SSブログ

地理空間情報の可能性 [ブータン]

正確な地図作りに欠かせない地理空間情報
Geospatial data for accurate mapping
Kuensel、2016年6月9日、Younten Tshedup記者
http://www.kuenselonline.com/geospatial-data-for-accurate-mapping/

将来の開発計画と実施を促進する、国家地理空間情報データ開発のプロジェクトが進行中だ。National Land Commission Secretariat(NLCS)がJICAの協力を得て昨年2月から実施しているプロジェクトについて、昨日、ティンプー市内において、多くの関係者が参加した中間レビューが行われた。

2016-6-8 GeospatialData.jpg

このプロジェクトは、ブータン南部の11,000平方キロメートルをカバーする25,000分の1のデジタル地形図データの開発を目指すもので、この地域の9つの県(dzongkhag)が対象となる。

NLCSのペマ・チェワン事務次官によれば、ブータンは1960年代に公開された地形ベースマップを現在も使用している。これが実態に合っていないことは明らかだ。「過去70年間の大きな社会経済発展とともに、人の手が加えられるか自然災害によって地形が大きく変化している。正確な地形ベースマップがない限り、我々は開発計画の策定過程で誤った意思決定を犯す可能性が否定できない。」

プロジェクト・マネージャーのテンジン・ノルブ氏によると、地理空間データはいかなるインフラの建設に関する設計やフィージビリティ調査には必要不可欠だという。「地理空間データとは、地理上の地点データのことです。例えば、地図やグーグルアースは地理空間データとみなすことができます。」

ノルブ・マネージャーによれば、新しい25,000分の1の地図は今まで使用されてきた50,000分の1の地図よりも正確だという。「衛星画像を利用したプロジェクト対象地域のマッピングの作業は既に終了し、南東地域の現地踏査も既に終わっています。10月までには南西部の踏査も終了する見込みです。衛星画像を用いたマッピングが終われば、正確なデータを得るための現地での確認作業(validation)が必要になります。」

NLCSのイシ・ドルジ局長によると、ブータン統計調査(1981-86年)の結果に言及しつつ、政策立案者や計画策定担当、実施担当者等が正確な土地利用状況調査と信頼性の高い地図が利用できない場合、国家開発に向けたいかなる取り組みも失敗に終わると警鐘を鳴らす。「当時の統計調査では、利用可能だった50,000分の1の地図が計画策定には向いていませんでした。25,000分の1の地図が必要だったとレビュー結果は指摘しています。この統計調査は1986年に計画されたものですが、私たちはそれから30年も経って、このことを痛感させられています。」

同局長はさらに、ベースマップが更新されず、改善もされなかったという事実から、人々が計画策定にあたって地図を活用していなかったか、そもそも計画自体を策定していなかったことを物語っていると指摘する。「今後数年間で私たちがどれだけ進歩を遂げられるのかは、私たちがどれだけ良い計画を策定できるかにかかっています。私たちの計画は必然的に私たちが持つ地理空間情報の信頼性に大きく依存するのです。」

テンジン・ノルブ・マネージャーは、このプロジェクトで南部地域を主にフォーカスしている理由として、この地域が農業やインフラ開発において、大きな可能性を秘めているからだと述べる。「同様のプロジェクトを、今後は北部地域でも展開したいと考えています。そのための支援を得られる援助機関を探しているところです。」

今回のプロジェクトはJICAの全面的な支援を受け、総額500万ドルで実施されているものだ。協力期間は2年半で、来年9月には終了予定である。

xxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxx

―――以上はクエンセルに掲載された記事である。

既に多くの人がご存知のように、昨年9月の国連サミットで、持続可能な開発目標(SDGs)について合意された。これは17のゴールと各ゴールの下にぶら下がる169のターゲットから構成される。また、今年3月にはこのターゲットの達成状況を計測する指標として240の指標が提案された。

サミット成果文書の第76段落には次のように書かれている。国連加盟国は内陸国を含む開発途上国が、自国の統計機関とデータシステムの能力強化を図ることを支援し、高品質、タイムリーかつ信頼性が高い、属性による分解可能なデータへのアクセスを保証できるようにする。その上で、全加盟国は、目標達成への取組みにおけるホスト国のオーナーシップを尊重しつつ、地球観測や地理空間情報を含む広範なデータを活用し、高い透明性と説明責任を伴う官民の取組みのスケールアップを進めることに合意する。

目標達成への取組み状況をモニタリングする仕組みの検討は、新しい開発アジェンダの議論の中でも焦点の1つとなってきた。ミレニアム開発目標(MDGs)の教訓として、達成状況を計測できることが目標達成につながるというものがあるからだ。従って、新開発アジェンダの相当初期の段階から、その成功のカギは、成果を計測し達成に向けたインセンティブを与えるような強力な政府の制度、特に統計制度にあると見られてきた。

2015年4月にUNSDSNが発表したデータ・レボリューションに関するレポートによれば、SDGsの3つの領域(経済、社会、環境)のモニタリングに欠かせないのが統計データであり、レポートではそれに必要なものとして、各種調査、国勢調査、戸籍制度、教育管理情報システム、幾つかの経済・環境統計などとともに、地理空間データを挙げている。

地理空間情報とは、通常、地点データと地形データとして保存されている。これを組み合わせれば、データを地図上にプロットすることもできる。地理空間データには主にGISを通じてアクセスされ、操作され、分析が行われる。環境データは現在、衛星画像や航空画像(ドローンを含む)、地上に設置されたセンサーによって収集される。家計調査や国勢調査、経済取引等を地図情報と組み合わせる取組みは徐々に一般化してきている。

地理空間データは環境関連のSDGsの指標として必要不可欠である。例えば、SDG15は「 陸域生態系の保護、回復、持続可能な利用の推進、持続可能な森林の経営、砂漠化への対処、ならびに土地の劣化の阻止・回復及び生物多様性の損失を阻止する」ことを目標に掲げているが、国連統計委員会はこの達成状況を計測する指標として、「全陸域面積に占める森林の割合」、「持続可能な森林経営が行われている森の割合」、「森林純喪失」、「全陸域面積に占める劣化した土地の割合」等を挙げている。

また、SDG11は持続可能は都市開発に関するもので、例えばターゲット11.7には、「2030 年までに、(中略)人々に安全で包摂的かつ利用が容易な緑地や公共スペースへの普遍的アクセスを提供」するとある。これを計測するために、国連統計委員会は、「都市市街地面積に占めるすべての人々の公共利用のためのオープンスペースの割合の全国平均」というのを掲げている。これも、地理空間データを活用すれば計測可能な指標だ。

さらに、例えば地理空間データと家計調査データを組み合わせると、地点特性によるデータ分解と分析が可能になる。SDG9はインフラ開発に関する目標となっており、ターゲット9.1には「すべての人々に安価で公平なアクセスに重点を置いた経済発展と人間の福祉を支援するために、地域・越境インフラを含む質の高い、信頼でき、持続可能かつ強靱(レジリエント)なインフラを開発する」とある。これを計測する指標として国連統計委員会が挙げているものの1つが、「年間を通じて通行可能な道路から2km以内に住む農村人口の割合」である。

度々指摘されるのが、国の統計サービスについては一括運営する機関が既にあるものの、地理空間データの利用、更新等の責任は様々な機関の間で分散していることである。空間情報データインフラは、政府関係機関間で分散しつつも連携の取れたデータ管理を必要とする。SDGsのような複数セクターにまたがるデータモニタリングを可能とするプラットフォームが必要だ。

また、新しいデータの収集やモニタリングの技術は進歩が速く、すぐに利用可能になってくると見込まれる。こうしたイノベーションは、開発事業の計画策定と実施のあり方に変化をもたらすだけでなく、開発事業のインパクトをモニタリングすることも可能にする。高分解度衛星画像は入手可能性が高まるだけでなく、自動的な加工も可能になってきた一方で、入手にかかる費用は大きく低下してきている。収穫予測や、災害対策、地球観測と食料安全保障の達成状況、地理空間的決定要因を持つ感染症の感染経路のモニタリングや今後の予測、人口密度や居住地区の拡大状況の計測、道路交通インフラのマッピングと計画策定等、複数ゴールにまたがるデータの適用例が考えられる。

このように、SDGsのモニタリングには各国のデータ能力の大幅な改善を必要とする。高い頻度で質の高いデータを、持続可能な開発の様々な側面に関して収集するには、統計制度の近代化を進める必要がある。政府のパフォーマンスを改善し、エビデンスに基づく意思決定を行うには、より強力でシステマティックなデータ収集を必要とするし、地理空間情報インフラの形成には大きな投資も求められる。データは実施のための屋台骨を形成する。資源を配分して、官民の投資対象の優先順位付けを図り、効果的なサービス提供を実現するのに欠かせない。データインフラへの投資は、SDGsの目標達成には必要不可欠である。

国連サミットでは、ブータンを含む全加盟国が持続可能な開発の追求の中で、「誰も取り残さない」ことを約束した。しかし、公正な進歩を実現するにはかなり細かいデータが必要となる。この公約の実現には、最も貧しく脆弱な人々はどこに住んでいるのかを知り、どのようなサービスを彼らが必要としているのかを把握するためのシステムへの投資が拡充されないといけない。そのためには、地区・県・郡レベルへの分解と地図情報上での見える化が必要である。そういうデータ・インフラがあってこそ、政策立案者と市民との協働の余地が生まれてくる。例えば、以前紹介した県開発交付金(Dzongkhag Development Grant)や郡開発交付金(Gewog Development Grant)について、その県・郡の何にどれだけが使われたのか、利用可能な残額がどれくらいあるのかを、県、郡レベルの地理情報にプロットしておけば、住民が政府の取組みを監視したり、新たに開発事業の要望をしたりするのに有用なデータになるし、政府側からすれば、住民に対して説明責任を果たすことにもつながる。

以上の背景から、ブータンが地理空間データインフラの開発に取り組んでいるのはすばらしい第一歩だと思う。そして、こうした全ゴールに関わってくるようなデータインフラの整備をブータンで既にJICAが支援しているということは、JICAのSDGsへの取組みとして、もっとアピールされてもいいのではないかと思う。これを、ブータンでも生活水準が遅れていると言われる南部地域で先ず整備したというのも、「誰も取り残さない」という公約に見事に沿った対象地域選択だったのではないだろうか。

また、こうした地理空間情報は、単にブータンにとってメリットがあるというだけではなく、そこで活動する外国援助機関にとっても有用である。過去から現在に至るまで、どこの地域でどのような事業を行ってきたのかがすぐに一覧できるようになれば、過去の実施した事業が今どうなっているのかを確認しに行くことも容易になるし、そうした地理的な事業配分状況と実際のその地域の発展状況との比較もできるし、それをオープンにすることで、日本の納税者への説明責任、それに2005年グレンイーグルス・サミット以降、G7諸国の公約となっているオープンデータ化の取組みにも沿い、国際社会に対する説明責任を果たすことにもつながる。

nice!(3)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:日記・雑感

nice! 3

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

Facebook コメント

トラックバック 0