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『VTJ前夜の中井祐樹』 [読書日記]

VTJ前夜の中井祐樹

VTJ前夜の中井祐樹

  • 作者: 増田俊也
  • 出版社/メーカー: イースト・プレス
  • 発売日: 2014/12/24
  • メディア: 単行本
内容(「BOOK」データベースより)
格闘技史に残る伝説の大会を軸に、北大柔道部の濃密な人間関係を詩情豊かに謳いあげた『VTJ前夜の中井祐樹』。天才柔道家・古賀稔彦を8年かけて背負い投げで屠った堀越英範の生き様を描いた『超二流と呼ばれた柔道家』。さらに、ヒクソン・グレイシー、東孝、猪熊功、木村政彦ら、生者と死者が交錯する不思議な一夜の幻想譚『死者たちとの夜』。巻末に北大柔道部対談を併録。人間の生きる意味を問い続ける作家、増田俊也の原点となる傑作ノンフィクション集。

今から3年前、このブログで『七帝柔道記』をご紹介した時、「本書は著者の大学2年目の7月までしか描かれていないが、その後の著者がどうなっていったのか、登場した人々がその後どうなったのかについては全く言及がない」と僕は述べている。また、「寝技中心の柔道―――もし七帝柔道出身者がその後プロレスの門を叩いたら、「関節技の鬼」藤原喜明や、当時新日本プロレスが招聘していた旧ソ連のサンボ出身のレスラー達とも相当いい勝負をしていたに違いない。立ち技中心の格闘技と違い、絞め技や関節技は地味でわかりにくく、面白くないのかもしれないが、当時は既に関節技やガチンコ勝負に関心も集まり始めていたので、旧帝大出身のプロレスラーも注目を集めていたことだろう」とも書いていた。

僕の不明を恥じた。著者増田俊也の3期後の副主将に、その後総合格闘技に進んだ中井祐樹がいたことを、その時にはあまり知らなかった。しかも、著者はその後もこの「七帝柔道サーガ」とも呼べる人間模様を、様々な形で描き続けていた。著者の在学中、北大は念願だった七帝戦最下位脱出を著者4年目の代で果たし、それから3年後、久々の七帝戦優勝を勝ち取る。中井はその年の副主将で、七帝戦優勝を機に北大を中退し、佐山聡(初代タイガーマスク)が立ち上げた「シューティング」の門を叩いている。プロシューターとしては短命に終わってしまうが、日本の格闘界に与えたインパクトは非常に大きかったらしい。

僕は中井がジェラルド・ゴルドーと対戦してゴルドーのサミングによって右目を失明する事態に陥りながらも勝利し、決勝で当時最強と言われたヒクソン・グレイシーと対戦するに至った「バーリ・トゥード・ジャパン・オープン95」というのを、僕は覚えていない。結婚の準備に忙しかった頃だし、それ以前に当時それほど総合格闘技というものに興味もなかったので、注目して見ていなかったのだろう。僕が総合格闘技を見始めたのは、2003年末に須藤元気がバタービーンを下したK1-Dynamiteの1戦からなので、約10年くらいのブランクがある。その間にどのような出来事があったのかは、本書を読むまで知らなかった。

ただ、本書で最も良かったのは、僕にとっては著者増田俊也と北大柔道部の2年先輩である和泉唯信との対談だった。実は、『七帝柔道記』は今、小学館ビッグコミック・オリジナルでの連載が始まっていて、今は隔月の別冊版に舞台を移して連載が続いている。ちょうど今和泉が次期主将に指名され、七帝戦最下位脱出のためには、今まで以上の練習量をこなすと宣言し、1年目の増田らに厳しい練習を課した時期が描かれている。道警への出稽古では、実力のあまりの違いに、何故このような厳しい、やる意味の見い出せない稽古を続けなければならないのかと疑問を抱きながらも、惰性的に出口の見えない毎日を過ごしているところである。

「なぜなのか?」との問いに、主将・和泉はその理由・目的を明らかにしていない。その背景が、この対談の中で明かされていくのである。和泉の言葉は非常に含蓄があるので、いくつかここでシェアしておく。

上が見えないと想像もできないし目標にもできない。

インターネットの便利な時代になって想像はしやすくなったけれども、実際に会う、実際に見る、実際にぶつかる、というんは別なんじゃ。一線を越えるというのは直接会ってみないと感じられない。

親鸞も言うとるが「明日ありと思ふ心の徒桜」ゆうてね、明日があると思うと、それが徒になる。

今は、何でもかんでも自分でしなきゃ、自分一人でできるというふうなことを皆、言い過ぎる。自分ができなくても思いを繋いだ人ができる。

ああ、そう考えていたんだあの練習は、というのがわかって良かった。漫画版『七帝柔道記』を読む際の参考になる。

3年前に『七帝柔道記』を読んだ後、まさにこの北大柔道部のOBの方と仕事で知り合いになった。竜澤・増田の代の10年ほど前の方である。その方からもよく話を聞かせてもらったが、このOBのネットワークの結束の強さには羨ましさも感じる。そういう中から、物書きとしての道を進む人、医療の道を切り開く人、総合格闘技に進んだ人、いろいろ出てくる。学生時代に一度突き抜ける経験をしているから、社会に出てからも強い。

古賀稔彦を背負い投げで投げ飛ばした堀越英範の背負いへのこだわり、打倒古賀にかけた執念の凄まじさにも、胸が熱くなる。高校時代からひたすら自分の投げの形の完成のみに取り組み、完全無敵の背負い投げを練り上げていくエピソードである。

今、ブータンには陸上長距離の高橋尚子さんが来られている。昨夜のブータン国営テレビ(BBS)のニュースでも報じられていたが、その中で高橋さんは、オリンピックの代表になることを目指すなら、他の選手と同じ練習をしているだけではダメで、他の選手以上の練習を自分に課していかないといけないと再三強調されていた。中井祐樹や堀越英範、さらには和泉唯信と北大柔道部のエピソードと相通じる重要な指摘だと思う。

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女性アスリート、日本の五輪選手から感化される
Women athletes get inspired from the Japanese Olympian
BBS、2017年1月15日、Damcho Zam記者
http://www.bbs.bt/news/?p=66035

2017-1-15 BBS.jpg

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