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『ゲリラと森を行く』 [インド]

Touch the GOND 巡回展【東京・表参道】
 ゴンド画(GOND ART)は、インド中央部マディヤ・プラデーシュ州の先住民族によって描かれる伝統的な民族画です。元々は家の外壁に描かれていた絵ですが、ここ数十年の間に紙やキャンバスの上で表現されるようになりました。
 ゴンド画の特徴は民族に伝わる神話や寓話、森の動植物をかたどったユニークなモチーフと、その中に敷き詰められる繊細なパターン模様。
 伝統的な絵画でありながらモダンでポップなゴンド画は、昨今ヨーロッパを中心に現代アートとしても紹介されてきました。世界的に有名なシルクスクリーンの絵本「The night life of trees」(Tara Books/邦訳「夜の木」)など、ゴンド画を挿絵にした絵本も数多く出版されています。
 Touch the GOND3度目となる本個展では、東京・表参道、京都・祇園の2ヶ所で開催いたします。国内外で活躍する約20名のゴンド画家達による原画、絵本・グッズを展示販売する予定です。
tumblr_nwb5pwn8pQ1tdm7mso1_250.jpg この機会に、ぜひお立ち寄りください。
 皆様のお越しを心よりお待ち申し上げております。

【東京・表参道】
◆日時:2015年11月14日(土)~11月19日(木) 
   12:00-21:00(最終日は19:00まで)
◆ギャラリー:Haden Books
◆住所:東京都港区南青山4-25-10南青山グリーンランドビル
◆アクセス: 表参道駅A4出口より徒歩5分
Touch the GOND URL: http://www.gondart-india.com/

インド駐在時代の知人から紹介され、表参道で開催される絵画展に行ってみることにしている。マディア・プラデシュ州の東部山間地の先住民がこうした民族がを描いているというのは全然知らなかったので、実際に見るのが楽しみだ。こういう伝統的な文化は、他の社会との交流が始まると、なかなか継承されにくい。近代化の大波の中で駆逐され、文化の多様性も失われて行ってしまうのは残念なことだ。

さて、そのゴンド族をはじめとするインド先住民族であるが、インドの本がこれだけいろいろと出ているのに、先住民族について紹介されている本は日本では少ない。さらに、この先住民族が住むインド東部の山岳地帯を拠点にゲリラ活動を続けている反政府勢力について書かれた本も、実は日本では少ない。国土が広いだけに、邦人があまり住んでいないこの地域について触れた本が少ないのは致し方ないところかもしれないが、それも知らないでインド通とはなかなか認めにくい。

そんな中で、英ブッカー賞を受賞した小説家で市民活動家でもあるアルンダティ・ロイの著書で、最も最近日本語訳が出版されたのが、2013年5月の『ゲリラと森を行く』である。原作は2011年6月に出たエッセイ集『Broken Republic』だ。


ゲリラと森を行く

ゲリラと森を行く

  • 作者: アルンダティ・ロイ
  • 出版社/メーカー: 以文社
  • 発売日: 2013/05/23
  • メディア: 単行本

内容(「BOOK」データベースより)
グローバル資本の最大の犠牲者=抵抗者。経済発展を謳歌するインドで、掃討すべき「脅威」と名指させる「毛派」とはどんな人びとなのか。インドの世界的女性作家が、生きのびるために銃をとった子どもたち、女性たちと寝食、行軍をともにし、かれらが守り守られる森のなかに、グローバル資本から逃れ出る未来を構想する。
冒頭マディアプラデシュ州の先住民の間で広がる絵画の話をしたから、本日紹介する書籍も同じ州の話かと思われるかもしれないがそうではない。本書の舞台はオリッサ(現オディシャ)、チャッティスガル、アンドラ・プラデシュの3州から、北のジャルカンド、西ベンガル州につながる広いエリアの話。登場するのは先住民ドンゴリア・コンドである。

このエリア、インドでも有数の最貧困地域と言っても過言ではない。その認識は昔からあって、現チャッティスガル州南部にあるダンダカラニア地方では、食糧増産を目的とした日本の農業協力も1960年代後半には行われていた。僕がインドに住んでいた頃、このダンダカラニアで行われていた農業開発事業の今を見てみたいと考えたことがあったが、外務省の海外危険情報では「不要不急の渡航はやめて下さい」とされるエリアであり、知合いのインド人にも「絶対やめておけ」とくぎを刺された。このエリアは、東部山岳地帯の中でも最も左翼ゲリラ「ナクサライト」の影響下にある地域であり、外国人がのこのこ出かけると、ナクサライトに誘拐されるリスクが高いと見られている。貧困と暴力が結びつく典型的な構図だ。

僕が駐在していた当時のシン首相は、このナクサライトを「国の安全保障上最大の脅威」というような言い方をしていた。その鎮圧のために、軍や警察が動員されて、ゲリラが潜伏しているとおぼしき村をまるごと焼き討ちにするといった荒っぽいこともやっていた。元々のナクサライトは西ベンガルやジャルカンドなど北の山岳地帯で活動していた人々で、ダンダカラニアやダンテワダといった、チャッティスガル州南部の山岳地帯では明確にゲリラと地元の先住民とは別の人々だったが、このような村まるごとといったゲリラ掃討作戦の遂行は、ゲリラと先住民の境界を曖昧にしてしまう。先住民の若者や女性がゲリラのメンバーになるといった事態も相当に進んでしまい、これが政府側の疑心暗鬼を増幅させる悪循環を招いている。

このため、本書では、こうしたナクサライト敵視を明確に打ち出していたシン首相やチダンバラム内相に対する著者の批判はかなり厳しい。特に、チダンバラム内相はこの地域でボーキサイト鉱山の経営を進めようとしていたヴェダンタ社の法律顧問を務めていた経歴があり、ナクサライト掃討作戦を政府に強気で遂行させる理由があることを著者は指摘している。このあたりが鉱物資源に恵まれていて、伝統的な村落社会の山岳信仰と経済開発とのせめぎ合いの前線にあることは、以前このブログでも紹介したし、篠田節子著『インドクリスタル』も、舞台こそオリッサ州であるとはいえ、こうした葛藤を題材にした稀有な小説である。

そうした政府に対する批判の上に立ち、著者は実際にゲリラの行軍に同行し、一緒に行動する人々の姿を活写し、その生の声を拾い上げている。中央でこうしたゲリラの実態が語られることはほとんどない。マスコミは政府に対して批判的論調もないわけではないが、ことこの辺境地帯で起きている事態については正確な情報を自ら拾うチャンネルを有していないからか、政府発表を鵜呑みにした報道が多く、記者が自身の目でこれを捉えようという意欲的なルポはあまり見かけたことがない。そもそも、ナクサライトの活動活発化の経緯をコンパクトにまとめた文献自体がそれほど多くはないので、本書のルポは極めて貴重だ。

反政府ゲリラというハードな題材を用いながら、その視線はとてもソフトだ。著者自身もどちらかというと経済開発優先主義には批判的で、力によって反政府活動を抑え込もうとする政策にも反対の立場をとっている。しかし、そうした力に対抗するためにゲリラ側が力に訴えることにもあまり好意的ではない。ではゲリラ側が何ができるのかというと、正直なところ本書はあまり具体的な選択肢の提示をしていないように思えた。

勿論、著者が自身の影響力を行使して、こうしたゲリラや先住民の活動や生活をルポし、政府側がゲリラ掃討作戦と言いつつ実際に行われていることの実態を文章にまとめ、インド国内外に向けて発信をしていくことには大きな意味があると思う。少し前に紹介したロイの別の本『民主主義のあとに生き残るものは』の中でも、確かそんなことを本人がインタビューの中で答えていたように記憶している。こうした意図を持った書籍が日本語にも訳され、日本の読者の目にも触れることは、新興国インドの輝かしい経済発展の陰に隠れた辺境地帯の実態を僕たちが知る、よいきっかけになることだろう。

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