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『きみはサンダーバードを知っているか』 [読書日記]

きみはサンダーバードを知っているか―もう一つの地球のまもり方

きみはサンダーバードを知っているか―もう一つの地球のまもり方

  • 作者: サンダーバードと法を考える会編
  • 出版社/メーカー: 日本評論社
  • 発売日: 1992/11
  • メディア: ハードカバー
内容(「BOOK」データベースより)
平和とは、戦争がないことだけを意味するのではない。抑圧、貧困、飢餓、疾病、環境破壊、放射能汚染など。人間の存在をおびやかす「構造的暴力」があるかぎり真の平和はありえない。日本国憲法は「全世界の国民」に武力なき国際貢献の道を提示した。そして、いまこそその理念を具現化するときがきたのである。

今から20年以上前に出たこの本のことを知ったのは、10月25日付の東京新聞(中日新聞)の社説による。この社説がいつまでウェブ公開されているのか分からないので、全文をテキストで転載しておきたい。僕がこの社説を全面的に支持しているかどうかは別として、本書を読もうと思った動機はここにあるということでお許しを。

安保法を問う 甦れサンダーバード

 安全保障関連法の運用で自衛隊の「国際貢献」も一変しそうです。そもそも平和憲法にかなう国際貢献とは。伝説の“救助隊”に重ねて原点をたどります。
 待ちわびた往年のファンも多かったでしょう。今月からNHK総合テレビで始まった「サンダーバード ARE GO」(毎土曜日夕)は、不朽の人形劇版が英国で1965年(日本は66年)に初放送されて五十周年を記念した新シリーズです。時代設定は2060年の近未来。トレーシー一家五兄弟による「国際救助隊」の活躍が斬新なアニメ版で甦(よみがえ)りました。
 非軍事でいかなる国家にも属さず、支援も受けない。あらゆる難事も分け隔てなく地球を守るという究極の国際貢献。サンダーバードの衰えない人気の一因は、この誰にも分かりやすい政治的中立の精神にあるのかもしれません。
 今日、安保法が成立した日本では、自衛隊の活動範囲が海外派遣や武器使用において一気に広がります。安保法の源流をたどれば一つには、1992年、カンボジアの国連平和維持活動(PKO)で自衛隊の本格的な海外派遣に道を開いたPKO協力法に行き着くでしょう。冷戦後、日本の国際貢献の一翼を自衛隊が担うことになった大きな岐路でした。
 安保法と同様、「違憲」世論が渦巻く中、PKO協力法が成立した直後、協力法に反対する若手憲法学者らが出した本が当時、話題を呼びました。
 『きみはサンダーバードを知っているか-もう一つの地球のまもり方』
(サンダーバードと法を考える会編、日本評論社)
国際貢献と専守防衛
 編集を主導した水島朝穂・広島大助教授(当時、現早稲田大教授)が巻頭で強調したのは、憲法前文の「平和のうちに生存する権利」の対象が、日本国民のみならず、「全世界の国民」に等しく向けられていることです。平和憲法下の日本だからこそ、果たすべき「平和的国際貢献」があると。
 具体的には、率先して自衛隊の軍縮を進め、それに代わるサンダーバードのような人命救助優先の専門組織をつくる。国家単位でも同盟関係でもない。貧困や飢餓や環境破壊など人類平和を脅かすさまざまな災禍から、地球全体を守る志を問いかけたものでした。
 自衛隊に頼らない国際貢献なんて-。安保法制下の今では、ほとんど空疎な非現実論と、取り合わない人もいるでしょう。
 しかし、思い返すまでもなく、自衛隊はもともとは専守防衛です。海外に出ること自体、その一線を越えて、違憲の「武力行使」につながると考えたのが、私たちの平和主義の原点だったはずです。
 現にPKO以前、海外の被災地に派遣される国際緊急援助隊(87年法制化)の構成から、自衛隊は当初外されていました。それは日本の国際貢献に、非軍事の「サンダーバード精神」が宿った一時期でした。同時に、自衛隊の海外派遣に当時の人々が抱いた強い忌避感の表れでもあります。
 いま思えば、問題のPKO協力法でさえも、武力行使とのそしりを受けないよう、一定のタガがはめられていました。
 こうしてギリギリ守り継がれた平和主義の抑制も、しかし今回の安保法成立で水の泡です。しかも政府は成立直後から、法律の初運用で、南スーダンPKOの任務に「駆け付け警護」を追加する検討を始めました。
 PKOの国際舞台で、実際には20年以上武器を使わず信頼を積んできた自衛隊が、文民救出などの際に武器を使える部隊に変貌します。無論、戦闘にも巻き込まれやすくなるでしょう。
 あのサンダーバード精神に立った平和的国際貢献の理想に照らせば、およそ対極の「武力行使」の域に足をかけた自衛隊の現実です。
 「国際貢献」のPKOがなぜ、はるか対岸の「駆け付け警護」にまで流れ着くのか。私たちはやはり平和主義の原点に立ち返って、この巨大な乖離(かいり)を肝に銘じておくべきでしょう。それが、安保法の運用にあたって、政府のなし崩しを阻むときの力にもなるはずです。

2040年「地球戦争」
 さて17日、新シリーズの第3話は、宇宙往還機サンダーバード3号を操る末弟アランが、宇宙ゴミの中に漂う追尾式機雷の除去に苦闘する話でした。この宇宙機雷は、2040年に起きた「地球戦争」の置き土産だったとか。
 四半世紀先の次世代に「地球戦争」が起きぬよう、戦争につながる火種を残さぬよう、現世代がなすべきこと。本当はそれこそが、今の日本政治が取るべき真の国際貢献の道なのでしょうが。
http://www.chunichi.co.jp/article/column/editorial/CK2015102502000111.html

この社説の論拠は本書であるので、本書の紹介をするのにはこの社説でも十分かなと思う。ただ、実際のところ図書館で借りて読んでみると、この本はタイトルや装丁とは似ても似つかない、自衛隊とPKO協力法について論じられた本なのである。要するに自衛隊のPKO活動は危険で、自衛隊などという軍隊ではなくサンダーバードのような「非武装」の平和組織を作るべきだというもの。

このテーマを深掘りしている余裕はあまりないし、僕の立場をここで明確にするのは差し控えたい。ただ、全面的にこの本に依って国際貢献を論じるのはリスクもあるように思う。

この本の著者も本文中で認めておられるように、サンダーバードのメカが完全に非武装かというとそうではない。「非武装を一貫できなかった点はサンダーバードの時代的制約をあらわしている」という苦しい言い訳が書かれているけれど、ここは今の紛争当事国の情勢を考えたら今の方が難しい。今の方が制約が多いんじゃないだろうか。社説にある「非軍事による『サンダーバード精神』」というのは言い過ぎのように思える。

先日ご紹介した『聞き書 緒方貞子回顧録』も、読んでいるとPKOは完全とは言えないけれども紛争の抑止力になり、人命の保護、人間の安全保障の確保につながっていたとするくだりがあった。緒方先生は人命の救助を最優先で考えれば、PKOを認めておられたのだと思う。

また、緒方先生は難民や国内避難民の保護の観点から次のように述べておられる。
難民や避難民の保護から人間の安全を考える私には、「保護する責任」は積極的介入論に見えるのです。いまの世界においてそれは無理だと思います。どこの場所にでもすぐに飛んでいくような義勇軍なんていないでしょう? 最終段階の軍事介入だけ取り上げるのは公平でないかもしれませんが、それを正面に打ち出した「保護する責任」は、義勇軍の存在を前提にした、やや空想的な議論ではないでしょうか。法的アプローチは、介入に対する関心が強すぎる気がします。軍事介入以外にやるべきこと、やれることはたくさんあるのに……。(p.244)
サンダーバードが「義勇」だとは言えないかもしれないが、もし今の世の中にサンダーバードが実在していたとしたら、難民や国内避難民の救助や保護、ISの攻撃に晒されながらも逃げることすらままならずシリア国内に残っている人々の救助や保護に対して、どのように取り組めたのだろうかとふと考えた。

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