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高地民の葛藤 [ブータン]

ヤク飼いの人口、年々減少
Number of yak herders falling by the year
Kuensel、2016年10月22日、Tshering Palden記者(ラヤ)
http://www.kuenselonline.com/number-of-yak-herders-falling-by-the-year/

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【ポイント】
農業省畜産局の調べによると、高地民のヤク飼育頭数は年々減少している。2012年以来、ヤクの生息数は変わらないものの、ヤクを飼育している世帯数は2015年までの3年間、年率1.4%の減少を示している。ヤクを飼育しながら移動する高地人は11県にまたがり993世帯が確認されているが、飼育頭数は39,543頭(2013年)から38,222頭(2015年)に減少。ヤクの飼育が年々難しくなってきている実態が明らかになってきた。

10月16日から18日までガサ県ラヤで開催されたロイヤル・ハイランド・フェスティバル(以下、RHF)に全国各地から参加した高地民への聞き取りによると、ヤクの飼育が難しさを増している理由として、野犬やその他の害獣による被害や、人手不足等が指摘されている。ラヤの場合は、冬虫夏草の採取の方が高収入につながるということもある。海抜が低い地域での多様な経済活動や生計機会にアクセスしやすくなってきたことや、若者が正規の学校教育に参加するようになったこと、天候不順等の原因によるヤク移動飼育の難しさなどが絡み合って、飼育世帯数の減少につながっている。

ヤク飼いは一般的には環境保全との利害が対立すると見られているが、実際には放牧地のケアをして、長年その資源の保全に貢献してきている。季節移動は牧草地の効果的な管理と利用、流域の保護、聖地の保全等にも役立っている。また、移動高地民自身のユニークな文化や伝統も保全の対象として重要。こうした高地民の貢献度を考えると、彼らを開発の主流に統合していくことは必要不可欠だと考えられる。

RHFは高地民の直面する課題について、様々なステークホルダーが集まり、意見交換を行う機会として重要。課題に取り組むための技術の共有や、伝統文化の再興、彼らが他のコミュニティとの共存共栄を助ける政策やガイドラインの普及を図る、貴重なプラットフォームとなっている。

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10月に入ってから、ブータンのメディアが用いる言葉の中に、「高地民(Highlander)」というのが頻繁に出てくるようになった。それも、10月16日から18日までラヤで開催されたフェスティバルに関連付けた報道が多く、このフェスティバルには国王をはじめ、主要な閣僚や政府高官が軒並み現地入り、フェスティバルの位置付けの重要性が垣間見えた気がした。

ブログでは書かなかったが、このフェスティバルに先立ち、ガサからラヤまでの53kmを2日がかりで走る(歩く?)「スノーマン・ラン」という山岳ウルトラマラソンも開催された。主催者からお誘いを受けて少し心がときめいたりもしたが、スタート地点が3000m付近でそこからゴール地点が4200mという高度では、主催者は軽く言うけれども高山病が心配だ。実際、僕は昔ネパール・アンナプルナのトレッキングで、3700m地点で頭痛に襲われて体調を崩した経験がある。2日がかりで53kmは大した距離じゃない、ノープロブレムだと言われても、そうなるかならないかは本人の体質や当日の体調にも大きく依存する。

また、23日には、ティンプーで「国際ユキヒョウの日」の記念式典が開かれた。 ユキヒョウの日というのが世界的に制定されているというのは知らなかったが、12カ国にまたがって生息するユキヒョウは、高地山岳地帯のエコシステムのトップに君臨し、その生息数はその地域のエコシステムの健全性を測る指標となっているという。ブータン政府は今年、ユキヒョウの生態調査を行い、初めての調査レポートを発表した。絶滅危惧種らしく、ユキヒョウの生態把握は相当大変だったそうだ。海抜4,700mより上じゃないと生息していないらしい。

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ブータンで「すべての人々」という場合、こうした移動飼育を生業としてきた山岳高地民も含まれる。親から子へと受け継がれてきた生業も、正規教育への子供たちの統合と卒業後も都市部に残る若者たちの行動選択の結果として、徐々に維持困難になりつつある。そうしたところにしっかり注目し、さらには人間だけでなくそこに住む生きとし生けるものすべてに注意を払うブータンの視点は僕らにとっても新鮮に映る。

でも、流れを逆転させることはかなり難しいし、政府が有効な方針を見い出しているとは思えない。ソフトランディングの落としどころをどこに定めるのだろうか。ヤク飼いの世帯数の減少は、先週訪れたハでも耳にした。

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