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『定本 山村を歩く』 [読書日記]

定本 山村を歩く (ヤマケイ文庫)

定本 山村を歩く (ヤマケイ文庫)

  • 作者: 岡田 喜秋
  • 出版社/メーカー: 山と渓谷社
  • 発売日: 2016/04/22
  • メディア: 文庫
内容(「BOOK」データベースより)
都市近郊の低山から奥山の懐深くまで、ときに深い森をぬけ、ときに日本アルプスの高峰を仰ぎつつ、山とともに人々が暮らす風景を訪ねる…。旅行雑誌『旅』の名編集長として知られた著者が、歩いて旅した日本全国の山里のようすを精緻に記録した紀行文32編を収録。1974年に初版が刊行された際は大きな反響があった名作を復刻し、未来に伝えたい山村の風景を再現する。

このところマイブームになっていた日本の旅行記、取りあえずは本書の紹介でラストとなる。1974年といったら、僕は小学5年生。実際に著者が山村を歩いたのはもっと前だろう。1970年前後ということになるだろうか。「新幹線」や「高速道路」といった言葉がチラホラしている。目的地にはスピーディーに行きやすくなってきたけど、途中の景色を忘れがちになるという警告、ないしは愚痴めいたコメントも出てくる。

中身を具体的に紹介するよりも、本書で著者がどこを歩いたのか、一覧表を用意しておくとよいだろう。

【第1部 山村の組曲】
秩父、鳴子、飛鳥路、伊那街道、豊田村(長野県)、保福寺峠(長野県)、大湫(岐阜県)、阿武隈山地、
曽爾村(奈良県)、栗山郷(栃木県)、立山、西湖、朝日岳(山形県)、伯備線(鳥取県)、奥只見、
周山街道(京都府)

【第2部 アルプスの見える村】
木崎湖・中綱湖(長野県)、長坂(山梨県)、赤石岳(長野県)、高ボッチ高原(長野県)、野麦峠(岐阜・長野県境)、
裏穂高、清内路(長野県)、小谷(長野県)、泰阜村(長野県)、開田高原(長野県)、遠山郷(長野県)、
白馬山麓

【第3部 推理する山旅】
祖谷溪(徳島県)、柳久保(長野県)、秋葉街道(長野県)、白神山地(青森県)

著者ゆかりの長野県がどうしても多くなるのはしかたないけど、それでも読んでるととてつもなく面白い。著者の日本史に対する造詣、地質学に対する造詣、民俗学・民間伝承に対する造詣、どれも素晴らしく、単なる旅日記ではなく、読む側も随分といろいろなことが学べる。僕のくらしとは縁もゆかりもない地ばかりだが、挿入された地図を見ながら著者の足取りを追いかけるのはとても楽しいし、50年近く経ったその土地の今を訪ねて見てみたいと思わせられる。

特に興味をそそられるのが、1つは当時の日本に「日本のチベット」と呼ばれる土地がそこら中にあったというところ。岩手県がよく言われるらしいが、本書で扱われる土地に岩手と関係しそうなところは含まれていない。勿論、著者の感想として述べられている箇所もあるものの、山と山に挟まれてアクセスが極めて悪く、旅行者がほとんど足を踏み入れられないような土地は、結構「チベット」と言われていたようだ。僕が今住んでいるブータンはチベットではないが、当然ヒマラヤを挟んだチベットの反対側にあるわけで、当時「日本のチベット」と呼ばれるような土地の風景は、今のブータンの山村を見ていても結構想像できそうな気がする。

もう1つは、平家の落人集落というのが結構多いという点。本書でも頻繁に出てきていて、有名なのは祖谷溪や奥日光の栗山郷だろうけど、それ以外にも頻出した。もう1つ付け加えると、信濃国大河原というのが2章で登場するが、ここは南北朝時代に南朝方の後醍醐天皇第五皇子、宗良親王が拠点にしていた渓谷で、当然著者もそれと知ってて訪ねている。こういう中世の日本史にもつながる旅先の見分が結構多いので、読んでて面白い。本来旅ってそういうものなんじゃないだろうかと痛感させられる。野麦峠といったら当然近代蚕糸業史を多少かじった者にとってはそそられる話だし、青森あたりまで養蚕が行われていてオシラサマ信仰があったというのも面白い。

実際問題として今後僕が一度でも尋ねられそうなところは中央自動車道沿線の地域だろうが、ちょっと惜しかったのは奈良県曽爾村。この村は三重県境から近い山間地にあるが、僕はこの近くまで行ったことがあり、もう少し足を伸ばせば行けたのにと思うと悔しい。独身だった当時のその旅で、僕が尋ねたのは三重県美杉村、霧山城址を訪ねたものだった。でも、当時曽爾村のことを知っていれば、小太郎岩、鎧岳、兜岳、お亀池等、変化に富んだ地形を楽しみに、ここを訪れていたに違いない。実に惜しいことをした。

この手の本は、本文を読みながら挿入されている地図を時々見比べることが必要になるが、これを電子書籍でやるのは結構面倒だなと感じた。やっぱり書籍版の方が便利かなと思う。勿論、電子書籍版であっても読み進めながらGoogle Mapでチェックしたり、画像検索でその土地の風景を写真で確認したりする作業は面白いものでもあったが。

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