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『海の見える理髪店』 [読書日記]

海の見える理髪店

海の見える理髪店

  • 作者: 荻原 浩
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2016/03/25
  • メディア: 単行本

内容(「BOOK」データベースより)
伝えられなかった言葉。忘れられない後悔。もしも「あの時」に戻ることができたら…。母と娘、夫と妻、父と息子。近くて遠く、永遠のようで儚い家族の日々を描く物語六編。誰の人生にも必ず訪れる、喪失の痛みとその先に灯る小さな光が胸に染みる家族小説集。

東京に住んでいる頃、毎週のように図書館通いをして、借りたい小説がなかなか見つからない時、その空隙を埋めてくれていたのは荻原作品だった。最初に読んだのが『あの日にドライブ』だったのがいけなかったか、真面目なテーマなんだろうけどどこか滑稽さを漂わせる登場人物という設定に一種の軽さを感じていて、重松清のように「ハマる」というところまではとても到達しなかった。長編としては、この他に『明日の記憶』『花のさくら通り』、収録短編に荻原作品が含まれるアンソロジーとして『最後の恋 MEN'S』『短編工場』などがあるが、読んでてハズレはないものの、すごく読み続けたいというほどインパクトのある作品には出会ってこなかったので、他に読みたい本があればどうしても後回しにしてしまう作家だった。

ただ、もし「海の見える理髪店」が最初の荻原作品だったとしたら、僕は続けて作品を読み始めたかもしれない。意外性が大きい。荻原さん、こういう作品も書くんですか?ちょっとどころか、かなり驚いた。これに近い雰囲気を持った過去の作品としては『明日の記憶』はあるだろうが、これで直木賞を獲れていないとしたら、『海の見える理髪店』で受賞できたというのは納得である。

主の腕に惚れた大物俳優や政財界の名士が通いつめた伝説の床屋。ある事情からその店に最初で最後の予約を入れた僕と店主との特別な時間が始まる「海の見える理髪店」。
意識を押しつける画家の母から必死に逃れて16年。理由あって懐かしい町に帰った私と母との思いもよらない再会を描く「いつか来た道」。
仕事ばかりの夫と口うるさい義母に反発。子連れで実家に帰った祥子のもとに、その晩から不思議なメールが届き始める「遠くから来た手紙」。
親の離婚で母の実家に連れられてきた茜は、家出をして海を目指す「空は今日もスカイ」。
父の形見を修理するために足を運んだ時計屋で、忘れていた父との思い出の断片が次々によみがえる「時のない時計」。
数年前に中学生の娘が急逝。悲嘆に暮れる日々を過ごしてきた夫婦が娘に代わり、成人式に替え玉出席しようと奮闘する「成人式」。

本のタイトルにもなった「海の見える理髪店」、読んでて最後の数ページは涙が込み上げてきた。つかみでこれだと、後の作品はちょっとしんどいが、「遠くから来た手紙」、「時のない時計」、「成人式」は良かった。

いろいろ事情を抱えている家族を描いた作品を得意とする作家として森浩美が挙げられるが、彼の作品はハズレがなくある程度の打率を稼げるが、意外性の一発があまりないという印象。それに比べると、今回の荻原作品は状況設定がかなり凝っていて、空振りもあるけれど場外ホームランもあるという感じ。過去に読んだ荻原作品の中にも感じられた「凝り」がいい意味でも本書に生かされていて、いい作品を読んだなという気持ちにさせてもらえる。

だから過去の荻原作品も読もうか―――とはならない。残念ながら、今僕はそんなに簡単に過去本にアクセスできる状況じゃないので。また日本に帰って図書館が身近に感じられる生活に戻れたら、もう少し荻原浩のプライオリティを高くしたいとは思っている。

タグ:荻原浩
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