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にわか仕込みの「システム思考」 [持続可能な開発]

先月末で形の上ではそれまで所属していた部署を離れ、海外赴任の準備に入った。とはいえ、実は残している仕事が2つある。2つとも書きもので、これまで僕の頭の中にあったものを吐き出して文章化するというものである。だから、赴任準備期間中とはいえ、前の部署の仕事で時間を割かれているという現実はある。

例年、この時期は裏の神社のイヌシデの木がカイコのような形をした花を大量に付け、花粉をまき散らす。僕はスギ花粉のアレルギーは大したことないが(それでも今年はちょっとひどかった)、このイヌシデ花粉がダメで、くしゃみは続き、流れ出る鼻水で体中の水分が奪われるような感覚に襲われる。先月末から今月最初の週末までが特にひどかった。会社では自分の座席周りの大掃除をやっていて疲れ切ったこともあるが、2日(土)はまったく動けなくなり、医者で薬を処方してもらった。翌3日(日)は大雨でイヌシデの花がすべて散ったので、症状は多少改善されたが、依然血行不良で下肢の冷えと頭痛が治らず、引き続き自宅で療養した。お陰で自宅PCにベタ張りとなり、懸案の書きものの片方は相当進んだ。次の4日(月)にずれ込んだが、ほぼ書き上げた。細部の見直しと論文要約を新たに付け加え、実際の提出は7日(木)となった。

実はこの作業、単に思っていることを書き出せばいいというものではなかった。体調が良くなかった週末は、それでも書き進めようという意欲だけはあったので、自分の論旨を裏付けしてくれる参考文献はそれなりに再確認のために読み直したりもした。その1つは以下の本の中にある1章だったが、それを今改めて読み直してみて、自分が最近何気なく接していた我が社の業務の1つが、実は「システム思考」に由来するものだということを初めて知った。

Catalyzing Development: A New Vision for Aid

Catalyzing Development: A New Vision for Aid

  • 編著者::Homi Kharas, Koji Makino, Woojin Jung
  • 出版社/メーカー: Brookings Inst Pr
  • 発売日: 2011/06/21
  • メディア: ペーパーバック
Some may dispute the effectiveness of aid. But few would disagree that aid delivered to the right source and in the right way can help poor and fragile countries develop. It can be a catalyst, but not a driver of development. Aid now operates in an arena with new players, such as middle-income countries, private philanthropists, and the business community; new challenges presented by fragile states, capacity development, and climate change; and new approaches, including transparency, scaling up, and South-South cooperation. The next High Level Forum on Aid Effectiveness must determine how to organize and deliver aid better in this environment.

Catalyzing Development proposes ten actionable game-changers to meet these challenges based on in-depth, scholarly research. It advocates for these to be included in a Busan Global Development Compact in order to guide the work of development partners in a flexible and differentiated manner in the years ahead.

「システム思考」って何だ?――なんとなく、それをうやむやにした状態で自分の論文の中で言及するわけにもいかず、かといって論文の中で描きたかった最近のトレンドをうまくまとめた言葉が思い浮かばなかったので、何かパンチの効いたキーワードが欲しかった。「システム思考」はまさに僕が探していたキーワードだ。

入門! システム思考 (講談社現代新書)

入門! システム思考 (講談社現代新書)

  • 作者: 枝廣淳子・内藤耕
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2007/06/21
  • メディア: 新書
内容(「BOOK」データベースより)
英語の学習法から会社の売り上げアップ、組織の活性化から街の安全対策、そして地球環境問題の改善まで。いずれもひとつの視点だけでは解決できない難問をシステム全体を見ることで解く方法を見つけ出す。米国MITで確立され、多くの「学習する組織」で採用されているいまの時代の問題解決法「システム思考」。

そこで、多少なりとも「システム思考」とは何かを知っておこうと考え、市立図書館で急遽借りて読んだのが『入門!システム思考』だった。

「システム思考」の問題意識とは、次のようなものかと思う―――。

現実世界では、全体を見ようとして行動している自分も、実は全体の中の1つであり、自分の体をはずして全体を観察することはできない。全体を理解するには、行動をとおして、かつ周辺の理解をつなぎ、そして積み上げていく方法しかないのである。つまり、もし森全体を見ようと思うならば、個々の木を見るのではなく、森の中を歩き回り、多様な視点から森を観察し、それぞれ見たものの関係を頭の中でつなぎながら、少しずつ理解の幅を広げていく必要がある。
 これまでやったことのない新し事業を開発するときも同じである。自分が理解している範囲内で一生懸命考え、1人で事業計画を立案し、その事業を成功に導くことはできるかもしれない。しかし、このような方法ではリスクが高く、結果として事業が失敗する可能性のほうが高いのは明らかである。(p.54)

よく、「部分最適」とか「全体最適」とかいった言葉を耳にするが、部分最適が全体最適を保証するものではなく、良かれと思ってしたこと(あるいはしなかったこと)が、全体を良からぬ方向に導いてしまうということなのだろう。

また、この話が示唆するところは昨年9月に国連で採択された「持続可能な開発目標(SDGs)」にも通じるものがある。この策定プロセスには国連加盟国は先進国・途上国を問わず広く参加したし、政府だけじゃなく市民社会組織や研究者、民間企業など、幅広いアクターがステークホルダーとして参加し、それぞれの意見を表明した。地球全体のシステムに関わるような問題を、一部のごく限られた人々が頭の中で考え、処方箋を書いても、思わぬところで矛盾があらわになって、全体としてはうまく機能しなくなるようなことも考えられる。「システム思考」はそれを諫めているようだし、異なるバックグランドの人をプロセスに参加させて、全体最適化を実現させようとする方法論を提示してくれているようにも思える。

個別に問題点を抽出し、その1点の修正を通じて解決を目指す分析的思考だけでは、むしろ問題がどんどん拡大し、抱えている悪循環から抜け出せなくなる。そこで、やはり「自分の目の前だけではない考え方」をする必要が出てくる。
 そこで出てくるのがシステム思考だ。
 自分が何か問題を抱えたとき、その問題を解決するために何か行動しようとするとき、その目的に向かって全体から問題を考え、それまでと違う視点、または多くの視点からその問題を考え、さらにシステム全体を再構築するプロセスに、システム思考は大いに役に立つのである。(p.67)

著者によると、システム思考は人の行動様式をどうやったら変えられるかという示唆も与えてくれるものだという。その戦略は3つあり、①新しいものをしっかり宣伝すること、②古いものを批判すること、③新しいものを取り入れたいと思っている人のコストや犠牲を小さくすること、なのだという(pp.162-163)。

 システム思考とは、目の前のことだけではなく、物事のつながりや全体像に着眼し、そのつながりから生じる長期的な影響を視野に入れて考えるアプローチである。とりわけ変化が加速度的に進みつつある今の時代において、変化に翻弄されるのではなく、変化を読み、予期し、さらには自ら作り出せる能力が、企業にとっても社会にとっても、そして個々人にとっても、非常に重要になりつつあることが、しかり認識されているのである。(p.175)

入門と銘打っているだけあって、入門書としてはありがたい1冊である。ただ、個別具体例の話も盛り込んでいるわりに、書籍紹介欄でも喧伝しているような「地球環境問題」の解決法について、何か具体的に示しているのかというと、実はそれはない。物事のつながりや全体像に着眼しろといわれたら地球環境問題なんかはその通りだと思うが、それではシステム思考と分析的思考とで、地球環境問題の捉え方がどう異なるのか、システム思考だったらどんな処方箋を描くのかが明確ではない。煽っておいてそりゃないなぁと苦笑させられる。

とはいえ、本書を読んで意外な収穫もあった。それは、共著者の1人が僕の20年以上前の職場の関係者であったことだ。当時僕の会社に別の会社から出向で来られていた。その後僕の米国駐在時にも出向先でたまたまご一緒して、食事したりしていた。それから15年以上音信不通だったが、こういう本を書かれるようなお仕事をされていたのですねというのを初めて知った。ご活躍の様子で何よりだ。

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