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『500億ドルでできること』 [持続可能な開発]

五〇〇億ドルでできること

五〇〇億ドルでできること

  • 作者: ビョルン・ロンボルグ
  • 出版社/メーカー: バジリコ
  • 発売日: 2008/11/07
  • メディア: 単行本
内容(「BOOK」データベースより)
世界を救うための経済学的「正解」とは何か。地球温暖化、感染症の蔓延、内戦、教育格差、飢餓、独裁政治、人口と移住、水問題…。どれだけ金をつぎこんでもむくわれない問題とわずかなコストで劇的成果をあげられる問題がある。気鋭の経済学者たちが提言する世界的危機への優先順位ランキング。

以前、このブログで、The Nobel Laureates Guide to the Smartest Targets for the World 2016-2030という本を紹介した。2015年に発表され、17ゴール、169ターゲットもある持続可能な開発目標(SDGs)を、限られた資金でどこから手を付けていったらいいのかについて、2名のノーベル経済学賞受賞者を含めた世界的にも著名な経済学者を動員して、優先順位付けを行うというものだった。

こうした優先順位付けをビョルン・ロンボルグが代表を務めるコペンハーゲン・コンセンサス・センターが始めたのがSDGsが最初だとずっと思っていたが、実はロンボルグの著書はこれまでにも出ていて、そのうち幾つかは日本語訳も既に出ているのに気付いた。

本日ご紹介する『500億ドルでできること』は、原題"How To Spend $50 Billion To Make The World A Better Place"(世界をより良い場所にするのに500億ドルをどう使ったらいいか)という、ロンボルグが2006年に出したレポートの日本語訳である。

特に本文の中では「なぜ500億ドル?」ということについては触れられていないので、少しだけ補足しておくと、この当時は2000年に採択されたミレニアム開発目標(MDGs)を達成するためにどれだけの資金動員が必要なのかが議論の焦点になっていた時期で、特に2003年にメキシコで開かれた第1回開発資金国際会議(FfD)で、民間資金動員も含めて年間500億ドルの追加的資金が必要だと合意文書の中にも書かれている。どうやって「500億ドル」をはじいたのかは僕もよく知らない。

 世界が直面する問題にどう取り組むか? つまり、どこから手をつけて何をすべきなのか? 本書は、全世界を巻き込む課題の優先順位についての議論に、具体的な材料を投じるものだ。世界で最も差し迫った課題のいくつかについて、その概要と、何ができるのか、それにはどのくらいの費用がかかり、どのくらいの便益が見込めるのかを論じている。(p.8)

それでは、当時よく議論されていた世界の開発課題のうち、どこに優先順位を置いたらよいと本書では提言されているのか。203頁に専門家委員会によるランキングの一覧が掲載されているのでこれを見てみる。

【非常に良い】
 1.(感染症) HIV/エイズの抑制
 2.(栄養不良と飢餓) 微量栄養素の供給
 3.(補助金と障壁) 貿易自由化
 4.(感染症) マラリアの抑制

【良い】
 5.(栄養不良と飢餓) 農業新技術の開発
 6.(衛生と水) 小規模な生活用水技術
 7.(衛生と水) 地域が管理する給水と衛生設備
 8.(衛生と水) 食糧生産における水の生産性の研究
 9.(統治と腐敗) 新規事業開始費用の引き下げ

【普通】
 10.(移住) 熟練労働者の移住に対する障壁の引き下げ
 11.(栄養不良と飢餓) 乳幼児と子供の栄養の改善
 12.(感染症) 基本的保健サービスの拡充
 13.(栄養不良と飢餓) 出生児低体重の発生数の削減

【悪い】
 14.(移住) 非熟練外国人労働者の一時的雇用プログラム
 15.(気候変動) 最適な炭素税
 16.(気候変動) 京都議定書
 17.(気候変動) バリュー・アット・リスク炭素税

一見してわかるのは、扱われている開発課題がMDGsよりも広いことである。そして、費用対効果が高いとして専門家委員会が提唱している優先開発課題の多くが、MDGsにおいても言及があるというのも特徴的である。2015年の類書と比較しても、感染症や栄養、貿易自由化、農業新技術の研究開発等には共通して高い評価が与えられている。子供の健康に資する投資がその子供の長期にわたる労働参加と高い生産性を実現できることから、費用対効果が高くなるということなのだろう。

その一方で、気候変動対策自体の費用対効果については懐疑的な姿勢が貫かれている。これは2015年時点のレポートでも同じトーンだったので、共通した傾向だと言えるだろう。この点、単純に費用対効果が低いからというだけの理由で切り捨てていいのかという反論もあるだろうが、本書の姿勢は、「先ずどこから手を付けるか」というものなので、単に費用対効果が低いからやらないと言っているわけではなく、いずれやるということは示唆されているように思える。ただ、それでも釈然としないものが残るとは思うが。

また、本書の中では、「教育へのアクセス」、「紛争」、「金融の不安定性」についても論じられているが、最終的には専門家委員会の17項目の中からは除外されている。費用対効果を測定するには様々な前提条件があるが、その条件のブレ方が大きいので、費用対効果が大きいのか小さいのかの判断が難しいというのが理由のようだ。

ただ、「教育へのアクセス」という、MDGsに準じた課題としているのでそういう結論になってしまったのかもしれないが、大きな投資ではなくても、教育の中身を改善していくことで、他の開発課題に対してもポジティブなメッセージを教育の中で盛り込むことは可能なのではないかと思う。気候変動への意識付けや栄養改善、感染症への注意喚起、安全な水やトイレの普及等は、学校教育の中でもかなりできそうなことがあるように思える。また、身体の成長過程に添った運動能力の向上も、生産性の高い人を育てるのには必須で、そういうことは学校の体育で行われるべきことだし、高い教養、責任ある人間、社会への貢献意識等も、教育を通じて育まれるものなのではないだろうか。そういう視点からの分析は本書では行われていない。

なんとなく釈然としないものが残るが、1つの考え方としてはとても面白い。
タグ:MDGs 開発資金
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