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『空色ヒッチハイカー』 [読書日記]

空色ヒッチハイカー

空色ヒッチハイカー

  • 作者: 橋本 紡
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2006/12
  • メディア: 単行本
内容(「BOOK」データベースより)
あれほど憧れ続けた兄貴の背中を追いかけて、18歳の夏休み、僕は何もかも放りだして街を出た。兄貴の残した年代物のキャデラックに免許証。抜けるような夏空。ミニスカートにタンクトップの謎の美女・杏子ちゃんが、旅の相棒。個性あふれるヒッチハイカーたちと一瞬の出会いを繰り返しながら、僕は、ひたすら走り続ける! バカだからこそ、突き進める。真面目だからこそ、迷わない。―究極の青春小説。
橋本紡作品は以前アンソロジー収録の短編で何か読んだ記憶があるが、何だったか思い出せないでいる。いずれにしても、最近文庫化された『流れ星が消えないうちに』を読む前に、橋本作品の1つでも先に読んでみておこうかとふと思い立ち、近所のコミセン図書室を訪れたついでに借りた久々の小説だ。

このところ僕が紹介している本のチョイスをご覧いただければわかる通り、僕は先月のシルバーウィーク前から続いていた仕事のヤマを先週半ばにようやく乗り越え、先週後半から週末にかけてはちょっとした燃え尽き状態となっていた。次のヤマ場は2週間後に訪れるが、仕事自体は週明けからまた忙しくなる。だから週末まで息抜きできるところはちゃんと息抜きしておこうと考え、久々の小説を手に取ったのだ。

あらすじについては既にご紹介の通りなので、これ以上書くとちょっとネタ晴らしになってしまう。先まで読み進めれば明らかになって来る話だが、何故主人公・彰二が年代物の空色のキャデラックで神奈川から九州・唐津に向かったかは予め知っておいても損にはならないだろう。

それは、彰二が11歳の頃に兄に連れられて見に行ったハリウッド映画『ファンダンゴ』に由来する。1985年の作品で、未だ無名だったケビン・コスナーが出演している。丁度映画紹介の動画サイトがあったので、それをご覧頂ければと思う。まさに空色のキャデラックが登場する。


この中で、ケビン・コスナーがシャンパンのボトルを大渓谷に向かって投げ込むシーンがあるが、そこで叫んでいるセリフが、「There's nothing wrong with going nowhere, son. It's a privilege of youth.(あとでもない旅。それは若者の権利だ)」である。まさに、小説の中でも出て来るキーワードだ。しかも、この映画を紹介するWikipediaのページには、この映画のモチーフを、「徴兵・結婚・仕事など大学卒業後に直面しなければならない問題と、それにともなって必然的に訪れる「青春の終わり」から、ひとときの開放と逃避を望む」ことだと表現している。

小説の方では、彰二はそもそもが大学受験を控えた高校3年生で、「青春の終わり」には少しだけ早い。しかし、夏の逃避行から戻れば、受験生としての現実が待っている。ひと夏の開放と逃避というのはその過程で様々な出会いと別れもあり、そういう経験が血となり肉となっていくのであろう。強いて言うなら、国道沿いの風景がどこでもそんなに変わらないことは理解しつつも、もう少し風景の描写が入っていると良かったような気はする。岡崎から栗東に抜けるまでに山道を走って峠越えを敢行していて、そこだけは緑鬱蒼とした森の描写が見られるが、よくよく考えたらこの作者は三重県出身で、このあたりには土地勘があったということなのだろう。

僕が高校時代に憧れていてもできなかったことの1つに、自転車での旅というのがあった。当時僕が住んでいた岐阜から京都までの自転車の旅だったけど、それも実現させられず、高橋三千綱『九月の空』で登場した主人公の小林勇クンが羨ましくて仕方なかった。この作品の彰二クンも、キャデラックでの日本縦断無免許旅行も、できなかった僕としてはとても羨ましい。ましてや助手席に綺麗なお姉さん(ヘビースモーカーなのは玉に瑕)を乗せての旅は、男としてはたまらない。

タグ:橋本紡
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