『X'mas Stories』 [読書日記]
X’mas Stories: 一年でいちばん奇跡が起きる日 (新潮文庫)
- 作者: 朝井リョウ・あさのあつこ・伊坂幸太郎・恩田陸・白河三兎・三浦しをん
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2016/11/14
- メディア: 文庫
内容紹介
もう枕元にサンタは来ないけど、この物語がクリスマスをもっと特別な1日にしてくれる――。6人の人気作家が腕を競って描いた6つの奇跡。自分がこの世に誕生した日を意識し続けるOL、イブに何の期待も抱いていない司法浪人生、そして、華やいだ東京の街にタイムスリップしてしまった武士……! ささやかな贈り物に、自分へのご褒美に。冬の夜に煌めくクリスマス・アンソロジー。
クリスマスがどうのこうの言える年齢では既にないし、とりわけクリスマスとは縁のない仏教国で12月25日を迎えようとしているわけなので、今年は特にケーキとも縁遠い。単身赴任だとささやかながらの家族との団欒もない。ましてや一番下の子供も中学に上がってしまった今となっては、プレゼントをせがまれることもなくなった。(そういうのは爺ちゃん婆ちゃんからもらえるお年玉だけにしておけということになる。)
こんなクリスマスを題材にしたアンソロジーを買って、一時帰国から戻ってきた理由は、ひとえに朝井リョウ君の作品が収録されているからであった。中身を確認せずに書店で購入してしまったので、こちらに持ってきて目次を読んでビックリしてしまった。ここに収録されている「逆算」って、今年9月に出た『何様』に収録されていた作品である。
こう書いてしまうとネタばらしになってしまうが、そういう意図ではないのでお許し下さい。この3カ月の間に、「逆算」を二度読んだことになるが、実は印象としては今回の方が良かった。世代の違いなのかもしれないが、朝井君の作品は、セックスへの言及が当たり前のように出てくる。そこは彼独特の表現で描かれが、実際の行為の描写がそんなにあるわけではなくても、それを主人公がどう捉えているのかは朝井作品にはありがちな描写だ。(だから、「水曜日の南階段はきれい」がかえって新鮮に感じるのだろう。そういう描写がないから。)
『何様』のように、『何者』に登場する人物を随所に配置したスピンオフ作品を並べられた著書の中では、作品の中の登場人物のほとんどが僕らの次の世代の人たちばかり、ややもすると自分の子供たちの世代の人たちの、親としては見たくない世界の話がこれでもかこれでもかと繰り返される。そんな作品群の中にポンと置かれると、「逆算」に対する印象も決して良くはなかった。同じような理由で、「水曜日の南階段~」も、初めて読んだ時と比べると、良くはなかったのである。単発で読んだ時はとても新鮮だったけど。
朝井作品は、続けざまに読むとどぎつさが際立つので賛否両論はあるけれど、こうして個々の作品を切り離して単発で読むと、その見え方も随分と変わる。正直言うと、今回のアンソロジーに収録された1篇としてこれを読むと、むしろなかなか良い作品だとすら思えた。クリスマスを舞台にした奇跡という点では最も現実的にはありがちな話で、多分僕がこうした作品集の中で欲していたものと近い内容を提供してもらえた感じが強くした。
同じ理由で、白河三兎「子の心、サンタ知らず」も良かった。
それ以外の作品は、現実的にはありそうもないストーリーが並んでいて、娯楽作品として読む分には遜色はないけれども、好き嫌いで言えばどちらでもない、取りあえず「読んだ」というのに留まるものだった。
あさのあつこ「きみに伝えたくて」は、怖かった。『バッテリー』ぐらいしか作品を知らない人間にとっては、ちょっと意外なストーリーだった。こういう作家なのだろうか?
伊坂幸太郎「一人では無理がある」は、これまで読んだ伊坂作品の作風と違わず、フムフムとほくそ笑みながら読めるお話だった。
恩田陸「柊と太陽」は、よくわからない話だった。『夜のピクニック』が良かっただけに、その直後にこのストーリーを読んでしまうと、今後恩田作品をどう読んでいったらいいのか、正直わからなくなる。
三浦しをん「荒野の果てに」は、これもまた三浦作品ならではの、綿密な取材調査に基づき、歴史上の出来事をうまく盛り込んで現代社会とのつながり方を面白おかしく描いたいい作品だと思えた。キリシタンであることが罪であった島原の乱の時代と、クリスチャンでもないのにクリスマスをみんなが祝う現代とを、「タイムスリップ」を用いて対峙させるというのは、三浦しをんさんらしい発想だと思う。
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さて、最後に多少は日記的な要素も書き加えて本日のブログ記事を締めくくりたい。
年の瀬も迫ってきた12月16日(金)、僕は自分自身へのご褒美として、ちょっと大きな買い物を注文した。それは無事に配送されれば「ブータン初の~」という冠が付くようなものなので、ブログで詳らかにして自分の素性を明かしてしまうというわけにはいかないけれど、かなり思い切った買い物だった。
朝方その発注を済ませて、1日を過ごしたが、夕方になって嬉しい知らせが届いた。昨年10月にある学会で発表した内容を、論文にしてほしいと言われて今年2月に書いたが、その後二度にわたって書き直しを指示され、くじけそうになりながらもそのたびに歯を食いしばり、なんとかそれに応じてきた。10月のティンプー・ツェチュ(大祭)の三連休は、その書き直し作業の締切直前だったため、3日ともその作業に充てた。睡眠時間を削ったつもりはなかったが、改訂稿を提出し終えた直後から体調を崩し、2週間ほど風邪が長引いた。
そんな悪戦苦闘の末に出来上がった改訂稿、採用されて論文集に掲載されることになった。査読付きのジャーナルへの掲載自体が初めてだし、しかも英文である。ついでに言えばテーマも正直言うと僕の専門外、人から「他にいないから」という理由で頼まれて、本当に他にいなかったから覚悟を決めて自分で行った発表から1年2ヵ月、嫌々ながらも要求に応じてきた努力がようやく報われた瞬間だった。
4月の剣道五段合格も嬉しい出来事だったが、これに次ぐ今年の大きな出来事だった。クリスマスイブには未だ早いが、この週末は1人で祝杯をあげている。1週間前倒しで、いいプレゼントを貰えた。
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