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『秘境ブータン』 [ブータン]

秘境ブータン (岩波現代文庫)

秘境ブータン (岩波現代文庫)

  • 作者: 中尾 佐助
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2011/09/17
  • メディア: 文庫
内容紹介
1958年に単身ブータン入りした探検家が、ヒマラヤにひっそり佇む古代的な小王国の自然と社会と文化を日本にはじめて紹介した。山ヒルの襲いかかる密林の道、ブータン・ヒマラヤの氷蝕地形、高山に咲く青いケシの花、チベット遊牧民の名残の風俗。百数十点の貴重な写真とともに臨場感あふれる筆致で描く。

久しく絶版だったが、2011年のワンチュク国王陛下御夫妻来日を機に起きた「ブータン本」ブームの中で、復刻なった1冊である。8月初めから読み始めたが、ダラダラやってるうちに月末を迎えてしまい、先週末にようやく読み切った。(ダラダラというのには語弊がある。ブログ更新が滞ったのもそうだが、公私ともども非常に忙しかったのだ。)

誰もが同意下さると思うが、ブータンのことが知りたい人にとっては必読の書だ。中尾佐助といえば植物学者だが、1953年のマナスル登山隊に川喜田二郎らと参加し、そこからさらにネパール・ヒマラヤのダウラギリ峰方面に向かった川喜田らと袂を分かち、ブータンへと展開したのが中尾であった。マナスル登山隊の科学班の経験は川喜田の『ネパール王国探検記』が詳しい。中尾の著した本書は、冒頭、再びネパールへと向かう川喜田と飛行機に乗り合わせるシーンが出てくるが、同じシーンは川喜田の著した『鳥葬の国』にも登場する。川喜田が行った1958年のトルボ地方踏査を元に描かれた1冊だが、こちらの川喜田チームには、後にブータンの農業開発に貢献する故・西岡京治さんも若手研究者として登場している。

ここで挙げた川喜田著の2作品、そして中尾著の『秘境ブータン』は、いずれも当時のチベット、ヒマラヤ地方の人々の生活や風俗を綴った、今となっては非常に貴重なベースラインデータとなっている。さすがに海抜が4000メートルを超えるような土地に行くには、ネパールであろうがブータンであろうが2週間程度のまとまった時間が必要となるので無理だが、こと『秘境ブータン』に関しては、隣国インドのカリンポンからの入国ルートから含めても、プンツォリン、パロ、ハ、ティンプー、プナカ、トンサ、ブムタンと、比較的僕らがアクセスしやすいエリアの踏査が記録されているので、昔の風景を踏まえてブータンの今を考えるにはとても有用なレポートだといえる。

今年は、日本とブータンが国交樹立してちょうど30周年だと言われるが、こちらのブータン人有識者と話していると、1957年に3代国王の王妃様が京都大学を訪れたのをもって両国関係の始まりだとしている人が非常に多い。そこから起算すると、来年は60周年ということになる。少なくとも京都大学にとっては来年は記念すべき年となることだろうし、それはブータンに住む僕らにとっても重要な節目の年になる。

このため、そもそもの日本とブータンのつながりはどこにあったのかを知っておくことは、今はとても大事だと思う。多分、この本も1回読んだらおしまいということではなく、おそらくこれから1年ほどの間は特に何度か読み返すことが必要になってくる予感がする。

そうした将来に備えてということがある一方、日常会話の中でも本書を話のネタにできる場面にはそこそこ出くわす。繰り返しになるが、中尾先生が歩かれたルートは、僕らが歩けるルートと相当部分かぶっており、実際にチュゾム橋からパロに向かう道路の途中に、おそらく中尾先生が立ち止まって見られたであろうお寺が今も残っているし、今だったら駐車場も整備されて家も相当立ち並んでいるプナカのゾンの対岸あたりも、60年前は全然何もない田畑だけだったようである。そういう話を、こちらでの普段の会話の中にちょっと交えたりすると、少しは僕もブータン通として見ていただけるかもしれない(と勝手な野望)。

従って、今回は取りあえずはひと通り読んだけども、今後は自分が国内を旅する時に携行して、この頃と今とを比較してみるのに使いたいと考えている。

ところで、SDGsには「持続可能なツーリズム」というのもターゲットに謳われていて、ブータンにもそれに近い取組みをされている団体がある。そういう団体が進めているのは、環境保全をテコにしたエコツーリズムだったりすることが多いように思える。まあそれはその通りだと思う一方で、観光客に体験してほしい持続可能なツーリズムが環境保全だけを目指しているとしたら、特にブータンの文脈で言ったらちょっと違うのではないかという気がする。中尾先生が訪れたハの風景などに関する記述を見ていると、実はブータンの持つ資源には環境だけじゃなく歴史というのも確実にあるように思えるのである。せっかくこれだけの歴史資源を有しているのだから、それも観光資源として活用していくこともちゃんと意識していて観光振興が行われたら嬉しい。

それにしても大作である。川喜田二郎著『ネパール王国探検記』『鳥葬の国』と同じ匂いを感じる良書。後世にまで語り継がれるべき1冊である。

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