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バイクレースに出た首相の話 [ブータン]

カナダ人選手、ツアーオブザドラゴンを制す
Canadian tops Tour of the Dragon
Kuensel、2016年9月5日、Younten Tshedup記者
http://www.kuenselonline.com/canadian-tops-tour-of-the-dragon/

2016-9-5 Kuensel.jpg
《今年は例年以上の悪路だったようで…》

ブータンの道路を車で走っていると、マウンテンバイクを走らせるサイクリストの姿をよく見かける。ティンプー市内には自分が知ってるだけでもバイクショップが3軒あり、この辺もサイクリストの数と合っている実感がある。なにせ先代国王もマウンテンバイクを走らせているというし、トブゲイ首相や主要な閣僚もバイク愛好家が結構いらっしゃるようである。

そんな環境だから、当然、マウンテンバイクのイベントも結構あるらしい。その中でも最高峰なのが、ブムタンからティンプーまでの268kmを12~14時間で走破するという山岳バイクレース「ツアー・オブ・ザ・ドラゴン」である。一見すると距離は大したことないかもしれないが、問題は高低差。途中3000m級の峠を3つ(ヨトン・ラ、ペレ・ラ、ドチュ・ラ)を越えなければならないし、最も海抜が低いワンデュの町は1200m、従って高低差は2200mあるのである。毎年高山病でリタイアを余儀なくされる選手も多く、完走率はあまり高くない。去年の優勝タイムはそれでも11時間55分52秒だった。

今年は9月3日(土)早朝午前2時にジャカールの町をスタートした。参加者は誰でもというわけにもいかないようで、わずか47名。うち20名が外国人選手だった。残念ながら日本からのエントリーはなかったらしい。去年に比べても道路状況は劣悪だったらしく、1位のカナダ選手の走破タイムは13時間2分5秒だった。完走は19名。外国人は8名。ブータン人選手よりも完走率が高いのは、勝負事で勝てる目途が立たないと簡単に勝負を諦めるブータン人の良くないところも垣間見る気がする。

2016-9-3 Kuensel.jpg
《コース図。9月3日付クエンセル紙から》

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ところで、今日のお話はこのバイクレースに出場経験のあるトブゲイ首相のお話である。この話は結構ブータン人の間では有名らしく、複数の人から聴いた。首相ご本人も体験談を語っておられる。

勿論、2013年の国政選挙で勝って首相になられてからは、公人である立場もわきまえて出場はされていない。これから書く内容は、首相が野党党首だった時代の話である。野党といっても、当時は野党の議席は2つしかなかった頃のことだ。

トブゲイ党首がツアー・オブ・ザ・ドラゴンに初出場したのは2010年、以後3年連続で出場されている。最初の年は10位台の後半でフィニッシュして、そこそこ行けそうという感触を掴んだ党首は、2011年の大会にもエントリーした。

15位前後を走行して68km地点のトンサ手前を迎えたところ、何かの拍子に転倒するアクシデントに見舞われた。顎を強打し、両肩両腕と両足を負傷した党首。その時点でサポートカーは追走していない。顎はうまく動かず、言葉を発するのもままならないほどの重傷だったらしい。リタイアして救急車で搬送してもらうことも考えたそうだが、なにせ救急車も近くにいない。救急車の到着を待ってティンプーまで搬送してもらうにしても6~7時間はかかるだろう。

トブゲイ党首は考えた。自分は2人しかいない野党の党首だ。不用意な行動は慎まなければいけない。こんなところでリタイヤして救急搬送のお世話にでもなったら、政治家が何やってんだとの批判も免れない。どうせ待っていてもそれだけ時間がかかるんだったら、取りあえずレース続行してティンプーに到着する方が早いかもしれない。

そして、再びレース復帰した党首。見事完走した後病院直行。結局顎が4カ所骨折する重傷で、バンコクで手術を受けたそうな。入院期間は1カ月。国を留守にしたことは申し訳ないとは思いつつも、負傷してもレースを続けて完走したそのガッツがあれば、何でもやり遂げられると自信を抱いたという。

翌2012年、捲土重来を期して再びツアー・オブ・ザ・ドラゴンに挑戦。なんと、200km地点のウォンデュ通過時点で3位と好位置に付けた。沿道から聞こえてくる情報では、後続の選手との差は1時間近くあり、もう入賞は確実だろうと安心し、ロベサ付近で休憩をとった。ところがこの後続との差はいい加減な情報だったようで、実は4位の選手はかなり近くまで来ているとの情報が入った。慌てて休憩を終えてレース復帰したが、ドチュ・ラ峠手前でとうとう追いつかれ、逆転を許してしまう。悔しい悔しい4位でのゴール。

翌2013年7月に行われた国政選挙で、トブゲイ党首率いる国民民主党(PDP)は、47議席中32議席を獲得し、トブゲイ党首は首相に就任した。2議席から32議席への大躍進だった。怪我をしてもやり遂げたあのガッツがあれば、不可能も可能にできる、その信念を見事に実現させた首相就任だった。

タグ:バイク
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