々語っている。首相の話題によく登場するのは、昨年10月の「スノーマン・ラン」と呼ばれるガサ~ラヤ間53kmを2日がかりで走る山岳ウルトラマラソンで、女子の部1位となったラヤの女性の話である。この女性、実はランナーではなく、普段の高地での生活の中で当たり前のように不整地のトレイルを走っていたという普通の女性である。舗装された整地コースではあまりうまく走れなかったのが、不整地コースに入った途端にペースを掴み、先行するランナーを次々かわして1位でゴールしたのだという。

この話は、昨年10月クエンセルに寄稿した元同紙編集長ダショー・キンレイ・ドルジのコラムでも詳述されている。
"A marathon? A race? A cultural encounter?"
Kuensel, Saturday, October 29, 2016

http://www.kuenselonline.com/a-marathon-a-race-a-cultural-encounter/

僕も、これだけ海抜が高くてしかもトレイルランに適した土地が多いブータンは、その気になったら陸上長距離の練習にはすごく向いていると思う。高橋さんは2000年シドニーオリンピックで金メダルを獲られたり、2001年ベルリンマラソンで女子選手で初めて2時間20分を切る世界最高記録(当時)を打ち立てたりされる前、コロラド州ボルダ―で高地トレーニングを積まれたという話は有名だ。こうしてボルダ―から羽ばたいていかれた選手の成功譚がさらに選手を呼び、ボルダ―周辺は世界のトップアスリート達の集まる聖地となった。

海抜が高くて自然環境にも恵まれていることは、それ自体が地域資源となり得る。でも、これをどう生かすかという点ではブータンも課題が多い。

既に記事の中でも指摘がされているが、この国では選手間での競争環境があまり整っていない。こういう記録会やマラソン大会がもう少し頻繁に開催されるようになれば、しかもそれがネットなどを通じて世界に知られるようになれば、この国内を主眼にした陸上競技イベントにはブータン人選手だけではなく、外国の選手も参加しやすくなる。そうすると、ブータン人選手間の競争というだけでなく、外国の選手と競い合う中で自信を付けていくことも可能だろうと思う。

自国の長距離選手の育成というところでは、ケニアのケースは参考になる。随分前に地元の国際交流協会のセミナーに日本陸連の方をお招きして「アフリカ陸上選手の強さの秘密」というお話を聞いたが、なぜケニアがマラソンで強くなったのかというので、講師の関幸生さんは次の5点を挙げておられたのを思い出す。

 ①偉大な先駆者の存在
 ②英語でのコミュニケーション
 ③インフラ(国際空港からキャンプ地エルドレッドまでの交通アクセス)
 ④政治的安定
 ⑤貧困状況と競争意識

このうち、②から④まではなんとかなるかもしれない。でも、①(偉大な先駆者の存在)はまだない。トブゲイ首相は先述のスノーマン・ランで女子の部2位だったチミ・デマさんがティンプー在住であることもあり、非常に目をかけておられる様子が窺われるが、こういう選手が国際レースに出て、良績をおさめるようになってくると、続く若いランナーのロールモデルになっていけると思う。首相は17日にチミさんを高橋さんに紹介しているが、世界的に知名度の高いランナーと会うことで、チミさん自身のモチベーションアップにつなげようという意図は当然あっただろう。

もう1つの課題は⑤(貧困状況と競争意識)。ブータンはめちゃめちゃ貧しいわけではないし、誰か職にあふれる人が家族や親戚にいても、取りあえず何か手伝わせて食わせるぐらいのことはやれてしまう国である。ガツガツしてないのだ。勿論、それはこの国の良いところでもあるのだが。競争意識の醸成は、高橋さんも上記の記事の中で指摘されているポイントで、競争する場が少ないというところは少なくとも何とかしていく必要がある。1回大きなマラソンイベントをやったらそれでOKというものではないのである。

最後に、今回は高橋さんがブータンに来られたということで、「ブータン陸上王国化」の可能性について考察してみたわけだが、別に陸上選手の育成云々ということではなくても、中高年のランニング文化の醸成というところを狙ってすそ野を広げていくというアプローチもあると思う。50代のオジサンでも日本人は走っているんですよというのを見せてれば、ブータンのオジサンでも「オレもやろか」と徐々になっていくのではないか、それが「若い衆も走れよ」となっていくのでは―――などとちょっぴり期待している。

ランナーの幸福度、絶対高い。

【関連記事】
首相、オリンピック金メダリストと面談
PM meets Japanese Olympic gold medalist
Kuensel、2017年1月18日
http://www.kuenselonline.com/pm-meets-japanese-olympic-gold-medalist/

2017-1-18 Kuensel.jpg

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