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ブータン企業家週間 [ブータン]

誰がどう決めたか定かじゃないが、11月14日から20日まで、「世界企業家週間(Global Entrepreneur-ship Week)」に定められていて、世界中でそれにちなんだイベントが開かれたらしい。この期間は僕は日本に帰っていたので、ブータンがどうだったのかはよく知らない。でも、こちらに戻ってきてクエンセルのバックナンバーを読み込んでいて、やたらと「起業/企業家」に関する記事が掲載されていたのが気になった。1つひとつを取り上げていたら大変なので、今日はダイジェストでご紹介してみたいと思う。

志は高く持とう、もったいぶらずにいこう
Be ambitious, not pompous
Kuensel、2016年11月16 日、Tshering Palden記者
http://www.kuenselonline.com/be-ambitious-not-pompous/
世界企業家週間のオープニングを飾るパネルディスカッションに関する記事。政府系企業の持ち株会社であるドルック・ホールディングスのサンゲイ・カンドゥ委員長は、一夜にして金持ちになりたいと考えていては多くのビジネスの種がものにならない。国は企業家支援に不慣れで、民間セクターの信頼を損なってきたと指摘。政府は事業提案書の書き方等の訓練は行うが、銀行はプロジェクトファイナンスの仕組みを持っておらず、結局企業は融資を得られない状況に終わっている。一方で、企業家側もなんとか受けられれた融資で車を購入したりして事業実施を滞らせる。起業に本当に必要な資金の調達が問題だとカンドゥ委員長は指摘し、政府と銀行が資金供与のための信頼性の高い制度を構築することが必要だと述べている。

社会起業家の1人であるプシュパ・チェトリ氏も、資金調達の難しさを指摘。一方で、レキ・ドルジ経済大臣は、政府が事業機会情報センター(BoiC)や農村企業開発公社を設立し、起業支援融資目的のために21億ニュルタムを銀行に資金注入するなどの取組みを行っており、インフラ整備などの投資環境の整備が進めば、企業活動はより進めやすくなると主張した。この国の企業家にとって最も重要な取組み課題は、自身の企業活動に対する信頼を勝ち取り、事業の進捗を地道に示していくことだと記事は結んでいる。

これに続く記事は、11月17日付クエンセル1面に掲載された世銀の労働市場に関する報告書。これについては既に前回のブログ記事で紹介したので省略する。

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教育制度は企業家精神を育むものである必要あり
Education system needs to foster entrepreneurship
Kuensel、2016年11月18 日、Younten Tshedup記者
http://www.kuenselonline.com/education-system-needs-to-foster-entrepreneurship/
これも、11月15日のイベントに関する記事。どこが主催したのかはわからないが、先ほどの記事とは別のイベントのようである。パネリストは、ドルック・ホストのサンゲイ・ツェリンCEO、王立ティンプー単科大学のタクール・シン・ポウデル学長、ティンプー・テックパークのツェリン・シゲ・ドルジCEO。この記事では、大学を卒業した若者や求職者にとって、企業家になること自体があまり心をそそるキャリアパスではないこと指摘、若者の失業率がこれだけ問題視されているのに、起業という選択肢がなかなか指向されないのはなぜなのかが論じられた。その上で、この国の教育制度、特に高等教育レベルにおいて、学生に対して実りある雇用機会を得るための備えをさせることが必要だとの指摘が相次いだ。

特に多く引用されているのは、サンゲイ・ツェリンCEOの発言。高等教育どころか、かなり早い段階から学校教育の中で起業に必要なスキルの教育が行われる必要があると主張。また、ブータン人には起業を指向するのに必要な「推進役(drive)」が欠けていると指摘し、既に起業で成功を収めている人々に光を当て、ロールモデルとしてプレイアップする必要があると述べている。また、ツェリン・シゲ・ドルジCEOは、大学レベルでは既に企業家精神の醸成のための取組みを始めているところもあると指摘、既にインキュベーション施設は設置されているのに十分活用されていないので、その有効活用から始めてはどうかと述べている。ポウデル学長のコメントは現状肯定的で、言及を省略する。

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そしてクライマックスは11月19日付クエンセル。驚くべきことに、起業や雇用に関する記事ばかりが並んでいる。


2016-11-19 Kuensel01.jpg

障がい者の雇用機会を作る
Creating jobs for the differently-abled
Kuensel、2016年11月19 日、Dechen Tshomo記者
http://www.kuenselonline.com/creating-jobs-for-the-differently-abled/
起業という文脈ではないけれども、第1面ではジグミ・ドルジ・ワンチュク国立レファラル病院(JDWNRH)で18日から始まった、障がい者向け職業訓練の記事が取り上げられている。この訓練は、労働人材省が日本のNGOである佛子園の協力を得て実施する障がい者及びその家族向けの実技訓練で、1日3時間、3カ月実施継続が予定されている由。参加者は16名で、うち9名は車椅子利用者で、元々理学療法を受けるために病院に頻繁に通う必要があった人々である。

JDWNRHがこの訓練の会場となった背景には、この病院のベッドシーツや枕カバー、スタッフの白衣等の調達で毎年多くの予算を費やしてきたことがある。もしこれらの修繕が自前の営繕部門を持って進められれば、病院経費の節減にもつながるし、障がい者の雇用機会にもつながる。受講者の中から成績優秀者数名を、営繕部門のスタッフとして傭上する計画であるとか。また、記事ではこの訓練のトレーナーを務めるペマ・ドルジさんも紹介されている。聴覚に障がいを負ったペマさんの自立に向けた歩みは、記事後半のハイライトとなっている。

この訓練は、クエンセル編集主幹の琴線に触れたようで、週明け21日の社説でも取り上げられている。
http://www.kuenselonline.com/empowering-the-differently-abled/

ちなみに、記事では書かれていないが、佛子園によるこの訓練支援は、JICAの草の根技術協力事業の一環で行われているものである。


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起業家を勇気づける
Encouraging entrepreneurs
Kuensel、2016年11月19 日、Younten Tshedup記者
http://www.kuenselonline.com/encouraging-entrepreneurs/

18日はブータンにおける企業家週間の最終日だったようで、起業家支援を手掛けるローデン財団の主催で、2016年ブータン企業家表彰が行われた。この最終日イベントには、ツェリン・トブゲイ首相も出席し、受賞者の表彰を自ら行っている。

記事のほとんどは、この日、ブータン学生起業家大賞を受賞したダン・クマール・シャンデンさんの紹介。ダン・クマールさんは、2012年にゲドゥ経営単科大学を卒業し、これまで起業で何度かの試行錯誤を繰り返してきたが、2016年に入り、ワンデュポダンでエコ・ウェイスト・ソリューションというゴミ処理会社を設立。ゴミの4Rを導入し、それまで廃棄されるゴミは100%処分場に持ち込まれていたものを、80%にまで縮減するのに成功したという。ダン・クマールさんのこの試行錯誤の経験や、コンポスト化やモバイル・アプリの開発といった今後の事業展開計画は、同様に起業を目指そうという若い人にとっては1つのロールモデルといえるだろう。その彼も、事業展開に必要な資機材整備にかかる費用をファイナンスできる資金調達手段の制約を大きな課題として指摘している。


銀行が起業に融資できないのは政策の欠如が原因
Lack of policy obstructs banks from financing start ups
Kuensel、2016年11月19 日、Tshering Palden記者
http://www.kuenselonline.com/lack-of-policy-obstructs-banks-from-financing-start-ups/
上で紹介した記事のすぐ下に、もう1つ起業(スタートアップ)を妨げている要因に関する記事が載っていた。これも、企業家週間中に開催された何かのイベントのレポートだと思うが、ブータン金融機関協会のキプチュ・ツェリン会長の発言として、銀行業界としては起業促進事業に協力していくことはやぶさかではないが、経済省がベンチャーキャピタルに関する政策を明確に打ち出すことが大前提だと述べている。なんとなく銀行業界の弁明に聞こえる発言には聞こえるが。ツェリン会長によると、現在の金融規制ではベンチャーへの出資には30%の上限が定められているというので、出資ができないのだというが、貸出の話と出資の話がごっちゃになっている印象は受ける。


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ファブラボがブータンにやって来る
FabLab comes to Bhutan
Kuensel、2016年11月19 日、Thinley Zangmo記者
http://www.kuenselonline.com/fablab-comes-to-bhutan/
そして極め付きは、再びファブラボである。この記事、クエンセルの若者向け土曜特集ページ「K2」で取り上げられていて、しかもそれが上記の記事2つと見開きで隣り合わせになっている。ファブラボについては、11月14日付のブログ記事「ティンプーにファブラボ」で一度取り上げているのでここでは詳述しないが、このK2の特集記事は、今月上旬にブータンに来られていた慶應大学のお二人と、ファブラボ・ブータンの仕掛け人、それに以前クエンセルの寄稿でファブラボを取り上げたJICAブータン事務所の所長へのインタビューにより構成されている。ファブラボで何ができるのか、具体的に写真入りで紹介されたらもっと良かった気はするが、書いた記者自身もわかって記事を書いているわけではないと思うので、ファブラボが2頁にもわたり取り上げられたこと自体、快挙だと思う。

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今週に入って、未だ続きの記事もあるようだが、取りあえずは11月14日から19日までのクエンセルの中から、関連性があるものだけをピックアップして、ご紹介してみた。


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