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この道はいつか来た道 [ブータン]

上院、農業セクターへの不満を表明
NC unsatisfied with agricultural sector growth
Kuensel、2016年11月24日、MB Subba記者
http://www.kuenselonline.com/nc-unsatisfied-with-agricultural-sector-growth/

【ポイント】
23日、上院自然資源・環境委員会(NREC)は、「農業政策レビュー」と題した報告書を上院に提出、この中で、農業セクターを取り巻く課題と農業生産拡大に向けた提言を行った。農業セクターを取り巻く課題として、報告書は、農産品輸入の増加、農村における空き家(gungtong)の増加、各県から寄せられる耕作放棄地増加の報等を挙げている。上院は、これらは適切な農業政策や戦略の欠如か政策実施における様々な問題によるものだと指摘する。

現行第11次五カ年計画期間における農業セクターの成長率は0.85~2.41%で、これは第2次産業(3.06~12.48%)、第3次産業(0.3~15.21%)と比べて低く、五カ年計画が描いた、農村の繁栄と貧困削減を通じて公平な開発を実現しようとする意図を実現するには不十分。GDPに占める農業セクターのシェアは、24%(2004年)から16%(2013年)にまで低下している。

農業セクターは今日、総労働力の56.6%(192,281人)を吸収。農業セクターでは労働力不足が指摘されるのに、若者の失業率は高いというパラドックスに直面している。2004年、ブータンは穀物、野菜、果物、カルダモンを合わせて28万620トンを生産、これが2007年には41万9782トンにまで増加したが、その後は反転し、2014年は28万4616トンにまで低下してしまった。

農地は国土の総面積の2.93%。ブータン国土地理院(NLC)によれば、耕作可能な湿地(chuzhing)と乾燥地(kamzhing)は合せて44万8165エーカーあるが、うち実際に耕作に利用されているのは2014年時点でも16万9439エーカー、これは耕作可能地の37.8%に過ぎない。残る27万8726エーカーは使われていない。水田面積は4万6585エーカー(2004年)から4万8873エーカー(2014年)にまで増加。これは2時点間の比較では4.9%の増となっているが、2007年には6万7564エーカーにまで増加したものが減少に転じた結果となっている。

一方で、コメの生産は実査には5万4325トン(2004年)から7万7038トン(2014年)に増加している。これは、灌漑整備への投資や、コメの品種改良、農業機械化の結果だと、報告書は評価している。2013年時点で、ブータン国内の灌漑システムの総延長は2583km、うち92.4%が機能していることが確認されている。しかし、灌漑用水は天水依存度が高いというリスクを抱える。

野菜の自給率は2005年時点で既に104%、2014年も106%を維持している。しかし、その生産は季節変動が大きく、ほとんどの野菜は6月から11月にしか供給されていない。ティンプー市内の野菜市場では、インド産の野菜に比べて国内産の野菜は17~167%も高い。報告書は、ブータンの地理的条件をうまく活用すれば1年を通じて同じ野菜を供給可能であり、インドからの輸入に依存しなくてもよくなると指摘。

畜産部門では、自給率は2007年の86%から2015年には71%にまで低下してきている。鶏卵を除く他の畜産品の自給率はわずか50%前後に過ぎない。

報告書は、インド産鶏卵の輸入禁止措置によって国内産の鶏卵が増加したように、他の作物でも輸入禁止措置を導入して国内生産にインセンティブを与えるべきだと提言している。また、作物保険の導入も有効な政策として提言している。さらに、報告書は、雇用促進の観点から農業セクターへの予算配分は重要性が高いにも関わらず、第11次五ヵ年計画における予算配分は6.4%に過ぎないと指摘、配分増の検討を示唆している。上絵手、金融セクターからの農業セクターへの資金供給が少ない現状を問題視し、金融規制部門が農業与信増に向けた誘導措置を取ることを提言している。

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この国の農業セクターの現状が大づかみできる記事だと思ったのでご紹介しておく。「幸せの国」、桃源郷のような農村風景、人々の笑顔の写真等を見ているとなかなかイメージできないかもしれないが、この国はかつて日本の農村が経験してきて、今も苦戦を強いられているのと同じような問題に既に直面している。日本の農村がどのように衰退していったのかを振り返れば、ブータンの農村がこれからどうなっていってしまうのか、考えると心が痛くなる。

片や若者に就業機会をと言って様々な施策を既に政府は打ち出しているが、若者の農業離れに対しては有効な対策はあまり多くはない。片や農業以外のセクターでの就業促進策を打ち出しているわけだから、放っておいたら農業はもっと衰退しかねない。記事からもわかる通り、既に農業生産は右肩上がりではない。耕作面積も減り始めている。そこで取られている対策として、①灌漑、②品種改良、③機械化、④作物の多様化という方向性を打ち出していて、それなりに成果も上げている。加えて農業機械公社が始めているような請負農業も始まっていて、耕作可能だが耕作が行われていない土地を改良して、人を雇って耕作従事しようと取り組まれている。

2016-10-16 Bondey01.jpg
《黄金色の田圃、見た目は美しいが…》

近隣に大国インドを抱えていて、道路網を整備して物流を円滑にできれば、巨大市場への輸出でブータンも恩恵を得られるとの主張も耳にする。でも、賃金水準はインドの方が安いので、同じものを同じように作っていたらブータンの産品には競争力は乏しい。逆に、インドの安い産品がブータンに流入することになるから、国内産業を保護する観点から、輸入を禁止する措置の有効性が論じられたりするのである。南アジア全体を見て「連結性」を云々するのは正論だが、インド以外の近隣の小国の置かれた特殊事情への配慮も伴わないといけない。

1つの政策で全ての問題を解決できるような「銀色の弾丸」があるわけではないが、体を動かす、汚い仕事をあまりやりたがらないブータンで、農業だけで若者を誘引することはやっぱり難しい。地方に住んでいても、ティンプー並みに情報にアクセスでき、商売が成り立つような環境を作り、普段は別の商売に従事し、空いた時間で農作業をやる、あるいは農業に従事しながらも、機械使用等で農作業の効率化を図り、空いた時間で他の生計活動を行う、そんな兼業が成り立つような環境を作ることが必要なのではないかと素人は考える。

タグ:農業 雇用
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