『恋するソマリア』 [読書日記]
内容紹介『謎の独立国家ソマリランド』に続く、高野さんのソマリアシリーズ第2弾。最近、『世界の辺境とハードボイルド室町時代』という対談録まで出版されていて、これが結構面白いとうちの妻ですら知っているくらいである。その近刊に行く前に、『恋するソマリア』は読んでおかねばと思った次第。(単に、図書室でうまい具合に借りられたからというのが実態だけど。)
アフリカ大陸の東端に広がる“世界一危険な地"ソマリア。そこには、民主国家ソマリランドと海賊国家プントランド、内戦が続く南部ソマリアがひしめきあい、現代のテクノロジーと氏族社会の伝統が融合した摩訶不思議なソマリ社会が広がっていた。西欧民主主義国家とは全く異なる価値観で生きる世界最大の秘境民族=ソマリ人に夢中になった著者は、ベテランジャーナリストのワイヤッブやケーブルTV局の支局長を勤める剛腕美女ハムディらに導かれ、秘境のさらに奥深くへと足を踏み入れていく。ある時はソマリランド初の広告代理店開業を夢想。ある時は外国人男子にとって最大の秘境である一般家庭の台所へ潜入し、女子たちの家庭料理作りと美白トークに仲間入り。ある時は紛争地帯に迷い込み、銃撃戦に巻きこまれ……。もっと知りたい、近づきたい。その一心で台所から戦場まであらゆる場所に飛び込んだ、前人未到の片想い暴走ノンフィクション。
前作同様、とにかく面白い。前作を読んでから1年半以上経過しているので、本書を読む際にはほとんど予備知識はゼロ状態で、新鮮な驚きと笑いがあった。さすがは紀行文にエンタメ性を加味する高野さんだ。
ただ、前作で著者が「超速」と形容したように現地のソマリ人の言葉や行動はとてつもなく速いだけでなく、前作以降の情勢の変化もまた急激である。今回ソマリランドとソマリアを訪ねるのに高野さんが頼ったつては現地のケーブルテレビ局のネットワークだが、ソマリランドにある本局で最も頼りにしていた盟友は本書がカバーしている期間中にテレビ局を辞めて日刊紙を新たに立ち上げてしまったし、ソマリアの首都モガディシオの支局のスタッフたちも、政府への批判的な報道姿勢があだになって常に銃撃を受ける危険にさらされており、本書の執筆期間中にも、1人は撃たれて重傷を負い、1人は偽造パスポートを手に国外脱出を企て、ノルウェーで難民認定を受ける展開にもなった。
情勢の変化は非常に速く、高野さんが現地で経験したこともあと5年もしたらまったく意味をなさなかったりするかもしれない。
石井光太さんの『幸せとまずしさの教室』を紹介した直後のブログで高野さんのエンターテインメント紀行というのは特に意図があるわけではないが、いずれも現地で住む人々の描き方には悲壮感というのはなく、むしろ与えられた状況の中で淡々と暮らしている様子が窺える。目つきが厳しい現地の人も多いけれど、穏やかな表情の人もけっこういて、ソマリアのように紛争状態で我々の渡航に制限が設けられているような国であっても、日々恐怖と常に背中合わせというわけでもないらしい。
日本に入って来るアフリカの情報といったら外国メディアによるスクリーニングもあって、ポジティブなニュース素材よりも凄惨さや悲惨さを煽って同情を呼ぼうとするニュースがどうしても多くなる。そこに高野さんのような肩の力の抜けたノンフィクションがあると、少しはホッとする。
お久しぶりです。わたしは「世界の辺境とハードボイルド室町時代」の感想を先ほどアップして、あちこちにお邪魔していたらSanchaiさんのエントリーを発見しました。偶然ですね。
とにかくこのシリーズは面白いです。なかなか知ることのできない辺境について、高野さんという個人の視点を通してではありますが、生の姿を知ることができるのはありがたいことだなと思います。
by カオリ (2015-11-14 20:22)
カオリさん、コメントありがとうございました。
『世界の辺境とハードボイルド室町時代』読まれたんですね。羨ましいな。
日本史も多少かじっているので、ソマリアの話を読んでいると、
まるで昔の日本だなというのはずっと感じていました。
早く読みたいです。
by Sanchai (2015-11-15 06:50)