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『メイカーズのエコシステム』 [仕事の小ネタ]

メイカーズのエコシステム 新しいモノづくりがとまらない。 (OnDeck Books(NextPublishing))

メイカーズのエコシステム 新しいモノづくりがとまらない。 (OnDeck Books(NextPublishing))

  • 作者: 高須 正和
  • 出版社/メーカー: インプレスR&D
  • 発売日: 2016/02/17
  • メディア: オンデマンド (ペーパーバック)
内容紹介
iPhoneが製造されている中国の工業地帯、深圳。そして最も偽物のiPhoneが「発明」されているのも、深圳。「製造業のハリウッド」と呼ばれるかの地では、秋葉原の30倍の電気街をもち、100倍のベンチャー企業が最先端の電子ガジェットを作り、世界中にクラウドファウンディングで販売しています。そんな「IoT(モノのインターネット)」の中心を、高須正和・井内育生・きゅんくん・江渡浩一郎らが渾身のレポート。日本と深圳で自らベンチャーを行う小笠原治・藤岡淳一も寄稿。解説:山形浩生。

僕がブータンに引っ越してくる前、日本でメイカームーブメントに関わっておられる何人かの方々から、「面白いよ」と薦められたのがこの本。勿論、著者ご本人による自薦もあったけれど。僕はこの本の著者である高須さんが講師をされた勉強会に出たことがあるが、その時と同じ語り口がそのまま文章になっている箇所が随所に見られて、ちょっと吹き出しそうにもなった。おそらく本書にはプロのライターさんが付いていて、高須さんが口述したのをライターさんが文章に起こしたか、あるいは再構成もされたのではないかと思う。

書籍版にすると400ページもある本である。僕は電子書籍を購入してキンドルで読んだが、読み進めるにはかなり時間がかかった。電子書籍の良くないところは、全体の構成を把握しづらいことである。本書自体が構成的にわかりやすく書かれていないのか、そもそも電子書籍というのが持っている欠点によるものなのかはわからないが、イッキ読みではなく、少しずつ毎日コツコツ読み進めていく方法では、全体をどれだけ理解できたかやや自信がない。

本書の帯には、「全力で深圳を見てきた。シリコンバレーから深圳へ」と書かれている。とはいえ、必ずしも深圳だけが描かれているわけじゃなく、著者が住むシンガポールのケースも本書では出てくる。この本を読めば、いちげんさんにはわからない、深圳のディープなところはよく理解できると思う。僕らは中国製というと、なんとなくコピー版の電化製品を廉価で販売する、低賃金労働力を売りにした製造業が多く立地しているのではないかとおいうイメージで見てしまうが、本書を読むと、深圳の企業もそれなりにものづくりを真剣に捉えているし、小ロットでも生産を引き受けてくれる業者がいるということがわかる。自分でものづくりをやりたいと思っている人には深圳はかなり刺激的な地だ。「秋葉原の40倍」と言われても、容易に想像がつかない。

一方で僕のものづくりのレベルは、まだまだ使いこなせないIllustratorでなんとかデザインしたものを、レーザーカッターを使って木材やアクリル板にどうにかこうにか加工・プリントできる初心者レベルなので、まだまだ深圳には程遠いという気はする。ここブータンではデスクトップ工作機械はまだどこにもないが、もしファブラボのようなものが僕がこちらにいる間にできるようなことでもあれば、僕は入り浸って自分のスキルを高めたいし、そして少しはメイカーとしての実践経験を高めていければ、そのうちに深圳やシンガポールに行ってみたいという気持ちも芽生えてくるだろう。

それにしても、著者も含めて、こういうのにかかわっている人たちって、どうやって生計立てているんだろうか(笑)。いつ投資資金を回収できるかわからぬスタートアップに興味本位でお金注ぎ込めるんだから…。こんなこと僕がやってたら、嫁さんに怒鳴られるに違いない。

などと書き連ねてきたが、以下は本書の中からこれはと思った記述を抜き書きしたものである。残念ながら、電子書籍版だと引用箇所を「~ページ」と付記できないのが申し訳ないが、雰囲気は味わっていただけるのではないか。

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20世紀は企業vs.企業、製品vs.製品の戦いだったが、21世紀は生態系vs.生態系の戦いになる。

近年提唱されているScience、Technology、Engineering、Mathematicsの四つを強化する「STEM教育」、またはそれにArtを足すことで、ものを作る力をより強くしようとする「STEAM教育」は、アメリカの教育界の大テーマで、世界もそれに吸い寄せられている。

いまの世の中には、コントロールできないものが多すぎる。Makeのカルチャーは「コントロールできるものを自分たちの手に取り戻そう」という考え方だが、政治や経済は自分たちでコントロールできない。だが、ものを作るということは自分でコントロールできる。この「自分な何かをコントロールできる」という想いを抱くことを、メイカーはとても大事にしている。

自らの手で何かを作ろうとした際、最初は失敗することも多いが、成功や失敗を通じて自分と世界とのつながりが増えていく。自分自身の姿勢が変わっていくことで、家族とのやりとり、コミュニティとのやりとり、そして社会全体が変わっていく。

ガキの頃から「なぜ時計は動くのかな」と思ってつい時計を分解しちゃったり、そこからいろんな仮説を自分でたてたり、あるいは勉強してみたりして、じゃあここに油さすと、ああやっぱり予想通り、ギヤgあスムーズに動くぜ、やった! というレベルの、「なぜ?→仮説→検証→うれしい」という一連の「科学する心」みたいなのがないと、知識だけ教えてもダメなんじゃないか。

「ボビイストの延長線上で新しい製品を作れるようになってきた」といっても、誰でも簡単にできるわけではない。「ものづくりの民主化=やりたい人ができるようになる」とは言われているけど、それは「大衆化=だれでもできる」とは直結しない。

仲間が簡単に見つかるようになった。個人的にはこれが一番大きい要素なんじゃないかと思っている。

深圳に蓄積された、プロトタイプを量産するものに進化させるノウハウや、小ロットでも対応してくれる技術者の集団といったものは、アメリカではすでに失われていて、アメリカ発のスタートアップは持ってないものだ。

STEAMというのは、科学(Science)、技術(Technology)、工学(Engineering)、美的感覚(Art)、数学(Mathematics)を融合した教育法のこと。これまでの教育のような単科目ごとの授業では、生徒に活用イメージがわきにくいという問題を解決するものだ。さらに、定められた課題を解くのではなく、その課題さえ生徒自身が発見して、どのような方法で解決するのかを考え、そのために必要な知識、科学や技術、計算、さらには見た目や使い勝手も含めて、自身で試行錯誤して自分なりの答えを出すことで、科目横断的な知識やスキルを体得できる。

大量生産の時代が終わって、多品種少量生産の時代が来るかもしれない。

深圳がハードウェアスタートアップの聖地になっている。

具体的なアイデアを持って事業を立ち上げたいと思う人たちが集まり、111日間のプログラムで事業を立ち上げる、アイデアを考え、起業プランを考え、実際にプロトタイプを作り、クラウドファンディング(キックスターター)を使って最初の事業資金を集める。その資金を使って最初の製品を作り、出荷する。その最初の成功をテコにして銀行からお金を借り、次の製品を作って出荷する。最終的には上場して大きな利益を得る。

深圳には華強北(ファーチャンベイ)と呼ばれる電気街があり、LEDも電子部品もパチモンのガジェットでも、何でも手に入ります。華強北は、先ほどの街中のビルとは比べ物にならないぐらいのLED看板であふれかえっていまました。言うなれば、秋葉原から「萌え」を抜いて、面積を30倍にして、LEDを100倍にした感じです。

深圳には量産できる環境がある。

一人で一点モノのガジェットを開発するのと、製品として量産するのには大きな差があります。差があるどころか、どう行動したら量産のきっかけがつかめるのかも最初はわかりません。そこに「中国の深圳には工場がたくさんあって、メイカーの量産を手助けしてくれる会社もあるらしい」と噂を聞くだけで、頭の片隅に「量産」という選択肢が生まれます。

アメリカのように国家元首が「DIYが明日のMade in Americaであり、新たな産業を産み出す革命だ」と言ってくれるような国でもなく、シンガポールのように技術に明るいギークな大臣がいるわけでもなく、深圳のようにインディーズ文化を加速させたアクセラレーターもいないのが日本の実情

イノベーションの相当部分は既存のものの組み合わせであり、また多くの人々による小さな改良の積み重ねの成果だ、という見方が強い。

そもそもメイカーズ運動も、今後どうなるかははっきりしない。最近のメディアの扱いを見ると、当初はファブラボなどがしきりに喧伝され、アルドゥイーノなどのマイクロコントローラによるフィジカルなコンピューティングが大きくクローズアップされた。でもそこから近年では急に話がIoTに移行し、まだ大したアプリケーションもない段階でその産業的な可能性ばかりが大風呂敷的に取りざたされるようになっている。その背景のメイカーズ的な活動は、少なくとも一般メディアでほとんど無視されている印象さえある。

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奇しくも、4月28日付の英経済紙Financial Timesが、中国で起きている製造業の革命に関して特集記事を掲載している。中国政府も安かろう悪かろうのコピー製品ばかり作っているという中国製品のステレオタイプイメージを払拭しようと産業ロボットの導入に相当な助成を行っているというのが記事の内容だ。
http://www.ft.com/cms/s/2/1dbd8c60-0cc6-11e6-ad80-67655613c2d6.html

でも、産業ロボットの限らず、中国政府は、メイカーズの聖地として深圳を育てて行こうという姿勢を明確に示している。それが高須さんの本からも読み取れることで、「ものづくり」が日本の良さだと盲目的に信じている日本の政策立案者は、もうちょっと危機感を持ってもいいような気がする。

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