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SATREPS(サトレップス) [持続可能な開発]

地球のために、未来のために SATREPS―地球規模課題対応国際科学技術協力

地球のために、未来のために SATREPS―地球規模課題対応国際科学技術協力

  • 作者: 小西 淳文
  • 出版社/メーカー: 国際開発ジャーナル社
  • 発売日: 2015/01
  • メディア: 単行本

シルバーウィーク入りしてから続く、科学技術イノベーション(STI)シリーズ、本書を紹介してひと段落ということにしたいと思う。

最初にお詫びしなければいけないのは、昨日掲載した記事の中で、新興国のSTI政策への取組みとの対比で、日本はあまりそのあたりに力を入れていないのではないかと暗に示唆する書き方をしていたが、その後科学技術振興機構(JST)のウェブサイトを少し調べていて、意外とJST自身がいろいろやられているのに気付いた。特に、JSTの運営するサイエンス・ポータルの2015年5月13日付のレビュー「科学技術外交ようやく日本外交の柱に?」というのが目を引いた。

「科学技術外交のあり方に関する有識者懇談会」(座長:白石隆政策研究大学院大学学長)が、9ヵ月あまりの検討結果をまとめた報告書を、5月8日、岸田文雄外相に提出したというもので、記事の大半はこの懇談会の15項目にわたる提言のうち、特に「外務大臣科学技術顧問」を試行的に設置する案を取りあげて論じている。

15項目をここで全て紹介するのが本日の趣旨ではない。ご興味があれば是非懇談会報告書の原文を読んでいただきたいし、僕自身もこの記事にリンクを張って、いつでも閲覧できるようにしておきたいと思っているが、日本でもこうやってSTI政策の拡充を図ろうとの動きがあることについては嬉しいし、それを踏まえずに昨日の記事を書いてしまったことはこの場を借りてお詫び申し上げたい。(反面、巷間騒がれている国公立大学の文系学部廃止の動きについてはいかがなものかと思うけれど。)

さて、話はJSTのレビュー記事に戻るが、そこでは、JSTとJICAが共同で運営するSATREPS(地球規模課題対応国際科学技術協力、サトレップス)について、次のような言及がある。
 科学技術を外交の有力なカードに、という考え方が明確な形で示されたのは、科学技術政策の司令塔ともいうべき総合科学技術会議(現 総合科学技術・イノベーション会議)の有識者議員による2007年の提言にさかのぼる。翌08年には、総合科学技術会議の動きに呼応する形で科学技術振興機構と国際協力機構(JICA)との共同プロジェクト「地球規模課題対応国際科学技術協力プログラム(SATREPS)」が始まった。国際共同研究によって課題を一緒に解決しながら開発途上国の科学技術の向上と自立も支援する、というのが狙いだ。
 SATREPSは、経済開発協力機構(OECD)科学技術政策委員会の小委員会である「グローバル・サイエンス・フォーラム」でも、科学技術と開発援助という2つの目的を持った先進国と開発途上国による極めてユニークな共同研究プログラムだと大きな評価を得ている。
今年5月の「科学技術外交のあり方に関する有識者懇談会」でも、SATREPSは取り上げられており、その実績も評価した上で、「科学技術外交を日本外交の柱の一つに」と、さらに科学技術外交の意義と目的を強調している。

そんなわけで、少しぐらいはSATREPS(サトレップス)のことも勉強しておこうかと思い、読んでみることにしたのが本日ご紹介の1冊というわけ。ただ、本書の大半は、気候変動、大気汚染、森林保全、生物多様性保全、防災(氷河湖決壊洪水、地震・津波、地震・火山)といった分野での個々のSATREPS案件の紹介と、実施中の案件のリストなので、個々の案件を知るのが目的でない僕としては、第1章「SATREPSとは」を読むだけで十分だった。

僕自身は2010年まで駐在していたインドで初めて「SATREPS」という言葉を聞いたが、研究者が当事者となった二国間協力なんだというぐらいでしか思っていなかった(冒頭の記述を読んでいただければさもありなんだ)。その頃に立ち上げられたプロジェクトでは、そろそろ成果も出てきているものもあるようで、個別のプロジェクトは関係者の間ではそれぞれ評価が高いらしい。でもそこから問題となるのは、その共同研究の成果を社会実装につなげていくかだ。

JSTの理事長は、本書の帯のPR文の中で「日本の研究開発力とODAの連携による科学技術外交のフラッグシッププログラム」と表現している。でも、研究成果の社会実装というのは、ここでいう連携のうち、どちら側の責任になるのかがちょっと曖昧な印象を受ける。プロジェクトに参加する研究者の側では、「我々の責任は研究の成果をあげること」だと言われるだろうし、ODAの側でも、社会実装に関する関係者への働きかけを全て背負わされても、性能をちゃんと承知していない商品を売り込むようなもので、マーケティングに迫力がない。ODAの側でもチャレンジングだが、研究者も研究の枠内に留まっていていいというものでもなさそうな気がする。

著者が本書を書いた意図は、こうした個別案件で出始めた成果を社会実装につなげようとする取組みを具体的に紹介しつつ、これに関わる全ての人々に、SATREPSが科学技術外交を推進するプログラムなのだという意識をより強く持ってもらいたかったからだろう。ただ、欲を言うと、2015年1月発刊というタイミングを考えれば、「持続可能な開発に向けた2030年アジェンダ」即ちSDGsの議論が国際社会で既にスタートしていた時期でもあったので、それとの関連でのSTIの重要性、SATREPSの意義をアピールしてもらえたら、読者の理解促進にはもっとつながったことだろう。なにせ僕自身も、持続可能な開発の文脈でSTIの重要性に気づき、そこからSATREPSを見るようになった人間である。

繰り返しになるが、本書はこのプログラムのPR本、カタログのようなものらしく、異なる案件に関する記述をドッキングさせて1冊の本にしている。読者の関心によっては興味深い記述もあれば、そうでない記述もあるだろう。僕自身も、こう書きながらも、実は特定の大学がどんなプロジェクトに関わっているのかを知るのにちょっと参考になった。同様に、理系志望でこれから大学受験に臨むうちの長男にとっては、自分の志望大学が海外でどんな共同研究プロジェクトをやっているのかを知るのにちょっとは参考になる本だと思う。親の立場からすれば、こうやって地球規模の課題への対応策について、社会実装を意識して国際的な共同研究に取り組んでいる大学、言い換えれば社会に役に立つ研究を行っている大学に、子供達を行かせたいと思う。

最後に、そうはいっても、SATREPSのミソはその研究の成果をどれだけ論文という形で世に問うているかにある。SATREPSも制定から5年以上が経過しているわけで、本書で具体的に紹介されたプロジェクトでは、どんな論文がこれまで書かれたのか、それがわかるような巻末資料があったりすると本当は良かった。あるいはそれが一覧できるウェブサイトでもあるといい。勿論、自分の情報収集努力が未だ足りないだけで、実際は既に存在しているのかもしれないが。

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