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インドによる水力発電協力の評価 [ブータン]

8月22日(月)、インドの有力民間財団ヴァスーダ財団は、NGOオックスファム・インディアと共同で行ったインド・ブータン電力協力の実態調査の結果をHPで公表し、報告書のローンチングがここブータンでも行われた。それを受けて、全国紙クエンセルでは、24、25日の両日、この調査報告書の内容を1面トップで報じている。

*ヴァスーダ財団HPの調査報告書URLは以下の通り。ご興味あれば一読下さい。
 http://www.vasudha-foundation.org/wp-content/uploads/Final-Bhutan-Report_30th-Mar-2016.pdf

印ブ電力協力合意は疑わしい
Indo-Bhutan energy cooperation agreement questioned
Kuensel、2016年8月24日、Tshering Dorji記者
http://www.kuenselonline.com/indo-bhutan-energy-cooperation-agreement-questioned/

2016-8-24 Kuensel02.jpg

【ポイント】
ブータンのインドとの外交関係、及びそれを象徴する水力発電事業の実施は「政治的にデリケート」なテーマと見なされ、重要な情報が人々に届くのを妨げる可能性が潜在的にある。

水力発電プロジェクトのブータン国内での実施に向けた二国間合意に関する基本的情報へのアクセスには大きな支障がある。合意内容は公開されておらず、プロジェクトの実施内容の情報開示は最低限しか行われていない。これは、ADBとオーストリアが支援する水力発電事業の情報開示とは大きく異なる。

しかも、この情報開示はブータン国内でだけの問題ではなく、インドにおいても、情報公開法(RTI)に基づく情報開示請求がほとんど成果を生み出さない。

合意内容が開示されていない中で、二国間の合意内容は、ブータンに有利とはいえず、むしろインド側に有利なものである。水力発電事業体の意思決定へのインド側の参画は大きく、ブータンに比べて発言力が強い。建設業者や資機材納入業者も、インド企業が選ばれ、事業化可能性調査(F/S)や、詳細計画策定調査(DPR)、設計、インパクト事前評価の実施などもすべてインド企業である。ブータンにはこうした業者がいないとよく言われるが、実際のところADB/オーストリアの事業ではブータン地元企業が受注している。

また、財務内容を見ても、近年インドによる支援で進められてきたプナサンチュやマンデチュの水力発電事業は、無償資金に比べて有償資金の割合が高くなってきており、このことがブータン側の財務負担を高める原因となっている。しかも、当初計画額に比べて2~3倍もの費用高騰が起こっている。費用高騰はADB/オーストリアの支援でも見られないことはないが、これほどの高騰はインドの支援でしか起きていないという。

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水力開発の追求の陰で、環境は後回しか?
Environment taking a backseat in hydropower pursuit?
Kuensel、2016年8月25日、Tshering Dorji記者
http://www.kuenselonline.com/environment-taking-a-backseat-in-hydropower-pursuit/

【ポイント】
2日目の記事は、環境への悪影響に関するもの。

ワンチュ川水系に建設されたタラ、チュカの2つの水力発電所では、35kmにもわたって川が干上がるという事態に直面している。モンスーン明け後の衛星画像により調査を行ったもので、導水路での取水でワンチュ川の流量はゼロになり、流域の生態系に甚大な影響を及ぼしている可能性が指摘されている。

キリチュ水力発電所は貯水式の発電所で、ここでは河川の流量への影響は少ないと見られるが、貯水式の場合は土砂の流入によるキャパシティ低下が懸念される。

これら3水力発電事業の環境インパクト評価(EIA)は行われていない。なぜなら、これらの事業は環境アセスメント法が制定された2000年より以前に始まっているからだ。そもそもブータンには水力発電事業の実施に際して適切な河川の流下を維持するためのノルマや基準が定められていない。全国環境コミッション(NEC)は現在、2017年の制定を目指して基準策定の作業を進めているところだという。

インドの協力で進められた6つの水力発電事業は、地震の可能性が「高い」ないし「著しく高い」エリアに位置している。しかし、内務文化省災害管理局(DDM)は水力発電事業にはほとんど注目しておらず、発電事業体が災害管理・緊急時対応体制を整備することも義務化はされていない。

現在建設中のワンデュ~トンサ間3カ所での水力発電所でも、環境的側面は置き去りにされている可能性が強い。
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